2018年12月発売
ジェンマは兄の誘いにこたえてクレタ島に到着した。 ところが島に滞在しているはずの兄は、 約束の日時に空港に降り立ったジェンマを迎えに来なかった。 空港近くのホテルに落ち着いて数日後、やっと兄からメッセージが届き、 ジェンマは小さな村の別荘を訪ねていった。 だがそこに兄の姿はなく、代わりに前日遺跡で出会った男性が現れた。 なぜか怒りに燃える目でじっとジェンマを見つめていた、あの男性だ。 そのとき、ジェンマは知りもしなかったーー 謎の男性がアンドレアス・ニコライデスというホテル王の富豪で、 冷酷にも彼女を誘惑し、身も心も虜にしようと企んでいるとは! 大人気作家S・クレイヴンはドラマチックな作風で世界中の読者の心をわしづかみにし、2017年11月に天国へと旅立ちました。『恋も愛も知らないまま』(R-3364)を遺作として贈ってくれた彼女を偲び、1980年代に刊行された初期の名作をお届けします。冷酷な富豪の誘惑の罠に落ちたヒロインの運命やいかに?
メグは飛行機で黒髪のハンサムな男性ニクラスと隣り合わせた。機内が消灯した後も話は弾み、いつしかキスを交わして…。濃密な愛撫は地上に降りたあとも続き、メグはこの見ず知らずの裕福な男性に求婚されると、魔法にかかったようにバージンを捧げ、二人は一夜で夫婦になった。だが翌朝、夫は忽然と消えたー新妻をベッドに残したまま。1年後、心を閉ざしたメグの前にニクラスの弁護士が現れ、彼が無実の罪で拘置所にいるという驚くべき事実を告げた。ニクラスに会えるのは法的な妻であるメグだけで、面会を許される唯一の理由が、“夫婦の営み”の要求だというのだ!
デイルは幼いころから修道院の寄宿学校に入れられ、 両親からほとんど顧みられることもないまま成長した。 卒業を控えたある日、彼女の後見人だという弁護士リックが現れ、 飛行機事故で亡くなった両親が莫大な財産を遺したこと、 成人するまでデイルを引き取り、彼の保護下に置くことを告げた。 この男性とひとつ屋根の下で暮らすなんて……デイルはとまどった。 彼の底知れない瞳に見つめられると、なぜか心の奥が震える。 それが恋だと悟るのと、絶望に打ちひしがれるのは同時だった。 リックと、彼の美しい婚約者が話しているのを聞いてしまったのだ。 デイルは“幼くて、かわいそうなほど魅力のない子ども”だと。 南アフリカが生んだY・ウィタルは70年代後半から90年代初頭に活躍した作家。本作は1983年の作品で、寄宿学校育ちの無垢なヒロインと、彼女の後見人である年上の弁護士との純愛をご堪能いただけます。大人の階段をのぼろうとするヒロインにご声援を!
高校を卒業して働きだしたコーリーには憧れの人がいた。ひとまわり以上も年上のJ・C・カルホーンーハンサムで大人の魅力あふれる彼からデートに誘われ、コーリーは夢見心地でイエスと言った。独身主義の彼に言われるまま、親の反対を押し切って同棲を始めた。目もくらむほどの幸せの果て、コーリーは小さな命を授かった。だが長期出張から帰ったJ・Cに妊娠を告げようとすると、なぜか彼は激昂した。君の浮気相手から、その話はもう聞いていると。J・Cはコーリーを真冬の寒空に放り出し、嫌悪もあらわに吐き捨てた。「君の顔は二度と見たくない。僕にとって君は存在しない人間だ」
貧民街の捨て子は、公爵家への復讐のため、悪魔になったーー L・ヒース真骨頂! 愛と罪が交錯するヴィクトリアン絵巻、開幕。 幼い頃に天涯孤独の身となり、公爵夫妻を親がわりに育ったアスリン。次期公 爵に嫁ぎ、何不自由のない日々を送るはずだった彼女の世界は、突然現れた大 富豪ミック・トゥルーラヴによって一変する。貧民街に生まれながらも、不屈 の意志で巨万の富を築きあげた彼は、裏社会を統べる危険きわまりない存在。 真夜中を思わせる瞳、官能的な手練手管に、純真無垢なアスリンが抗えるはず もなかった。しかし、ミックが近づいてきたのは壮大な復讐劇のためーー30年 前に公爵家から捨てられた幼子が、すべてを奪う悪魔となって戻ってきたのだ。
幸せだったあの日々は記憶の扉に閉じこめてーー 涙なくしては読めない、ギリシア富豪との切ない愛。 彼の子供を妊娠しているーーその事実を知ったマーリーは一人物思いにふけっ ていた。子供の父親であるクリュザンダーは世界を股にかけるギリシア人富豪 で、ふたりはいま一つ屋根の下に暮らしている。妊娠したと打ち明けたら彼は どんな反応をするだろう? クリュザンダーが二人の関係をどう考えているの か確かめようと、マーリーは仕事から戻った彼にさっそく問いかけた。「ぼく らの間に関係などない。きみは“愛人”だ」返ってきた辛辣すぎるその言葉に、 マーリーは凍りつく。だが運命は、さらなる悲劇を彼女に用意していた。
生まれつき不思議な予知能力を持ち、そのせいで周囲から敬遠されてきたローレルは、都会を離れて亡き祖母が遺してくれた屋敷にひとり移り住むことに。ルイジアナの深い森に囲まれたその美しい屋敷は、地元では“ミモザの園”と呼ばれ愛されていた。ようやく自分の居場所を見つけたローレルだが、ある日そこで思いがけない出会いを果たす。目の前に、毎晩ローレルの夢に出てくる男性ー存在するはずのない空想の世界の恋人が現れたのだ。呆然とするローレルに、彼も戸惑いを隠せない様子で「会いたかったよ」とささやき…。
