2019年8月発売
火星の古いコロニー、ラムスタービル。ビルマスターのナミブ・コマチは、地球人が残していった“全地球情報機械”を探索するのが生き甲斐だった。そんなある日コマチは、火星人の寿命九十歳を拒否して「死ぬまで生きたい」と言う祖母アユル・ナディに共感している自分に戸惑う。子孫を残すことー自らの性欲を自覚したコマチは、火星で初めての男児ハンゼ・アーナクを産み落とす。それは、火星と地球をめぐる“わたし”と“いま”の相克のはじまりだったー神林長平、作家デビュー四十周年記念作品。
戦国の気風が残る、江戸時代初期。葦の生う辺地に、ひとつの町が誕生した。徳川幕府公認の傾城町、吉原だ。公許は得ても、陰で客を奪う歌舞妓の踊子や湯女らに悩まされ、後ろ楯であるはずの奉行所には次々と難題を突きつけられる。遊女屋の女将・花仍は傾城商いの酷と華に惑い、翻弄されながらも、やがて町の大事業に乗り出すー。
依然として行方の分からない“大日本誘拐団”の主犯格“リップマン”こと淡野。神奈川県警特別捜査官の巻島史彦はネットテレビの特別番組に出演し、“リップマン”に向けて番組上での対話を呼びかける。だが、その背後で驚愕の取引が行われようとしていた!天才詐欺師が仕掛けた大胆にして周到な犯罪計画、捜査本部内の不協和音と内通者の存在ー。警察の威信と刑事の本分を天秤にかけ、巻島が最後に下す決断とは!?
死体を埋めれば誰にもバレないー野に放たれた殺人者の罪を明らかにし、寂しき行方不明者の捜査をして30年。愛憎も哀しみも嫌らしさも、この鬼刑事の執念が掘り起こす。社会派ミステリーの旗手が挑む初の本格警察小説。
ある日、新米法医学者・万木朝顔が勤務する興雲大学法医解剖室に、管轄エリア内の野毛山署に異動したばかりの刑事の父、平が女性の遺体の解剖依頼に訪れた。発見されたのは倉庫だったが、溺死と思しき結果が出る。朝顔は真摯に遺体と向き合い、平は女性が殺された現場を突き止め遺留品捜査を徹底することで、事件解決へと近づいていくー。遺体から見えてくる真実を追究する日々を送りながらも、二人は2011年に起こった東日本大震災で行方不明になった母を忘れられないでいた…。さまざまな物語が交錯する法医学ドラマ。
神隠しに遭い「神様の料理番」となった、りん。美しい神様・御先様に「美味い」と言わせるべく、電気もガスもない世界「神域」で毎日奮闘している。季節は梅雨のはずなのに、現世では雨が降ってない様子。この異常気象をどうにかするため、全国の神様が京都に緊急招集されることになった。料理番としてついて行ったりんは、そこである料理人と出会い、人生の大きな決断をするー。続々重版の人気シリーズ、待望の第四弾。神様と人間のおいしい絆の物語。
若主人・烏島廉士が営む『質屋からす』に、ある男が美しい紅い皿を持ち込んできた。その皿には、対となる白い皿が存在したはずだった。物語は、紅と白、二つの皿を巡る謎を軸に、その皿に関わった人々の運命を翻弄しつつ複雑に絡んでいく…。従業員の千里が持つ特別な能力で謎を解く、大人気ダークミステリー、シリーズ最新作登場!
三十以上の言語に翻訳されている、世界的名作。現代カタルーニャ文学の至宝と言われる。スペイン内戦の混乱に翻弄されるひとりの女性の愛のゆくえを、散文詩のような美しい文体で綴る。「『ダイヤモンド広場』は、私の意見では、内戦後にスペインで出版された最も美しい小説である」(G.ガルシア=マルケス)。
警視庁を定年退職後、「誤判対策室」-刑事、検事、弁護士からなる冤罪調査組織ーに再雇用された有馬英治あてに一本の電話が入る。台東区三ノ輪で殺人を犯し、自首してきた紺野真司が証言を一変。容疑を否認し、有馬にしか真実を話さないと主張しているという。勾留中の紺野と対面した有馬は、ひとつのゲームを持ちかけられる。「私の犯罪を証明し、起訴できなければ、あなたの娘を殺害します」動揺を隠せない有馬だったが、悲劇へのカウントダウンはすでに始まっていたー。
滞在していたスリランカの戒厳令発令をうけ、日本に一時帰国していた正義だったが、帰国前にある人物から連絡を受けていた。その人物の要望もあり、正義は日本滞在もそこそこに、ヴィンセントに会うため香港へと飛んだ。かつてリチャードを裏切っていたはずなのに、なぜか正義を助けてくれるヴィンセントの真意とは?そしてリチャードと再会した正義は…?
