著者 : アン・ハンプソン
「この船で一夜を過ごすんだ。僕と二人きりで」あざけるような黒い瞳を、リザは呆然と見返した。ギリシアの血を引く実業家ラルフ・リンガードーいにしえのころから家同士が敵対する一族の男性。いまラルフは私を誘拐し、汚名を着せて報復しようとしている。彼の母親が亡くなったのは私のせいではないというのに…。ラルフの思惑どおり、リザは婚約者に去られ、醜聞にまみれた。だがリザの父が心労で危篤となり、やむなく二人は結婚する。互いの生活にはいっさい干渉しないという契約のもとに。弱冠19歳にして、リザは“愛されない妻”となったのだー
男性不信のキムは、生まれてこのかた恋をしたことがない。そんなある日、友人から頼みごとの電話を受けた。つい3週間前に社会的地位につられて婚約してしまった、冷徹な男性と何とかして別れたいという相談だった。怯える友人にかわって、富豪のジュリアン・パーネルにキムは会いに行くはめになる。そのときはまだ、キムは知る由もなかった。キムの美貌に目をつけたジュリアンに、僧院に閉じ込められ、いますぐ関係を結ぶか、結婚するかの決断を迫られようとは。
ロクサーヌは生まれてすぐに母親を亡くし、父親と乳母から厳格なしつけを受けて育った。ある日、ロクサーヌは親友のバースデーパーティで、スペインの血を引く大富豪フアン・アルマンド・ラミレスと出会う。漆黒の髪と鋭い瞳を持つ彼は、鷲を思わせる威圧感を漂わせている。射抜くような視線を向けられ、ロクサーヌはおののきながらも、経験のない胸のときめきを感じ、気づけば彼とダンスを踊っていた。これが運命の出会い?だが、うぶな彼女は想像もしていなかった。まさかフアンが意図的に彼女の名誉を傷つけ、彼の妻にならざるを得ない状況を作り出すとは!
17歳のキャシーは両親を相次いで亡くし、家も財産も失った。唯一遺されたのは、父と行くはずだったギリシア旅行のチケットだけ。悲しみに沈む一人旅の彼女に、ある男性が救いの手をさしのべた。アダム・カナリスーアテネに造船所を持つ船舶王だ。キャシーは彼の白亜の豪邸へ招かれ、美しい部屋を与えられた。それは、アダムに結婚を迫る女性を退けるために、彼の婚約者を演じる見返りだったのだが、まだ若く純粋なキャシーには、荷が重い役割だった。ましてや、ずっと年上で近寄りがたいほどハンサムなアダムを、ほんとうに愛してしまったあとではー。
医師に脳腫瘍と診断され、余命4カ月と知ったウェンディ。両親もなくひとりぼっちの彼女は、家財をすべて売り払い、豪華客船で最後の旅に出た。その船上で出会ったのが、ローマ時代の彫刻のような品格を漂わす、たくましくハンサムな富豪ガース・リヴァーズだ。やがて二人の距離はじょじょに縮まっていくが、彼に惹かれれば惹かれるほど、ウェンディは切なくなるのだった。どれだけ恋い焦がれようと、彼とは決して結ばれないー私が生きられる時間は、あとわずかしか残されていないのだから。
秘書のヘレンは、ギリシア人社長ニックから愛人関係を迫られ、逃げるように故郷に帰るが、そこでも災難が待っていた。よりにもよって親友の夫にしつこく言い寄られ、求愛されたのだ。困り果てていたヘレンの前に、ニックがふたたび現れる。「きみを手に入れるためなら、結婚してやってもいい」という傲慢なニックとの結婚を、ヘレンは親友を傷つけたくない、それだけの理由で受け入れたのだった。ところがニックは、彼女が別の男性と視線を交わすだけで激高する、潔癖な夫だった。だから親友の夫の執着を知られるや、痛烈な嫉妬を浴びせられー
教師のレイナは休暇で訪れた南の島で、海賊を思わせる老人と出会った。聞けば、島の半分は老人の、もう半分は大富豪トールのもので、トールは再三、島をすべて売り渡すよう老人に迫ってくるという。大事な島を、虎の目を持つ“悪党富豪”にみすみす渡したくはないと、老人は自分の死後に所有権をレイナに移すよう手配りして逝った。後日、その事情を知ったレイナが戸惑っているところへ、さっそくトールから島を売るよう迫る手紙が送りつけられる。あのご老人の気持ちを考えれば、絶対に手放すわけにはいかないわ!だが島を再訪したとき、トールの豪華な別荘へ招かれ、レイナは震えた。美しき悪魔と二人きり。身も心も、無事で帰れる気がしなくて…。
コレットは母親の再婚相手から疎まれ、こき使われていた。おまけに美人の義姉は、コレットの顔の痣をいつもからかう。そんなコレットにも、心惹かれる人がいる。義姉の知人、ルーク。神の如く美しいギリシア人富豪だ。醜い彼女を歯牙にもかけない。どころか、ルークが義姉と一緒に彼女の恋心を嘲笑しているのをもれ聞いた刹那…。コレットは肩を震わせて泣いたーしかし、7年後、彼女は別人のような美貌を手に入れる。事故で顔に重傷を負ったために、形成手術で痣も消えたのだ。そして、コレットだと気づかずに、彼女に見惚れるルークがいた。
