2024年8月発売
人の心は分かりませんが、 それは虫ですねーー。 ときは江戸の中頃、薬種問屋の隠居の子として生まれた藤介は、父が建てた長屋を差配しながら茫洋と暮らしていた。八丁堀にほど近い長屋は治安も悪くなく、店子たちの身持ちも悪くない。ただ、店子の一人、久瀬棠庵は働くどころか家から出ない。年がら年中、夏でも冬でも、ずっと引き籠もっている。 「居るかい」 藤介がたびたび棠庵のもとを訪れるのは、生きてるかどうか確かめるため。そして、長屋のまわりで起こった奇怪な出来事について話すためだった。 祖父の死骸のそばで「私が殺した」と繰り返す孫娘(「馬癇」)、急に妻に近づかなくなり、日に日に衰えていく左官職人(「気癪」)、高級料亭で酒宴を催したあと死んだ四人の男(「脾臓虫」)、子を産めなくなる鍼を打たねば死ぬと言われた武家の娘(「鬼胎」)…… 「虫のせいですね」 棠庵の「診断」で事態は動き出す。 「前巷説百物語」に登場する本草学者・久瀬棠庵の若き日を切り取る連作奇譚集。 病葉草紙 目録 馬癇 気癪 脾臓虫 蟯虫 鬼胎 脹満 肺積 頓死肝虫
40歳までタイトルを獲れなかった棋士は、引退まで無冠に終わるー。それが才能と加齢による限界がもたらす、将棋界の残酷な歴史。田中一義は46歳。かつて5度のタイトル挑戦に敗れ、あと一歩で栄冠に届かなかった『悲運の棋士』。それでも諦めずにきた彼に奇跡が微笑み、念願のタイトル挑戦権を手に入れた。だが迎え撃つ相手は『令和の王』-源大河八冠。まだ一度もタイトル戦で敗れたことのない、全盛期の若き天才。それは誰もが絶望する、中年棋士のラストチャンスだった。家族と戦友、元天才の弟子との絆。初恋と、青春の残光…これまでの人生すべてを星のごとく燃焼させる一義は、神の子に届くのか。峻烈な才能の世界と家族愛をみごとに描いた、傑作。
ビブリオバトルの3世代3大会のグランドチャンプ本にも選ばれた『同姓同名』の著者が新たに仕掛ける、 多重推理しかも密室しかもデスゲームだけど…… 下村ミステリはフツーじゃ終わらない! 「私が犯人です!」「俺が犯人だ!」、全員犯人です! 社長室で社長が殺された。それに「関わる」メンバーが7人ある廃墟に集められる。未亡人、記者、社員2人、運転手、清掃員、被害者遺族ーー。やがて密室のスピーカーからある音声が流れる。「社長を殺した犯人だけ生きて帰してやる」。犯人以外は全員毒ガスで殺す、と脅され、7人は命をかけた自供合戦を繰り広げるがーー。
「嫌だ。こんな異世界転生は嫌だぁ!」三十路サラリーマンから異世界の男爵家の末っ子として転生したヒスイ。「異世界スローライフが楽しめる!」と思ったのも束の間、転生先の男爵家は、極貧な上に領地は魔物だらけ、おまけに家族からも虐められる、逆境すぎる環境だった!せめて同じく虐げられながらも優しくしてくれる姉たちを、なんとか助けたいと願っていたある日、『女神』を名乗る3人の美女から力を貰った彼は、歴史上初の『全能力持ち』として覚醒してー!?“みそっかす”から成り上がる、自由気ままな異世界成長録、開幕!
「おとーさん大好き」「お父さんもルーシアの事が大好きだよ」40年間女性と全く縁が無く、魔法だけを極めて気づけば魔術師の最高位S級魔術師になっていたライト・マーキナス。すでに結婚を諦めていた彼は、どうしても自分の子供が欲しく教会で「神との契約書」を結び、自分の血を受け継いだ愛娘を授かることに。娘の寝顔を見る幸せ、自分以上の魔法の才能を開花していく喜び、娘を褒められる幸福。愛娘との充実した日々は、それまで仕事と名声しかなかった魔術師の人生を、とたんにバラ色の人生に変貌させていきー?娘に最弱な親馬鹿と最強の娘がおくるチート親子ファンタジー!