「梟」が残した羽根に、自らの行く末を重ねる寿雪。先代の戒めに反し夜明宮は孤独から遠ざかるも、寿雪自身は虚しさから逃れることが出来ずにいた。烏妃の元には、今宵も訪問者が絶えない。泊鶴宮での怪異は、やがて烏漣娘娘への信仰を脅かす『八真教』へと通じて?他方、高峻は烏妃を「烏」から解放する一筋の光明を見出し、半信半疑ながらも寿雪と共にあることを決め!?
剛胆かつ敏腕、そしてお金に汚い弁護士・吾妻正義の孫つぐみは、嘘をついている人の顔が歪んで見える特殊な能力を持つ女子高生。正義の許に来る依頼は難物ばかり。“守秘義務違反を犯し、SNSを炎上させたアルバイト事務員”“親子間で起きた交通事故の慰謝料訴訟”“正義の恩師による痴漢冤罪事件”-今回も幼馴染みの草司と共に、正義に振り回されるつぐみだが…?
「お金を返してください」。そう言っては何度もななほし銀行を訪れる南条イネには、認知症の疑いがあって…?監査部調査課個人取引担当ー通称「コトリ班」所属の入行二年目・小林高は日々もちこまれるやっかいなお客様の対応に四苦八苦。俳句愛好会の会計係が通帳を持って失踪?偽造疑惑のある通帳を発見?どれも一筋縄じゃいかない事情があるわけで…?
尚侍として、後宮入りした藤原伊子。十六歳年下の帝は、依然として伊子を妻にしたいと思っているらしい。理由があって帝の想いに応えられない伊子だが、役職どおりの仕事をこなす日々にやりがいを感じていた。妃候補の一人として後宮へやってきた祇子にも、彼女の人柄がどうであれ、尚侍として適切な対応をするつもりだったが…?伊子の“職場”でまたもや事件が!?
平安朝、大江家の娘式部は、宮中で太后に仕え、美貌と歌の才を高く評価される。和泉守と結ばれ幸せな日々に、太后危篤の報が届く。急ぎ京へ戻った式部を親王が待っていた。高貴な腕に抱きすくめられ、運命は式部を翻弄していく。愛する人たちを失いながらも、歌に想いを綴っていくが…。浮かれ女と噂を立てられながらも、生涯の愛を探し続けた式部。冥き道をゆく謎多き女性を大胆に描く親鸞賞受賞作。
大手製薬会社社員の藤井賢一は、不祥事の責任を取らされ、山形の系列会社に飛ばされる。鬱屈した日々を送る中、東京で娘と母と暮らす妻の倫子から届いたのは、一通の不可解なメール。“家の中でトラブルがありました”数時間後、倫子を傷害致死容疑で逮捕したと警察から知らせが入る。殺した相手は、本社の常務だったー。単身赴任中に一体何が?絶望の果ての真相が胸に迫る、渾身の長編ミステリ。
新聞社の永岡は、妻の櫛がヒマラヤの国パスキムの破壊された仏像の一部と気づく。5年前入国した首都カターで見た美麗な仏像彫刻だった。美術品持ち出し禁止の国で政変のため寺院が崩壊したと聞いて、密入国を試みる。僧侶達は虐殺され都市は壊滅していた。彼も革命軍に捕らえられ…。旧習を打破し、完全平等の理想郷を求める人間達のもたらす惨劇。恐怖と戦慄の世界を臨場感豊かに描く畢生の大作。
作家を志して十年超。いまだ一作も書き上げられないままコンビニでアルバイトを続ける「余」。文豪になりきって自虐的なツイートをする「鴎外パイセン」のキャラが面白いと人気を集め、書籍化の話が舞い込むが…。無個性さに悩みつつ夢小説を書く女子大生、二作目が書けない作家、文豪志望のフリーター。谷根千を舞台に、何者にもなれない人々の悩みともがきを描く、滑稽でどこか切ない物語。