2016年発売
貧しさゆえ熊本の廓に売られた海女の娘イチ。廓の学校“女紅場”で読み書きを学び、娼妓として鍛錬を積むうち、女たちの悲哀を目の当たりにする。妊娠する者、逃亡する者、刃傷沙汰で命を落とす者や親のさらなる借金のため転売される者もいた。しかし、明治の改革の風を受け、ついに彼女たちはストライキを決意するー過酷な運命を逞しく生きぬく遊女を描いた、読売文学賞受賞作。
日本最大のメガバンクであるTEFG銀行。ディーラーとして名を馳せた桂光義は専務の地位にいた。ある日、盤石なはずの銀行は国債暴落を機に巨大負債を抱え、一夜にして機能不全に。暴落した株に群がるハイエナの如き外資ファンドや混乱に乗じて巨利を貪ろうと暗躍する政財官の大物たちー。桂は総務部の二瓶正平と共に生き残りを懸けた死闘に挑む。
30年で200組。福は在日の縁談を仕切る日本一の“お見合いおばさん”だ。斡旋料で稼ぐのに、なぜか生活は質素。日々必死に縁を繋ぐ理由とは(「金江のおばさん」)。在日韓国人の彼に恋をした。結婚への障害は妊娠で突破したはずが、大量のごま油と厳しい義母が待っていて…(「日本人」)。婚活から介護まで、切なく可笑しく温かく家族を描く連作集。
実体がないような男との、演技めいた快楽。結婚を控え“変化”を恐れる私に、男が遺したもの(「ほむら」)。傷だらけの女友達が僕の家に住みついた。僕は他の男とは違う。彼女とは絶対に体の関係は持たない(「うろこ」)。死んだ男を近くに感じる。彼はどれほどの孤独に蝕まれていたのだろう。そして、わたしは(「ねいろ」)昏い影の欠片が温かな光を放つ、島清恋愛文学賞受賞の恋愛連作短編集。
初対面で彼女は、ぼくの頬をなめた。29歳の営業マン・伊藤俊也は、ネットで知り合った「ナギ」と会う。5歳年上のナギは、奔放で謎めいた女性だった。雑居ビルの非常階段で、秘密のクラブで、デパートのトイレで、過激な行為を共にするが、決して俊也と寝ようとはしない。だがある日、ナギと別れろと差出人不明の手紙が届き…。石田衣良史上もっとも危険でもっとも淫らな純愛小説。
道東釧路で図書館長を務める林原を頼りに、25歳の妹純香が移住してきた。生活能力に欠ける彼女は、書道の天才だった。野心的な書道家秋津は、養護教諭の妻伶子に家計と母の介護を依存していた。彼は純香の才能に惚れ込み、書道教室の助手に雇う。その縁で林原と伶子の関係が深まり…無垢な存在が男と女の欲望と嫉妬を炙り出し、驚きの結末へと向かう。濃密な長編心理サスペンス。
DVに憑かれた冷酷な夫から逃げ出したわたしが、職場で偶然知り合った既婚者の彼。その導きで始まった密会のたわむれは、わたしを絶望の淵から救った。甘い官能に溺れるふたつの魂は、秘密の部屋を抜け、やがて緑滴る中米の地を目指す。生命が躍動する新世界で、わたしが望んだのは、しかし、欲して止まない彼の死だった。悪魔的に美しく、愛と見まごうほどに純粋な感情の行方。
満州国国務院へ出向した敷島太郎。抗日ゲリラの殲滅を続ける次郎。三郎は関東軍が細菌戦を準備していることを知り、四郎は謎めく麗人に心を乱される。岸信介ら新官僚の到来と大移民計画に沸く満州。その南、中国では軍人たちが功を急ぎ、兵を突き進ませてゆく。昭和十二年、日中は全面対決へ。戦火は上海から南京へ燃え広がる。敷島兄弟が目撃したこの世の地獄とは。戦慄の第五巻。
