2019年3月発売
メイドのルチアは、アンジェロ・コレッティにとって唯一の友人だった。シチリア名家の婚外子として蔑まれ、孤独なアンジェロに、ルチアは幼い頃から寄り添い、支え、慰めた。ある夜、たった一度だけ、二人の情熱が交錯する。だが翌朝、彼は忽然と姿を消してしまい、ルチアの愛は報われぬまま、授かった小さな命までも流産で失うという悲劇に終わったのだった。7年後、アンジェロがシチリアへ戻ってきたとき、ルチアはつい、彼が迎えに来てくれたのかもしれない…と淡い期待を抱いた。だが、何も知らない彼は、メイド姿のルチアに平然と言った。「そんな仕事の代わりに、破格の給料でぼくの世話をしないか?」
スザンナは、自分の運が悪いのは、彼女に似合わない、人目を引くこの栗色の髪のせいではないかと疑い始めていた。両親を早くに亡くし、厳格な大伯母に育てられたせいで、時代遅れの貞操観念を植えつけられたのに、軽く見られがちだ。騙されて以来、恋に臆病になり、男性経験もまだなのに…。ある日、スザンナの前に、鼻持ちならない上司が現れる。冷たいグレイの瞳をしたやり手の上司ハザードは、新任式で彼女を見るなり小ばかにし、あからさまに嘲笑してきたのだ。遊び好きと決めつけられて、スザンナの頬に朱が散った。
「あなたのお兄さんって、どうして結婚しないのかしら」17歳のルイーズは、由緒ある美しい屋敷に帰ってきたばかり。パーティで、親友にそう問われても、彼女の心はうつろだった。ルイーズにはショックなことがあったのだ。いつものように、駅に迎えに来た義兄のダニエルが、今日は恋人を連れていた。血の繋がりのない、35歳の義兄をひとすじに慕い続けてきたのに。彼の“特別”にはなれないー思い知った彼女は距離を置こうと、パーティに親友と、自分に気のあるその兄を招待した。しかし、ダニエルはルイーズにほかの男性と踊らせようとしなかった…。
アンジーの美しい妹が、半年前にギリシアで亡くなった。大富豪ニコスの屋敷のバルコニーから転落死したのだ。そのニコスが、いまアンジーを前にし、悔やみの言葉すらなく、妹が盗んだという、遺品の宝石を返すように迫っている。妹を弄び死に追いやったのに、罪の意識の欠片もないらしいー罰を与えたくて、彼女は色気のない自分との結婚を条件にした。しかも、ほかの女性との関係を禁じる屈辱的な契約書付きで。ところが、プレイボーイの彼はためらいもなく承諾したうえに、「僕の所有物になるんだ」と、アンジーの体を舐めるように見た。
度重なる、奇妙な明晰夢にソノラは悩まされていた。青く沈む薄闇の孤独のなか、揺らぐ影の“瞳”を感じる幻覚だ。ソノラは生まれてすぐに孤児院の前に捨てられた子だった。いつの日か母親が迎えに来てくれると信じたこともあったがー思わず、自嘲めいた笑みがこぼれる。その後の人生を思い出して。ある出来事に巻き込まれ、命を狙われ始めたソノラは、身を隠そうと逃げ惑うなか、導かれるようにその町へ辿り着く。夕闇に浮かんだ男性と瞳があった刹那、ソノラはよろめいた。見紛うはずもない、幻覚で見続けた“瞳”だったから。
わずか1週間で、大企業の御曹司リーと電撃結婚したシャロン。夢見心地の結婚式の直後、シャロンは残酷な事実を知らされる。身寄りのないシャロンなら面倒がないと、リーが妥協したのだと。式場で流れていた心ない噂ーそれは手酷い裏切りだった。彼のプレイボーイぶりを見かねた父親から、すぐ結婚しなければ、会社の後継者にしないと最後通牒をつきつけられたというのだ。凍りついたシャロンは、ハネムーン先のスイスでの新婚初夜に、リーを拒み、知らぬ間に悲鳴のような声をあげていた。「あなたは、お金のために私と結婚したのよ」
悪い予感とともに、オフィスに駆け込んだ秘書のアビゲイルに、社長のロスは冷たい口調で遅刻の理由を問いつめた。ほかの女性なら彼の前で、恥ずかしそうにうつむくかもしれない。でもアビゲイルは、ハンサムで危険な男性はもうこりごりなのだ。ロスだって私を、おとなしい鼠としか思っていないし、心のなかに何かを抱えているだなんて夢にも思っていない。婚約者と夜更かししたと言いよどむと、苦々しげな目で、「君は彼を愛していない」と断言され、心を見透かされてしまう。そして、その日を境にロスは私生活にまで干渉し始めた。
緑川光毅は中学3年生。受験生なりに楽しく学校生活を謳歌していた。しかし、心の底では満たされない思いが、ゆっくりと魂を食い荒らしてゆく…そんなとき、ふいに同級生の星野温が声をかけてきた。「一緒に探偵小説を書こう」。新任教師の原口は、理事長の息子という立場を持てあましながらも「よき教師」であろうと日々奮闘していた。ある日、自殺サイトに自校の生徒が出入りしていることを知り、それが誰かを突き止めて救おうとするが…。それぞれの屈託多き日々に降りかかった「謎」が出会ったとき、何が起こるのか。第21回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。
高校生になった小春は生まれて初めて恋をした。隣の席の“おぼろくん”。体は男の子、心は女の子…女装して歩くおぼろくんの助けになりたくて、小春は兄の美容院へ彼を連れて行く。「お兄ちゃん、おぼろくんをもっと綺麗にしてあげて」恋心を伝えられないまま、小春とおぼろくんは徐々に距離を縮めていくー。
「ここじゃないどこか」に行きたい幼なじみのワタルとタカトは、5年前に地元の島にできた総合カジノ施設「レイ・ランド」の恩恵など受けることすらなく、ヤクザの下働きをするチンピラ。兄貴分の蓮に振られた「チャンス」=ただの「荷物運び」のはずが一転、気づくと目の前には額に穴があいた3つの死体がー。乱歩賞・大藪賞W受賞作家が魂込める、ノンストップ・ギャンブル・ミステリー。
都知事、狙撃ー。新国立競技場で起きた事件は日本を震撼させた。誰が。なぜ。狂騒の中、日就新聞社会部の天宮理宇はチームを率いて真実を追うが、捜査は唐突に打ち切られる。「犯人はクルド人難民」その警察発表は国策として難民を受け入れた日本において、瞬く間に浸透した。結論ありきの手法に違和感を覚えた天宮は社を去るが…。この国の未来を予見する圧倒的エンターテインメント!