美しく狡猾な姉に虐げられ続け、幸福すらテッサは奪われた。焦がれていたギリシア人富豪ポールと、姉は婚約したばかりか、テッサの恋心を「気味が悪い」と嘲笑ったのだ。骨の髄まで恥辱を味わわされたテッサは、耐えきれずに家を出た。2年後ー帰郷したテッサはあまりに残酷な現実を知らされる。ポールが火傷を負い失明したというのだ。しかも姉は彼を捨てた。身代わりでいい。側にいられさえすれば。一途な想いを貫くため、テッサはいまも姉を待つポールが住む、キブロス島へと向かった。姉のふりをして。そして…彼の妻になった。
ジュディ・ランハムー映画スターの名前にぴったりね。気ままな義姉のそのひとことが、すべての悲劇の始まりだった。女優の義姉は、ジュディの名前を芸名にしてしまったのだ。ある日、ジュディ宛に一通の手紙が届く。それは義姉へのギリシア人億万長者ビダスからのプロポーズの手紙だった。理由なき求婚。義姉は彼に会ったことすらないという。ところが、義姉の留守中に、ビダスがジュディを訪ねてきて、応対したジュディを、自分のジュディと思い込んだ。そして…ジュディは永遠に囚われた。彼が余命半年だとも知らずに。
あの事故から、9年ーゲイルに残されたのは痛みだけだった。髪の生え際と両腿、右肩から背中にかけての傷跡。こんな体では誰とも結婚できないと諦めかけていたところに、女嫌いで有名な、名門の大地主アンドルーに求婚される。子供の面倒を見るための肉体関係のない結婚でいいと言われ、鵜呑みにしたゲイルは周囲の反対を押し切って、子供が産めない体だという事実を言えないまま承諾してしまう。そのせいで、どれほど彼を愛したくても愛せない、新たな痛みを生み出すことになろうとも知らずに。
“君は僕のもの。僕の島へ来て妻となる。髪に花、首には宝石”ギリシア富豪レオンの言葉が、いま現実になろうとしている。9日前、看護師のタラは患者のレオンにいきなり唇を奪われた。ふたたび唇を奪われた夜、タラは我知らず結婚を承諾していた。しかしほどなく、巧みな口づけと愛撫の呪縛が解けると、タラは恥ずかしさで死にたくなった。彼女には婚約者がいた。レオンを避け続け、予定どおり結婚の日を迎えたタラだったが、何者かに拉致され、抵抗も空しくギリシア行きの船に乗せられた。いまだ花嫁姿のまま、レオンへの憎悪を胸にたぎらせながら。
5カ月前に父が亡くなり、天涯孤独の身となったクレアは、知人を頼って湖水地方に移り住み、何とか乗馬学校に職を得た。ところが、生徒の伯父と揉めて、解雇の憂き目を見る。相手が悪かった。大地主で地元の誰もが敬う支配者サイモン。クレアは横暴なサイモンを恨んだものの、意外にも彼は解雇させるつもりなどなかったと詫びる。「無職なら、僕が面倒を見ている姪の養育係になってほしい」クレアは喜んで、さっそく住み込みで働き始めたが、彼のあまりの過干渉と姪への無理解に、怒りを抑えきれず…。
ロクサーヌは母親を早くに亡くし、父親と乳母に育てられた。しつけは厳格で、ふたりの意に背くことは決して許されなかった。ある日、パーティに出かけたロクサーヌは視線を感じておののく。漆黒の髪に輝く黒い瞳。鷲を思わせるような威圧感。それがメキシコ人の大富豪フアンとの出会いだった。彼からディナーの誘いを受け、屋敷を訪れたロクサーヌは、すぐに後悔した。フアンは彼女を屋敷に閉じこめてしまったのだ。一夜を過ごした既成事実を作りあげてから、ロクサーヌの父に結婚を願い出るという彼の企みを聞かされた彼女は…。
古代ギリシア貴族の血をひく美貌の青年コノン。アラナがただ一人思いを寄せるのは、いまも彼だけだ。18歳の彼女に結婚を申し込んでくれた日を忘れたことなどない。その直後、横領した弟の窮地を救うために、やむなく好色な雇用主に身を差し出さなければならなかっただけにー。ところが、仕事の都合でコノンと再会し、アラナは身震いした。かつての情熱は影をひそめ、ギリシア神話の残酷な神々のように血の凍るような蔑みで彼女を見下したのだ。彼は求婚を拒絶したアラナを激しく憎み、復讐心に燃えていた。
かつて男性に騙され、恋愛に臆病になっているスザンナ。懸命に仕事に打ち込み、ようやく周りから認められた矢先、新任の上司ハザードから罵声を浴びせられて呆然とする。私が前任の上司と不倫していたですって?ひどい勘違いよ!(『特別扱い』)。顔にあざのあるコレットは母親の再婚相手から疎まれ、召使いのようにこき使われて、惨めな日々を送っていた。だが、ある事故のせいであざは消え、別人のように生まれ変わる。そんな彼女の前に、冷酷なギリシア人富豪ルークが現れて…。(『悪魔のばら』)。