表向きは地味で目立たないギルド職員のテネス。しかしその正体は神の定めたいびつなルールに挑む、闇組織のボスであった!姉フィオナのために暗躍するテネスは、彼女の提案した『序列下位の貴族による同盟』成立を手助けすると決意する。ところが同盟の打診をしたバルザック家とエクスロード家はかつての敵同士。おまけにエクスロード家の次期当主オルディスが気弱すぎるために、バルザック家は同盟に納得しない始末…。難題を前にある秘策を思いつくテネス。神の鼻を明かすため、さらなる暗躍を実行するー!!日常の裏で『こっそり』世界を転覆!暗躍ファンタジー第二弾!!
「クラウス様、あなたはわたくしと結婚しなさい」結婚まで秒読み状態となったジネットとクラウスは、好評を博した演劇『王女の婚姻』の王宮での上演に同行する。だが、その場でクラウスが王女様から求婚をされてしまう!即座に断りはしたものの、王家の圧力によってクラウスは王女の家庭教師に任命され、事実上王宮内に軟禁状態。ジネットは囚われの姫君を救け出すべく、持ち前の機転と前向きさを武器に、早速行動を開始するがー!?鈍感ポジティブ令嬢と溺愛系腹黒婚約者の大繁盛ラブコメ第三弾!
侍従武官長として天皇に近侍している本庄繁陸軍大将を義父に持ち、蹶起した青年将校ともつながっていた山口一太郎大尉。二・二六事件の重要容疑者である彼の調査を憲兵隊員・林逸平が任せられるも、なぜか戒厳司令部参謀・石原莞爾が協力すると言い出してきた。獄中でも、ストーブのある部屋での兵器の開発を許される山口を取り調べていくとー。正義とは何か、国家としての大義はどこにあるのかを鋭く突き付ける、著者渾身の勝負作!
無実の罪で投獄された船乗り、エドモン・ダンテス。牢獄で出会った神父の導きにより脱獄し、巨万の富を手に入れた彼は、モンテ・クリスト伯と名乗り、自分を陥れた者たちの捜索と復讐に取りかかる。孤島の淫靡な洞窟、謝肉祭に沸くローマの街と、舞台は移り変わり、巧妙に張られた復讐の網にさまざまな人物が交錯する。
遠州峰生の名家・遠藤家の邸宅として親しまれた常夏荘。10歳の時にこの屋敷に引き取られた耀子は、寂しい境遇にあっても周囲の人々の優しさに支えられて子ども時代を生き抜いてきた。時を経て38歳になった耀子は、ある日、夫の龍治から突然離婚を切り出される。その思いもよらない理由に耀子は驚くが、それを機に自分にとって本当に大事な人が誰だったのか、思いを巡らし始めるー。耀子の葛藤、娘・瀬里の巣立ち、義母・照子の愛。激動の時代に遠藤家の三代の女たちが守り抜いた家と暮らしは、峰生に暮らす人々にとってもかけがえのない居場所になっていく。『雲を紡ぐ』『犬がいた季節』の伊吹有喜、15年の集大成。大感動の大河小説。
文芸部の片隅で見つかったUSBメモリ。それは、ひとりの男子学生の「死」に関する情報を集めた不気味なものだった。その男子学生の死因は「自殺」。ただ、発見現場には数々の不可解なものが残されていた。睡眠薬の錠剤とともに床に散乱しているびりびりに破かれたお札らしき何か。口内に絡みついた彼自身の髪の毛。それらの痕跡は、まるで恐怖に苦しんだ結果、超自然的な儀式に手を染めたかのようでー。今までの怪談小説をくつがえす、新感覚のホラーモキュメンタリー。
余命を隠したまま恋人に別れを告げた主人公の嘘に涙する(『優しい嘘』冬野夜空)、命の期限が迫る中、ウエディングドレスを選びにいくふたりを描く(『世界でいちばんかわいいきみへ』此見えこ)、大好きだった彼の残した手紙がラスト予想外の感動を呼ぶ(『君のさいごの願い事』蒼山皆水)、恋をすると寿命が失われる病を抱えた主人公の命がけの恋(『愛に敗れる病』加賀美真也)、余命に絶望する主人公が同じ病と闘う少女に出会い、希望を取り戻す(『画面越しの恋』森田碧)-。今を全力で生きるふたりの切ない別れを描く、感動作。