「都知事狙撃事件の真犯人、その正体は…」新聞社を辞め、フリーの記者となった天宮理宇の告発は、ウェブを介して拡散し、世論が動き始める。だが、それは隠された秘密の一端に過ぎなかった。事件の鍵を握る男、アル・ブラク。シリアからの難民。メディアを牛耳る新聞王。すべての過去が繋がったとき、新国立競技場に再び銃声が鳴り響く。この国の“危機”を描く、怒涛の長篇サスペンス!
五年の在任中、署でも官舎でもぐうぐう寝てばかり。転任が決るや、別れを悲しんで留任を求める市民が押し寄せ大騒ぎ。罪を憎んで人を憎まず、“寝ぼけ署長”こと五道三省が「中央銀行三十万円紛失事件」や「海南氏恐喝事件」など十件の難事件を、鋭い推理と奇抜な発想の人情味あふれる方法で次々解決。山本周五郎唯一の警察小説。
傷一つない死体の顔に、なぜ犯人は包帯を巻いたのか?特捜7のエース岬と、所轄署の“技あり”刑事里中が動き出す。死者の口中に詰められていた異物、発見された他人の指。そこに誘拐事件が発生した。被害者の息子が誘拐され、犯人は「父親を出せ」と要求。二つの事件が奇妙にもつれ合い、再び異様な死体が。多重犯罪を解く鍵はどこに?鮮やかな推理と人への眼差しが温かい傑作警察小説。
京都に生まれ育った奥沢家の三姉妹。長女の綾香はのんびり屋だが、結婚に焦りを感じるお年頃。負けず嫌いの次女、羽依は、入社したばかりの会社で恋愛ざたといけず撃退に忙しい。そして大学院に通う三女の凜は、家族には内緒で新天地を夢見ていた。春の柔らかな空、祇園祭の宵、大文字焼きの経の声、紅葉の山々、夜の嵐山に降る雪。三姉妹の揺れる思いを、京の四季が包みこむ、愛おしい物語。
老後の準備を考え始めた千賀子は、ふと一人娘の将来が心配になる。28歳独身、彼氏の気配なし。自分たち親の死後、娘こそ孤独な老後を送るんじゃ…?不安を抱えた千賀子は、親同士が子供の代わりに見合いをする「親婚活」を知り参加することに。しかし嫁を家政婦扱いする年配の親、家の格の差で見下すセレブ親など、現実は厳しい。果たして娘の良縁は見つかるか。親婚活サバイバル小説!
おしゃれして、好きなインテリアで部屋を飾って、(ブラックだけど)アパレル勤務。みきは憧れの“女子的生活”を謳歌していたが、ある日、マンションの部屋の前に不審な男が。「あの、ここに小川って奴が住んでるって聞いたんですけどー」マウンティング、モラハラ、毒親。次々現れる強敵に、オリジナルな方法でタフに立ち向かうみき。読めば元気が湧いてくる痛快ガールズ・ストーリー。
ローマで暮らす玄須聖人の前に人間が降ってきた。それは、悪魔祓い師を務める神父の転落死だった。事件に遭遇した聖人を案じ、友人のマリク神父が駆けつけるが、「悪魔」の存在をめぐり口論となり、絶交宣言を下されてしまう。国籍や宗教を超えた特別な友の信頼を取り戻そうと聖人が苦悩するなか、マリクは新たなエクソシストに任命されるー聖域を揺るがすビブリオミステリー!
生きる道なんて誰にも選べないー。実は組長の娘だった彼女と、それでも一緒にいるために、俺は新米任侠になるしかなかった。監視役だと思っていた不器用で無愛想な男は、気が付けばかけがえのない相棒になっていた。人間関係に悩み、生き方に迷い、時に悪意に翻弄されながらも、大切な人たちとともに、俺はこの道を歩み続ける。夜を駆ける二匹の獣の生き様に胸が熱くなる青春小説。