著者 : シャーロット・ラム
「鏡の中の女」(シャーロット・ラム/馬渕早苗訳)目覚めるとそこには、濃い霧に覆われた荒れ地だった。ここはどこ?わたしはなぜこんなところに?それより、自分が誰なのかすらわからない!寒さと恐怖に震えていると、霧の中に長身の人影が。衰弱した彼女は、通りがかりのその男性に連れられて病院へ行ったが、不可解なのは、ジェイクという名の彼が敵意のまなざしを向けてきたこと…。数日後、退院を許された彼女のもとに、再びジェイクが現れた。いまだ記憶が戻らず途方に暮れる彼女に、彼はあっさり言った。「君の名前はリン・シェリダン。君は僕のものなんだ」 「アンダルシアにて」(ヴァイオレット・ウィンズピア/斉藤雅子訳)青白い顔をしたアラベルの病室には、高価な見舞いの品々が毎日届けられる。送り主はスペイン人の名士で、彼女の“夫”であるコルテスだという。記憶喪失のアラベルには、結婚など身に覚えがなかった。そこはかとない不安を感じていた彼女の前に、ある日、夫が現れた。威厳に満ち、尊大な雰囲気漂うコルテスを見て、アラベルが思わず結婚の無効を申し出ると、彼は言った。「君には僕しかいない。君は僕の妻なんだよ」そして、豪奢な屋敷にアラベルを連れて帰ったコルテスは、名実ともに妻となることで要求してきて…。
1年前に両親を亡くした18歳のマーシーは、おばから館を相続するため田舎からロンドンへ引っ越してきた。その港湾地区は多国籍企業サクストン社が開発を進めており、マーシーの館が唯一残る家屋敷で、文化的遺産とも言えた。まるで時が止まったかのようなその場所を守りたい彼女は、庭を開放して近隣の人々が集える癒やしの空間にし、みんなの人気者に。一方、サクストン社の豪腕社長ランダルはその状況を見過ごさなかった。館の買収に手こずる部下に業を煮やした彼は、自ら説得に動くと宣言。ランダルを含む誰もが、ものの10分で決着する交渉だと予期していた。まさか社長が、明るく純真なマーシーに魅せられてしまうとは思いもせず。
マリーは神秘的な体験を求め、モロッコへやってきた。観光は楽しんだものの、何か今ひとつ物足りない。暇を持てあました彼女は、ホテルの庭を散策していた。そのときだった。目の前に突然男が飛び出してくると、怯えるマリーの頭に布をかぶせ、砂漠へ連れ去ったのだ。荒々しさと優美さを併せ持つ、黒い瞳の謎めいた男性は、マリーを夢のような一夜へと誘った。あなたはいったい誰なの?イギリスに戻ったマリーは病床の父の会社が倒産寸前だと聞き、胸を痛めるが、父を破滅させた男の名と顔を知って凍りついた。ストーナー・グレイ。砂漠の秘密の想い人が悪魔だったなんて!
サラは親同士の再婚で家族になった義兄と二人で暮らしている。ある日、義兄に付き添って出席したパーティで、サラはハンサムで洗練された名門銀行の頭取ニックに出会った。一瞬で惹かれるが、どうしたことか彼の態度は刺々しい。義兄との仲を勝手に誤解し、ふしだらな女と言わんばかりにサラを非難すると、強引に唇を奪ったのだ。私のことなど何も知らないくせに、なぜそんなに傲慢なの?さらにニックは自信満々に、サラを必ず手に入れると言い切った。無垢なサラは動揺するばかりで、気づきもしなかったーニックの瞳の奥に揺らめく、隠しきれない嫉妬と情熱の炎に。
同僚とレストランに入ったライザは、ふと鋭い視線を感じて身震いした。顔を上げると、見覚えのある青い瞳に射貫かれた。スティーヴ!別れたはずの夫が、なぜこんなところに?1年前、ライザはまったく身に覚えのない不貞を疑われ、限界まで追いつめられた末に、耐えきれず家を飛びだしたのだった。思わぬ再会から数日後、今度は取引先の社長としてライザの前にスティーヴが現れ、去り際に謎めいた言葉を残していった。「また僕のもとに戻ってくるんだ。貸したものは返してもらう」ライザの心はかき乱された。彼なしの人生は虚しい。でも、私を信じてくれない人と暮らすのは、もっと虚しい…。
結婚式を明日に控えたミランダは、パーティを抜けだし、ひとり書斎に隠れてつかの間の休息をとっていた。愛するショーンは今頃、独身最後の夜を友人と楽しんでいる。ショーンとの初夜を想像して頬を赤らめたとき、同じくパーティ会場を抜けてきたらしい父の秘書が、連れとともに書斎へと入ってきた。ミランダがいるとは気づかずに、ひそひそと話を始めたーショーンがミランダと結婚するのは、愛ゆえではなく、彼女の父親に、結婚と引き替えに出世を約束されたからだと。幸せの絶頂から絶望の淵へと突き落とされたミランダは…。