三大公家テ・トーラ家の血を引くネオンは幼き頃に公爵家を追い出され、母と兄弟と共に平民として暮らしていた。しかし18になると政略結婚のために連れ戻され、辺境伯当主ラスボラ・ヘテロ・モルファの元へ嫁がされる。 家族のため政略結婚を受け入れたネオンだったが、ラスボラに愛することはないと突き放され、開き直って悠々自適な引きこもり生活を満喫していた。 そんなある日、家令と侍女長に勧められ辺境騎士団の視察に出たネオンだったが、そこで目にしたのはまともな治療もされずにあばら家に閉じ込められる負傷した騎士たちの姿だった。 その“惨劇”の光景に思わず嘔吐し、同時に看護師であった前世の記憶を思い出すーー! 「私は辺境伯夫人として、最初の慈善事業『負傷者への看護』を行わせていただきます」 序章 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章 第八章 第九章 第十章 終章 用語集 特別短編
六年前、由良夏樹は異世界に勇者として召喚された。人間と魔族との戦いに巻き込まれ、元の世界に戻るには魔王を倒すしかないというテンプレートなことを言われて必死に戦った。同胞さえも平気で蹴落とす人間側につき、いいように利用され、おぞましい戦いに身を置きながらも、死にたくない一心で戦った。やっとの思いで帰ってきた地球だったが、霊能力者姉妹に神様に天使に宇宙人と異世界以上のファンタジーに遭遇する!?「地球もかなりファンタジーじゃね?」現代超ファンタジー第一弾!第11回ネット小説大賞受賞作品。
笑いあり、涙あり、そしていつでも猫あり。宵、きせき、シュトレン、めい子の四姉妹は、今日も元気にごろごろのどを鳴らし、テレパシーで会話中。しかし、いつも明るいめい子の様子がおかしいと思ったら、飼い主夫婦が離婚の危機に!?猫の自分には引き留めることができないと途方に暮れるめい子の前に駆けつけたのは、なんと宵ちゃん。妹のピンチは放っておけない。なぜならお姉ちゃんですから!猫がすべての絆をむすぶ、猫視点ハートフルドラマ!
戦争末期、雲南の地で日本人兵士がほぼ全滅した騰越・龍陵の戦い。そこからほど近い旧ビルマの“死者の谷”フーコン谷地でも、全滅の危機に瀕している部隊があった。-ああこれでは勝負にならない、と一等兵でも思う。そう思いながら戦闘をしたのであった。敵は…必要な条件を整えたうえで戦った。こちらは、弾がなくても、食糧がなくても、とにかく、やれと言う。…弾がなくても食糧がなくても、一人が二十人殺せば二十倍の敵に勝てるわけだから、そうしろと言う。-六割以上が亡くなった無謀な戦いから、片腕と引き換えに生還した村山辰平は、あの戦闘で夫を亡くした中川文江とともに、フーコンで自分がたどった場所を地図に記していく。それは、将官への怒りを新たにする作業でもあり、「諦めながら恨む」作業でもあった。
旧約聖書の「ノアの方舟」をもとに、選ぶ側と選ばれる側が抱く苦悩を描き出した「誰を方舟に残すか」、山奥に移り住み集落の“独裁者”となった男に招待され、唖然とするような体験をする「独裁者と共に」、「見ては悪いものを見ると、とんでもないことになる」ので、大事件に巻き込まれながらも「見ざる、聴かざる、話さざる」を貫く「おとなしい目撃者」、3人の妻に捨てられた博士に依頼され、透明人間になって元妻たちにいたずらをする「透明人間」、思想犯として投獄されている“女神”と男をめぐる哀しい結末を描いた表題作「地下室の女神」など、バリエーションに富んだ9作品を収録した短篇集。
どこにでもいる平凡な中年男、キム・ソンゴン。仕事にも家族にも運にも見放され、彼はついにこの世に別れを告げる決意をする…が、それさえもあえなく失敗してしまう。この世に舞い戻ったソンゴンが見つけたのは、とある一枚の写真ーそこには若かりし頃の彼が家族とともに写っていた。何もかも今の自分とは違いすぎることに愕然とした彼は、写真の中の自分を真似てみようと、まずは姿勢矯正から始めることに。そんな取るに足りない小さなチャレンジが、やがてソンゴンの人生を大きく変えていくー。2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位。