2011年発売
博奕に溺れたせいで夫婦別れしたおきくが、半年ぶりに訪ねてきた。再婚話の相談で、もう自分には関係ないと一旦は突き放す民次だったが、相手がまぎれもないやくざ者と分かるや、危険を顧みず止めに出る…雪降る江戸深川の夜の橋を舞台に、すれ違う男女の心の機微を哀感こめて描いた表題作他八篇を収録。
北新地のホステスと欧州視察旅行に出かける理事長を誘拐した美術講師の熊谷と音楽教諭の菜穂子。私学助成金の不正受給をネタに正教員の資格を得ようとするが、二人を操る黒幕の狙いは理事長の隠し財産だった。教育現場の闇は百キロの金塊に姿を変え、悪党たちを翻弄する。元高校教師の著者が描く痛快ミステリー。
「大きくなること、それは悲劇である」。この箴言を胸に十一歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。
神田須田町の大店を焼け出され、浅草御厩河岸に越してきた十七のおちえ。失意の日々の折々に大川を眺めるのは、水の流れがやる瀬ない気持ちをなだめてくれる気がするから…。情緒豊かな水端を舞台に、たゆたう人々の心模様を描いた宇江佐流人情譚。大好評の前作『おちゃっぴい』の後日談も交えて、しっとりと読ませます。
転校が決まった“相棒”と自転車で海へ向かう少年たちの冒険「僕たちのミシシッピ・リバー」、野球部最後の試合でラストバッターになった輝夫と、引退後も練習に出続ける控え選手だった渡瀬、二人の夏「終わりの後の始まりの前に」など一瞬の鼓動を感じさせる「季節風」シリーズの「夏」物語。まぶしい季節に人を想う12篇を収録。
青空に立つ一本の白い風車。小学生が空想で描いた絵がなんの特色もない北海道の海沿いの町を揺るがした。観光客をあてこむ町の発注した無謀な風車の計画が、荒れ果てた鉄工所に活気を、親友や肉親の死から行き場を失った青年・優輝の心にも新しい希望を点していく。大災害小説の第一人者による、「ポスト原発」時代の再生物語。
「カジュアル・フライデー」に翻弄される課長の悲喜劇を描く表題作、奇矯な発明で世の中を混乱させるおもちゃ会社の顛末「犬猫語完全翻訳機」と「正直メール」、阪神ファンが結婚の挨拶に行くと、彼女の父は巨人ファンだった…「くたばれ、タイガース」など、ブームに翻弄される人々を描くユーモア短篇集。
進学校に通う陸には本当の友がいない。校内模試の順位に一喜一憂する日々のなか、幼なじみの嘉人を思い出す。中学の頃、乱暴な他校生から守ってくれた奴。札つきのワルだった。潔癖で繊細な少年たちの交流がひかる傑作「大富橋」ほか、水の都・深川で昨日と少し違う今日を生きる彼と彼女を描く秀作六篇。
南米の富豪ルノーが滞在中のフランスで無惨に刺殺された。事件発生前にルノーからの手紙を受け取っていながら悲劇を防げなかったポアロは、プライドをかけて真相解明に挑む。一方パリ警視庁からは名刑事ジローが乗り込んできた。たがいを意識し推理の火花を散らす二人だったが、事態は意外な方向に……。
東京・雑司ヶ谷霊園の裏に教会を構える神霊壽血教。教主・印南尊血の様子がおかしいとの相談を受け、心理学を学ぶ大学院生・夷戸武比古は教会を訪れる。あらゆる用事を放り出して、ひたすら観覧車に見入る教主に戸惑う夷戸、やがて教主の娘が密室で変死を遂げ、血塗られた惨劇の幕が切っておとされる。吸血神・ストリゴイを崇拝する奇怪な教団に巣食う邪悪な殺意に、心理学的推理で挑む夷戸。総本部教会でくり返される自殺の連鎖。だがー探偵小説とB級ホラー映画をこよなく愛する新鋭が贈る傑作心理学ミステリー。
その夜ー。関沼慶子は散弾銃を抱え、かつて恋人だった男の披露宴会場に向かっていた。すべてを終わらせるために。一方、釣具店勤務の織口邦男は、客の慶子が銃を持っていることを知り、ある計画を思いついていた。今晩じゅうに銃を奪い、「人に言えぬ目的」を果たすために。いくつもの運命が一夜の高速道路を疾走する。人間の本性を抉るノンストップ・サスペンス。
轢き逃げは、じつは惨殺事件だった。被害者は森元隆一。事情聴取を始めた刑事は森元の妻、法子に不審を持つ。夫を轢いた人物はどうなったのか、一度もきこうとしないのだ。隆一には八千万円の生命保険がかけられていた。しかし、受取人の法子には完璧なアリバイが……。刑事の財布、探偵の財布、死者の財布ーー“十の財布”が語る事件の裏に、やがて底知れぬ悪意の影が!
亡き両親が残したビデオを見た智子は、かつて自分に特殊な力があったことを知る(「朽ちてゆくまで」)。わたしは凶器になれるー。念じただけで人や物を発火させる能力を持つ淳子は、妹を惨殺された過去を持つ男に、報復の協力を申し出る(「燔祭」)。他人の心が読める刑事・貴子は、試練に直面し、刑事としての自分の資質を疑ってゆく(「鳩笛草」)。超能力を持つ三人の女性をめぐる三つの物語。
青木淳子は常人にはない力を持って生まれた。念じるだけですべてを燃やす念力放火能力ーー。ある夜、瀕死の男性を「始末」しようとしている若者四人を目撃した淳子は、瞬時に三人を焼殺する。しかし一人は逃走。淳子は息絶えた男性に誓う。「必ず仇はとってあげるからね」正義とは何か!? 裁きとは何か!? 哀しき「スーパーヒロイン」の死闘を圧倒的筆致で描く!
青木淳子は常人にはない力を持って生まれた。念じるだけですべてを燃やす念力放火能力ーー。ある夜、瀕死の男性を「始末」しようとしている若者四人を目撃した淳子は、瞬時に三人を焼殺する。しかし一人は逃走。淳子は息絶えた男性に誓う。「必ず仇はとってあげるからね」正義とは何か!? 裁きとは何か!? 哀しき「スーパーヒロイン」の死闘を圧倒的筆致で描く!
一たんは魏王の爵位を受けた曹操であったが、奇策を駆使する孔明の前に敗色濃く、遂に漢中を捨てた。それを見るや諸侯もすべて降伏。蜀の勢いは大いに上り、「わが君はおん年五十をこえ、仁義のほまれ高く」と孔明、劉備に皇帝の位につくことをすすめる。
亡くなった文豪の伝記執筆を託された友人から、文豪の無名時代の情報提供を依頼された語り手の頭に蘇る、文豪と、そしてその最初の妻と過ごした日々の楽しい思い出…。『人間の絆』『月と六ペンス』と並ぶモーム(一八七四ー一九六五)円熟期の代表作。一九三〇年刊。