2011年発売
私は内気な女子ですー無言でそう訴えながら新しい教室へ入っていく。早く同じような風貌の「大人しい」友だちを見つけなくては。小学五年の律は目立たないことで居場所を守ってきた。しかしクラス替えで一緒になったのは友人もいず協調性もない「浮いた」存在の塚本瀬里奈。彼女が臆病な律を変えていく。
名パイロット、引退の日。三十七年間空を飛び続けてきた男は最後のフライトで、父に憧れ同じ種に就いた息子を副操縦士に指名。最初で最後の父子同乗フライトに臨む。無事に終わってさえくれればとの願い空しく、NYを離陸後、最悪のトラブルが発生し…。元航空機関士が自らの経験を元に描いた処女小説。
桃園で供物をととのえた三人は、再拝して誓いの言葉を述べる。「ここに劉備、関羽、張飛の三人、兄弟の契りを結び、心を一つにして力を合わせ、苦難にあい危険にのぞむものを救けて、上は国家の恩にむくい、下は民草を安らかにしたい」と。
ブリギッタは、醜く生まれ、心が頑なになってしまったが…。愛のすれ違いと交わりを描いて胸打つ「ブリギッタ」。少年少女にそそがれる大人の愛情と、それによって育まれる心を描く「荒野の村」「森の泉」。シュティフター(一八〇五ー一八六八)の愛をめぐる物語三篇。
渡り鳥協会の大会で賑わうホテルの女性オーナー、ラークには気掛かりがあった。友人のカフェ店主エスターがホテルへのコーヒー豆の納入を、突然停止したのだ。その件を話し合う前に、バードウォッチングをしていたラークは、エスターが殺されるのを望遠鏡ごしに目撃してしまう!“野鳥に優しい”有機栽培コーヒーを商っていた彼女はなぜ殺された?鳥づくしのシリーズ第二弾。
死神にやられたとの言葉に首をひねる表題作を皮切りに、先行きを危ぶまれていた噺家二人が急に上達する「無口な噺家」、元名物編集長の安楽椅子探偵譚「幻の婚礼」、牧&緑コンビ定番の張りこみで決する「へそを曲げた噺家」、『幻の女』ばりに翻弄される「紙切り騒動」の五編を収める。編集長に頼ってばかりはいられない、間宮緑探偵孤軍奮闘の巻も微笑ましい、好評シリーズ第三弾。
愛しいアッシュリンはサマーコートの女王。夏至が近づくにつれ、サマーキングに強く惹かれてしまうことは覚悟していたはずだった。それでもセスは人間である自らに対し、いらだちをおさえられなかった。永遠の命さえあれば。だが人間を妖精に変えることができるのは、ハイコートの女王だけ。コート間の思惑が、恋人たちを翻弄する。ロマンティック・ファンタジーの決定版第3弾。
謎解きだけを専門に扱う探偵事務所に持ち込まれた六つの事件を、探偵・古谷が鮮やかに解決!メールのやりとりから夫の浮気をあぶり出す「卵消失事件」、三つの和歌からお宝を掘り当てる「兎の暗号」、差出人不明の手紙から父の居場所を見つけ出す「別荘写真事件」など、『イニシエーション・ラブ』『リピート』で大反響を巻き起こし、練達の愛好家を唸らせつづける著者の連作短篇集、待望の文庫化。
選手、球団、マスコミ…。すべてを操る全能の代理人、善場圭一登場。金の亡者と忌み嫌われ「ゼニバ」と蔑まれる代理人、善場。だが選手の盾となって悪役に徹する姿勢で絶大な信頼を集めている。古い慣習に縛られた球界に新風を吹き込む彼は改革者か破壊者なのか。