駿河の国境の寒村から村人が全員消えた!疫病か、それとも大久保長安の秘匿した財宝を狙うものの仕業なのか。徳川家康の遺骸を日光から駿河の久能山に運ぶ天海一行の護衛の途次、大道寺菊千代は大きな謎に直面する。そして、天海の命と久能山東照社に奉納される百万両を狙って襲い掛かる、忍び集団・風魔党の面々。菊千代率いる大江戸無双七人衆、最後の血戦。書下ろし時代小説。
戦後45年目の夏。高校2年生のゆかりの伯母は空襲で焦げた電柱の前で見失った我が子を待ち続けていた。夏休みの課題のため、ゆかりは伯母の戦争体験を聞こうとするが父の勇太から猛反対を受ける。昭和20年3月10日、あの炎の夜に何があったのか。伯母の交通事故をきっかけに父はようやく口を開くー。東京大空襲の語り部が戦禍の記憶を今に伝える長篇小説。
天医会総合病院の看護師、相馬若葉から友人の殺害事件について相談をうけた天久鷹央と小鳥遊優。喜び勇んで謎の解明にあたる鷹央だったが、その過程で“事件から手を引く”と宣言する。なぜ、彼女ではこの謎を解けないのか。そして、死の現場から“瞬間移動”した遺体に隠された真実とはー。驚きのどんでん返しと胸を打つクライマックスが待つ、メディカル・ミステリー第4弾。
霧深い夕暮れ、煖炉の前に座って回想にふけるチップス先生の胸に、ブルックフィールド校での六十余年の楽しい思い出が去来するー。腕白だが礼儀正しい学生たちとの愉快な毎日、美しく聡明だった亡き妻、大戦当時の緊迫した明け暮れ…。厳格な反面、ユーモアに満ちた英国人気質の愛すべき老教師と、イギリスの代表的なパブリック・スクールの生活を描いて絶賛された不朽の名作。
仙女の呪いで百年の眠りについた美しい王女ー。王子様のお迎えで目覚めたのちの恐怖を描いた表題作のほか、赤頭巾ちゃん、長靴をはいた猫、親指小僧からシンデレラまで。あの懐かしい童話が新鮮な翻訳と美しく読みやすい活字、繊細な挿絵とともに甦りました。不思議でロマンチックで楽しい。そしてちょっとだけグロテスクで残酷…。そんなペローの童話の世界へ、ようこそ!
秋のある日、大往生を遂げた男の通夜に親類たちが集った。子ども、孫、ひ孫たち30人あまり。一人ひとりが死に思いをはせ、互いを思い、家族の記憶が広がっていく。生の断片が重なり合って永遠の時間が立ち上がる奇跡の一夜。第154回芥川賞受賞。
悲願の仇討ちが、新たな波乱の幕を上げるー。人情居酒屋の毒舌女将・お夏に忍び寄る黒い影。その裏には、縄張り拡大を目論む悪党・市蔵の思惑が。しかも、お夏が敢行した仇討ちを、高輪から品川を取り仕切る五郎蔵一家の仕業と勘違いしている。野心と復讐心に燃える市蔵。このままでは江戸に血の雨が降る。お夏は止められるか?激動の第四弾。
阪神大震災を予言し、信者を増やす淡路島の新興宗教。イザナキ、イザナミの国生みの地で、新たな世界創世を説く教祖のもと、アメリカ西海岸から謎の天才ハッカー集団が訪ねてくる。彼らは何を企んでいるのか。すべてを見通す僕とは、いったい何者か?世界のひずみが臨界点に達したとき、それは起きた。世界の終末の、さらに先に待つ世界を問う、大注目の新鋭の集大成!芥川賞候補作。
失踪した父を探して難関音楽学院を受験する脩。そこで遭遇する連鎖殺人。謎の楽器“パンドラ”。“音楽”は人をどう変えるのか。才能に、理想に、家族に、愛にー傷ついた者たちが荒野の果てで掴むものは…?
ミュージシャンを目指す拓人と、脚本家を夢見るユナ。NYで出会い、国籍の壁を越えて世界を共有する二人。だが拓人の夢が叶いかけた時、運命の日が訪れたー。偏見、憎悪が渦巻く世界で人を愛し生き抜く意味とは。9.11の悲劇を体験した作家が混迷の世に問う長篇!