厳格な継父に育てられたクレアは、おとなしく従順な娘だった。結婚相手までも継父に決められていたが、拒むすべはない。そんなある日、継妹がヨットクラブで出会った男性ベンを連れてきた。ハンサムでいかにも裕福そうな彼は、一流企業の社長だという。クレアと違って奔放な継妹には、お似合いの相手に見えた。ところが彼は継妹の恋人ではないらしく、クレアを無遠慮に見つめると、いきなり彼女の手を取って、脈打つ手首に唇を押しつけたのだ。初めて経験する熱いざわめき…。震える彼女に、ベンが言った。「君は、お父さんの決めた人と結婚することなどできないよ」クレアの中で眠っていた情熱が目覚め、恋に落ちた瞬間だった。
旅行会社の重役秘書クレアはホテルを視察するため、さる異国を訪れ、そこで偶然にも、1年前に別居したニックとでくわす。ニックを激しく愛していたクレアは、仕事で命を危険にさらす彼を見ているのがつらくなり、やむにやまれず彼のもとを去ったのだった。どうやらニックも仕事で同じホテルに滞在しているらしく、クレアはなんとか動揺を押し隠し、彼を避けつづけた。だがラウンジにいたとき、ふとした隙を突かれ、たくましいニックの手でダンスフロアへ連れ出されてしまう。彼はクレアの身を抱き寄せながら、その耳元で囁いた。「どんなに君が忘れたいと思っても、君はまだ僕の妻なんだ」
セリーナが店で歌を歌い始めたのは、16歳で高校生のころ。借り物のドレスを着たおどおどした少女だった。やがて、美貌の実業家アシュレイと出会って熱い恋におち、プロポーズを受けて結婚した。だがその後、理由もわからぬまま突然、夫に告げられた別れ…。あれから3年。引く手あまたの売れっ子となったセリーナは、ある朝、新聞を見て青ざめる。飛行機事故で乗客は全員死亡ーその中に元夫アシュレイの名前があったのだ。ところがその夜、ステージに立った彼女は、観客の中に誰あろうアシュレイの顔を見つけ、気を失った!
名門女子校で音楽教師をしているケイトは、ある朝の出勤途中、不意に車に轢かれそうになった。車から降りてきた褐色の肌の男性はケイトを厳しく叱責し、彼女にけががないことを確認すると、あっけなく立ち去った。ほどなくケイトはその傲慢な男性が、転校してきたばかりのパラスという女子生徒の兄、マルク・リリトスだと知る。ギリシアの海運王で、はかりしれない富の持ち主だそうだ。ケイトは校長からじきじきに頼み込まれ、問題を抱えているパラスの世話を焼くようになった。その兄マルクの卑劣な誘惑に屈することになるとは予想もせずに。
アンナは少女時代に親を亡くし、ロンドンには身内も親しい友人もいない。22歳になった今、狭いひと間の孤独なフラットに住み、指を噛んでひもじさをごまかす日々に耐えているのは、夢を叶えるため。最近、念願の仕事に就ける大きなチャンスが訪れ、希望に顔を輝かせるアンナだったが、さっそく窮地に陥る。出がけに家主に家賃の催促をされ、仕事の約束時間に遅れそうなのだ。降りたバス停から踵のすり減った靴でなんとか走り続けたが、出会い頭に長身の男性とぶつかり、はじき飛ばされてしまった!アンナの転げたぼろ靴をまじまじと見つめるその実業家レアードこそ、彼女にガラスの靴を履かせてくれる白馬の王子だとは知る由もなく…。
18歳の誕生日、アマンダは伯爵チェーザレから求婚された。それは親友同士である二人の母親が望んだことだったのだが、傲慢で情け容赦なく、誇り高い鷹のような伯爵が恐ろしくて、アマンダはプロポーズを断り、そのまま故郷を離れた。5年後、彼女は伯爵の弟ピエロと偶然の再会を果たす。優しく穏やかなピエロに伴われ、久しぶりに帰郷した彼女は、冷たい怒りをたたえたチェーザレの瞳に迎えられた。そして、アマンダは思い知らされることになる。チェーザレが、彼女の拒絶を許していなかったことを。そして、強引な求婚の第二幕が、今まさに切って落とされたことを。
