著者 : なかにし礼
戦争の高揚と絶望、そして戦後の果てない堕落。兄の人生を見つめたその娘は、「謎の歌手」に生まれ変わった。代表作『兄弟』の原型にして、いまに鮮烈な未発表作品、なかにし礼の死後1年目に衝撃の単行本化!
昭和四十年、心臓発作で入院した日に私はゴーストと出会った。彼女はベッドに横たわる私に「吐息の交換」を迫り、「最高塔」に登りつめることを強いてきた。目覚めると、私は満洲の避難列車の中にいた。まるでタイムトラベルのように、少年時代の追体験が始まり…。なかにし礼、人生と音楽の集大成小説!
満洲の牡丹江にある森田酒造の店主・森田勇太郎は、馬賊の襲撃に怯えながら関東軍の協力もあって森田酒造を満洲一の造り酒屋にした。勇太郎・波子の娘・美咲の家庭教師だった白系ロシア人のエレナは、森田家に出入りしていた恋人氷室啓介によって家族の目の間で処刑された。いったいエレナに何があったのか。映画・テレビドラマ・ラジオドラマ・舞台上演などがなされた著者の代表作。
ソ連軍の侵攻と現地人の暴動に遭い、酒造は倒産。波子は幼い二人の子どもを抱えハルビンに逃げたが、すべての金品を奪われ、再会した夫の勇太郎は強制労働の果てに病死。避難所で波子のもとに現れた恋仲だった氷室は阿片によって廃人同然になっていた。引揚げが始まり、波子の看病で恢復した氷室は現地で日本人難民の帰還に奔走する。映画・テレビドラマ・ラジオドラマ・舞台上演などがなされた著者の代表作。
ロシアで見つかった、ただ一人の日本人残留孤児。満州、ソ連、日本…六十年の時を経て、戦争で損なわれた「私」を探す旅がはじまる。圧倒的なスケールで描かれる魂の救済、そして究極の愛。感動の超大作。
昭和20年8月9日、ソ連軍は突如、満洲に侵攻を開始した。その頃、牡丹江の森田酒造では、保安局の氷室が、白系ロシア人家庭教師エレナをスパイ容疑で斬殺する。栄華の絶頂から奈落の底へ。二人の子供を抱えた森田波子の苦難の逃避行が始まる。自らの引き揚げ体験を元に運命の転変と戦争の悲劇を描く感動の長篇小説。
22年前、奈良・仏隆寺の「揚巻桜」と呼ばれる千年桜の下で出会って結婚した杜夫と響子。54歳のいま、大学教授兼演劇評論家として社会的順風のなかにある杜夫は、テレビ局で見かけた24歳の亜矢に強く魅かれる。その若い肢体に溺れて逢瀬を重ねていたある日、杜夫は心臓発作で病院に運ばれ臨死体験をする。それは、沖縄生まれの“神女”亜矢の催眠術が見せてくれる不思議な光景だった。
貞淑な妻と穏やかな生活と年若き愛人との濃密な情事を手にした瞬間、人生のカウントダウンは始まっていたのかー死を覚悟しながらも、官能と恍惚を求める男の性。生と死の狭間にしか存在しない悦楽の先に待っていたものは…。文学史上かつてない、桜をモチーフに日本人の深層心理をえぐった究極の官能世界。
長崎の丸山遊里に愛八という名の芸者がいた。彼女が初めて本当の恋をしたのが、長崎学の研究者・古賀十二郎。「な、おいと一緒に、長崎の古か歌ば探して歩かんね」-忘れられた名曲「長崎ぶらぶら節」との出会い。そして父親のいない貧しい少女・お雪をはじめ、人人に捧げた無償の愛を描く。第122回直木賞受賞作。
空襲をかいくぐって披露宴を敢行した春男と照子。復員して信託会社に就職した春男だったが、いきなり大チョンボ。一から出直しとばかりにパン職人に。やがて照子のアイディアで始めたテレビ喫茶が大当たり。春子、夏子、秋子、冬子の四姉妹もすくすく育ち、中でも春子は、ひょんなことから習いはじめたスケートで、見る間に才能を発揮する-。親子の愛が育んだ大きな奇蹟の物語。今、家族の時代に贈る国民的ホームコメディー。
順調に見えた一家を襲う試練の数々。春子の入院騒ぎから間もなく、今度は春男の浮気が発覚し、岩田一家はてんやわんや。春男は、どうこの難局を切り抜けるか。春子のスケートは全国レベルへ上達し、五輪を目指すまでになる。一方、夏子には芸能界から誘いがかかり、歌手デビューの話が持ち上がる-。果たして、姉妹のオリンピックそして紅白、ダブル出場の奇蹟は起こるのか?夢見ることが人生だ!涙と笑いと感動の家族劇。
夢と野望を胸に渡った満洲の地。広大な原野に立ちすくみ、馬賊の襲撃に怯えつつも、森田勇太郎は着実に地盤を固め、森田酒造を満洲一の造り酒屋にまで成長させていく。だが、「同じ着物は二度着ない」とまで言われた栄華も長くはなかった。夫・勇太郎の留守中、ソ連軍の侵攻と満人の暴動に遭い森田酒造は崩壊。妻・波子は二人の子供を抱え、明日の命すら知れぬ逃亡生活を余儀なくされる。夫との再会を信じ、ひたすら故国を目指す波子。しかしこれは、波子を呑み込む過酷な運命の始まりに過ぎなかった。母、満洲、極限状態。直木賞受賞第一作。
果華の絶頂から一転、奈落の底へ。頼りにしていた夫との再会も束の間、勇太郎は強制労働に取られ、病で命を落としてしまう。すべてを失い、夫の屍を乗り越え、食うや食わずで二人の子供を守る母・波子。そんなとき、密かに思いを寄せていた男・氷室の消息が聞こえてきた。再会に胸躍らせる波子だが、彼女の前に現れたのは、阿片に体を蝕まれた廃人同然の男だった…。母として子供を守るか、女として一人の男を愛するか?極限の選択が波子に迫る!家族、愛、究極の選択。自伝的大作。
作詞家として活躍する著者のもとへ、十六年間絶縁状態だった兄の死の報せが届いたー。胸中によみがえる兄の姿。敗戦後に故郷小樽で再会した復員帰りの兄は、どこか人が変っていた。以来、破滅的に生きる兄に翻弄され、苦渋を強いられた弟が、兄の実像と兄弟のどうしようもない絆を、哀切の念をこめて描いた記念碑的傑作。