アナにとって裕福なエリート銀行家リュークとの結婚生活は、まさに幸せそのものだったー夫の元愛人の影が射すまでは。不安が募り、耐えきれなくなったアナは逃げるように家を出た。数日間は平穏に過ぎたものの、9日目になって突然、いつも以上に尊大な態度のリュークがアナの目前に現れて告げた。「僕の妻には家に戻ってもらう。僕のベッドに」驚いたことに、夫はアナが妊娠していることを知っており、さらに彼女の父親が会社で不正を働いた事実まで調べあげていた。なんて卑劣なの!妻を脅迫して思いどおりにしようだなんて。
意地が悪く身勝手な母親に虐げられ、 人の優しさを知らず怯えながら生きてきたトレイシー。 ある日彼女は騒動に巻き込まれ、 近くの大牧場を経営するタイの車を壊してしまい、 償いとして牧場に住み込んで働くことになった。 タイはたくましくて常に自信に満ちあふれていて、 自分とは正反対の彼に、しだいにトレイシーは心惹かれていく。 だが一方のタイはトレイシーのことを、 母親と同じ、狡猾で節操のない女だと思い込んでいて……。
若き日の吉田健一にとって魂の邂逅の書となった、19世紀末フランスの夭折詩人ラフォルグによる散文集『伝説的な道徳劇』。詩集『最後の詩』と共に名訳で贈る。 19世紀末フランスの夭折詩人ラフォルグ。象徴派が勃興する中、近代の倦怠を知的な抒情とした天才が遺した散文集『伝説的な道徳劇』は、若き日をヨーロッパで過ごした吉田健一にとって「前世か何かで自分が書いたことをそれまで忘れていた感じだった」と語らしめ、耽読して止まなかった魂の邂逅の書であった。同じく遺作の詩集『最後の詩』と共に吉田の名訳で贈る。
これまで語られることのなかった、芸人たけしが生まれた街と唯一無二の師匠の物語。 『フランス座』といえば浅草の伝説的ストリップ劇場、そしてビートたけしさんが修業時 代を過ごしたことでも有名です。が、芸人を志すきっかけとなった師匠の名は浅草の外に広く知られることはありませんでした。師匠との出会いと別れを、自伝小説に昇華させたのが本作です。 大学をドロップアウト、特に夢もなく浅草フランス座でエレベーター番のアルバイトを始めた主人公・北野武を、劇場で働くからにはコメディアン志望だろうと決め付けて「タケ」と呼んで可愛がり、仕事と住居を与えたのは浅草で誰もが“師匠”と呼ぶ芸人・深見千三郎。時は七〇年代、お笑いの中心がテレビやラジオに移りつつある中で、舞台でのコントを極める師匠に導かれながらも、「売れてみたい」という気持ちを抑えられないタケはやがて漫才という別の道を選びーー。尊敬しながらも超えてゆかねばならない師弟の姿を笑いと切なさで描く傑作青春小説。
二〇世紀前半にロンドンの大銀行の貸し金庫に預けられた謎の回想録。執筆者はセバスチャン・モラン大佐ーージョワキ戦役の英雄で賭博狂の大物ハンター、そして犯罪王モリアーティの右腕として活躍した男だった。犯罪商会の首魁として様々な悪事のコンサルティングをこなすジェイムズ・モリアーティが相対してきた個性豊かな犯罪者たちと怪事件を、大胆な発想と魅力的なキャラクターをもって描く。〈ドラキュラ紀元〉クロニクルで熱狂的支持を受ける博覧強記の著者による最高のホームズ・パスティーシュ!
怪人物モリアーティとモラン大佐、犯罪商会の面々の暗躍は留まるところを知らない。ある日モリアーティは、ネパールの偶像から抉り出された呪いの宝玉にまつわる謀略のため、あと五つ、曰くつきの宝物を四十八時間以内に揃えるという 難題をモランに課す。ロンドンが秘密結社の血で血を洗う大抗争の舞台となる「六つの呪い」、長男のジェイムズ教授、次男のジェイムズ大佐、そして三男のジェイムズ駅長が田舎駅に現れた巨大なワームの謎に各々の陰謀を巡らせる「ギリシャ蛟竜」、そして“あの名探偵”とのライヘンバッハの滝における死闘の真相を明かす「最後の冒険の事件」を収める。
〈黒後家蜘蛛の会〉での謎解きの宵は、名給仕にして名探偵であるヘンリーのもてなしさながら、読む者に心地よいひと時をもたらす。著者自身が誰よりも楽しんで書いた連作ミステリは、ほかでは得がたい魅力に満ちている。第5巻には、万単位の蔵書から愛書家が遺贈した一冊の本の書名を当てる「三重の悪魔」、アシモフの実体験をそのまま作品化した「待てど暮らせど」、いっぷう変わった密室の謎に挑戦した「秘伝」など全12編を収録。
名匠・連城三紀彦が紡いだ数多の短編群から選り抜いた傑作集第二巻。直木賞受賞以降、著者の小説的技巧と人間への眼差しにはより深みが加わり、ミステリと恋愛小説に新生面を切り開く。文庫初収録作品を含む本巻では、著者の到達点と呼ぶべき比類なき連作『落日の門』全編を中心に、円熟を極めた名品十六編を収める。著者の全貌が把握できるとともに新たな視座を提示する全二巻。