レオニーは会ったこともない親族の住むギリシアへ旅立った。名門一族に生まれた亡き母が駆け落ち同然で結婚したため、これまでレオニーは一族から無視され、相続人からも外されてきた。だが、余命わずかの曽祖父が、急に会いたいと言ってきたのだ。彼女のほかに、またいとこのポール・カプレルも呼ばれていた。少女の頃、レオニーは新聞に載った彼を見て淡い恋心を抱いたものだが、今や彼は浮き名を流す傲慢な大富豪となり、一族唯一の相続人だった。しかし、曽祖父が突然、遺産はレオニーにゆだねると宣言する。呆然とする彼女と激高するポールを見て、さらに訳知り顔でつけ足した。おまえたち二人が結婚すれば、すべてまるく収まるじゃないか、と。
天涯孤独のケイトは、裕福な老婦人の話し相手の仕事を得た。その初日、美しい田園風景が広がる駅に着いた彼女は、ニコラス・アダムスという男性に、屋敷まで車で送ってもらう。実は彼こそが老婦人の甥で、ケイトの雇い主だった。ハンサムで優しく、名家出身者らしい高貴さにケイトは惹かれるが、屋敷で待っていたのは、老婦人と、ニコラスの婚約者だった。芽生えた恋心を隠し、ひたむきに仕事に励むケイトに対して、はじめは優しかったニコラスが、なぜか次第に苛立ちを見せ始める。そして彼の婚約者は、日に日に意地悪になっていった。私が何をしたの?悩むケイトに、ある晩ニコラスはキスをして…。
キャロラインは富豪弁護士ジェイムズとお互い一目惚れで結婚したが、気づけば、夫が留守がちな家でいつもひとりぼっち。ジェイムズが彼女の友人を遠ざけ、主婦業に専念させたせいだ。子供を望まない彼と妊娠をめぐって喧嘩になり、今は寝室も別。なんとか話し合って解決しようと夫の職場を訪れたときなどは、同僚女性を胸に抱く夫の後ろ姿を見てしまい、動揺するばかりだった。そんなある日、昔の知人男性とでくわして思い出話に花が咲き、キャロラインは久しぶりに声をあげて笑った。それでも、また会わないかという誘いにすぐに返事ができなかったのは、夫への罪悪感?いいえ、そうじゃない。彼女はふいに気づいたのだった。目の前の魅力的な男性が霞むほど、私はまだ夫に焦がれている、と。
17歳のリンデンの毎日は薔薇色だった。家にジョスがいるから。山道で事故を起こした彼を車から助けだし、家へ連れ帰って以来、リンデンとジョスは親子ほども年が違うのになぜか気が合った。人間嫌いの父も、彼を気に入っているようだ。そんなある夜、パーティへ出た彼女は、同じ年頃の少年など誰一人目に入らず、ジョスをージョスだけを愛していると気づいてしまう。月光を浴びながら泳ぎ、ふと岸を見やるとジョスがいた。彼は水の中に入ってきて、裸のリンデンを抱きすくめ…。だが翌朝、彼の姿は既になく、父親から驚愕の事実を知らされる。
パーティの間じゅう、ナターシャは部屋の隅で微笑んでいた。今日、突然フィアンセから婚約解消を言い渡された彼女には、悲しみにくれる心の置き場がわからないのだ。そんなナターシャを、熱を孕む瞳で見つめるひとりの男がいた。敏腕経営者でプレイボーイと名高い、ジョー・ファラルだ。わけもわからずナターシャが、震えて吐息をのむと、ジョーは彼女の手を優しく取り、そっと外に連れだしーいますぐ消えてなくなりたいナターシャは身をゆだねたのだ。一夜の夢に。その代償に、妊娠してしまうとは思いもせずに。
充実したケリーの人生で唯一の問題は、夫ドルーとの関係だ。もともと、ドルーはケリーの父親の会社を手に入れたくて、彼女は両親から自由になりたくて、便宜的に結婚したにすぎない。だから本当は夫に惹かれていても、ケリーは仮面をかぶり続けた。ほかにも女性がいるという彼に心を見せたら、傷つくだけだもの!ここ数年ケリーは、出張の多い実業家である夫の予定を把握し、彼がロンドンに戻るときはわざと旅行に出て、会うのを避けてきた。そんなふたりが、ある日パリで鉢合わせした。なんとドルーは、欲望を隠しもせずケリーに迫ってきて…。
「あなたのお兄さんって、どうして結婚しないのかしら」17歳のルイーズは、由緒ある美しい屋敷に帰ってきたばかり。パーティで、親友にそう問われても、彼女の心はうつろだった。ルイーズにはショックなことがあったのだ。いつものように、駅に迎えに来た義兄のダニエルが、今日は恋人を連れていた。血の繋がりのない、35歳の義兄をひとすじに慕い続けてきたのに。彼の“特別”にはなれないー思い知った彼女は距離を置こうと、パーティに親友と、自分に気のあるその兄を招待した。しかし、ダニエルはルイーズにほかの男性と踊らせようとしなかった…。