夜間勤務のために恋人もできず、寂しい私生活を送る検視官レイチェル。彼女はある晩、安置所に運ばれてきた謎の男の“遺体”が蘇生するのを目撃するが、驚くのもつかの間、突然押し入ってきた暴漢から男をかばって致命傷を負ってしまうー。彼女が意識を取り戻すと、そこは見知らぬ部屋で傷はすっかり癒えていた。さらに、例の男が元気な姿で現われて戸惑うレイチェルだったが、エティエンと名乗る彼の美しさと不思議な魅力に惹かれてしまう。だがそこで、彼女の人生を揺るがす衝撃の事実を告げられて…。
安房勝山の菜種農家の末娘・二三は、五歳にして江戸深川の油問屋に養女として貰い受けられる。生家の母親譲りのてんぷらの腕、持ち前の気丈さで、江戸の町に馴染んでゆく。やがて、大店の跡取りとして逞しく成長した二三を、新たな苦難が見舞う。いくつもの悲しみを乗り越えた先に、二三が見たものとはー。涙の後に爽快な、人情時代小説。
テレビ局に勤める早川俊平はある日公園で耳の不自由な女性と出会う。音のない世界で暮らす彼女に恋をする俊平だが。「君を守りたいなんて、傲慢なことを思っているわけでもない」「君の苦しみを理解できるとも思えない」「でも」「何もできないかもしれないけど」「そばにいてほしい」。静けさと恋しさとが心をゆさぶる傑作長編。
“最凶の連続殺人犯”と呼ばれた近藤房子が逮捕されて五十数日。依然として黙秘を続ける房子のもとへ、「Mに従え」とだけ書かれた差出人不明の手紙が届く。一方、SRO室長・山根新九郎は、東京地検から房子との面会要請を受けるがー。
台湾政府高官が死ぬ間際に贈ってきた一冊の本。そこには、覇権国家・中国が企む、台湾武力介入計画を示す暗号が隠されていた。元自衛隊員にして、台湾で秘密工作員として活動している東大介はその暗号を読み解き、パートナーのアメリカ人工作員とともに中国の野望を打ち砕く活動を始めた。壮大なスケールで描く迫真の台湾侵攻劇。
天狗の千里眼がえぐりだす現代人の業と病理!平田篤胤のもとに再び現れた“天狗小僧”こと嘉津間。時空を超えて旅をする嘉津間が見た魔境とは、現在の私たちの世界!?愛と僧しみ、希望と妄執が渦巻く魔境へ、やがて篤胤も旅立っていく。
“いかれ帽子屋”による連続帽子盗難事件が話題を呼ぶロンドン。ポオの未発表原稿を盗まれた古書収集家もまた、その被害に遭っていた。そんな折、ロンドン塔の逆賊門で彼の甥の死体が発見される。古書収集家の盗まれたシルクハットをかぶせられて…。比類なき舞台設定と驚天動地の大トリックで、全世界のミステリファンをうならせてきた、フェル博士シリーズを代表する傑作。
北海道が一般の人にとって地の果ての島だった明治19年。薩摩出身の青年、有馬四郎助は月形の樺戸集治監の看守に着任した。そこは刑期12年以上の凶徒を集めた人間の運命の吹きだまりであった。正義感あふれる四郎助は、個性的な囚人たちが起こす奇怪な事件に厳しく対しようとする。だが、元与力のキリスト教教誨師・原胤昭との出会いがその運命を変え始め…。明治に生きる人々の姿をつぶさに拾い上げた圧巻の人間ドラマ。
囚人だって人間だーと言う原胤昭の言葉が心にかかった四郎助は、いつしか囚人たちが引き起こす事件の内に、彼らの仁義や数奇な人生を見出すようになっていた。そんな中、ある因縁から罠に掛けられた原が命の危機にあると知る。彼を救うべく、四郎助は囚人たちを巻きこんだ大芝居を打とうとするが…。事実と創作を巧みに織り交ぜ、後の“愛の典獄”有馬四郎助の成長と北海道開拓史の一幕を活写した明治群像劇の名著。