著者 : バ-バラ・カ-トランド
フェリーサ・ダールがまだ13歳のとき、ダーリントン公爵は、虐待されている彼女を残酷な父親から救った。公爵は、彼女を連れ帰り、フランスの修道院へ預けた。それから5年-。70万ポンドの遺産を相続したフェリーサのもとに、財産めあての不審な男たちが、頻繁に訪れているという。公爵は、彼女をイギリスにつれ戻すために、パリに向かった。5年ぶりに会うフェリーサは、美しい女性に成長していた。しかし、子供時代に受けた心の傷は、今も癒えていない。-美しいフェリーサは男が怖いのだ。だが、どうすれば彼女の心を開くことができるのだろう?公爵は、茫然とした目で、フェリーサを見つめた。
フォード家は、エリザベス女王の治世に建てられた、広大な屋敷で、代々、暮らしていた。しかし、ジェレミーとマリオタの父親である。フォードカム卿は、称号と領地を継承した時、共に巨額の負債も抱えこみ、貧しさにあえいでいた。ある日、ジェレミーは、貧困に焦燥感を募らせ、妹のマリオタに、窮状の打開策を持ちかけた。それは、なんと、強盗をはたらくということだった。マリオタは、呆れ果て、とり合おうとしなかった。が、ジェレミーは一向にあきらめず、ついに、マリオタは、計画に加担することになった-。ワーセスター街道で、2人が息をひそめていると、向こうから、パッケンハム伯爵の馬車が来た。
ユーナは、フィレンツェの女子修道院学校を卒業し、父のいるパリに向かった。在学中は、母の遺産で生計を立てていた。が、お金も底をつき、父に手紙を書くと、モンマルトルへ呼ばれたのだった。ところが、父のアトリエに着くと、ユーナを待っていたのは、ひとりの画商だった。彼はユーナに、父ソローの死を告げた。途方に暮れるユーナ…。みかねた画商は、ユーナを、ウオルスタントン公爵に引き合わせた。女性遍歴の多い公爵は、ユーナのういういしさが信じられず、疑惑のまなざしで見つめるばかりだった。
トリナの母レディー・シェリントンは、ジロンヌ伯爵と恋に落ち、結婚するという。ある日、トリナは、プロヴァンスにある伯爵の城に招待された。トリナは、その城の立派さに驚きながらも、実は、その維持のために莫大な費用がかかり金持ちの未亡人に貸すまでになっていることを知った。その未亡人は、伝説の「若返りの妙薬」が手に入るならば大金を積んでもかまわないと言っている。トリナは、自分で薬を研究し、彼女からお金を得ようと策略した。名案を思いつき、計画に着手したトリナだったが…。
レディー・ヴェスタは、ひとり、地中海の小国、カトーナの埠頭に立っていた。カトーナの王妃にと求められたヴェスタは、父に切望され、相手の顔も知らぬまま、イギリスをあとにした。そして、ここで出迎えのミロバン男爵と会うはずだった。ところが、ヴェスタの目の前に現れたのは、ミクロス・ツァコー伯爵だった。彼は、革命が起こりそうだからヴェスタにすぐに帰国するように勧める。しかし、ヴェスタの決意は固く、何としても夫となる大公殿下に会うという。ヴェスタの頑固さに、さすがの伯爵も折れ、2人は大公殿下の住む宮殿をめざして歩き出した。
カニュエラは病弱な母とふたり、ロンドンの片田舎で人目を避け、暮らしていた。外交官の父は国家機密漏洩の疑惑をかけられ職を追われ、失意のうちに自殺してしまった。カニュエラは父の冤罪をはらすことを望みながら、生活を支えるため、秘書の職に就いた。ところが彼女を雇ったのは、偶然にも、父を罠にかけたラモン・デ・ロペスだった。深い恨みを胸に秘め、素姓を隠して働くカニュエラにロペスはアルゼンチンでの仕事を命じた。思い出と屈辱の、あのブエノスアイレスで…。
19世紀。イングランド南東部では「魔女伝説」が広まっていた。ある日、アルドリッジ侯爵は、エセツクス州にある城に向かった。途中、スティープル村を通りかかると、村人たちが瀕死の女を囲み、虐待を加えている。女は魔女なので水責めにするところだという。見れば、端正な顔だちの若く、美しい娘だった。侯爵は、村人たちを非難し、そのまま彼女を城に、連れていった。侯爵の手厚い看護に彼女は次第に回復していくが、アイディラという名前以外、いっさいの記憶を失っていた。焦燥感にとらわれ、沈みがちな彼女を見かねた侯爵は、アイディラの謎を解こうと乗り出すのだが…。
両親をトルコ大地震で亡くしたアスターラは父の親友であり、大富豪でもあるロードリック卿のもとに身を寄せた。この上なく美しく成人したある日、アスターラはヨーハン・ファン・アーヘンの描いた『パリスの審判』という絵を買った。その絵を見て、ロードリック卿は名案を思いつく。アスターラに3人の甥から夫を選ばせ彼の莫大な財産を譲ろうというのだ。しかし、ヘラやアテナがパリスに誘いかけたように、2人の甥は心をそそるようなえさを持ち出し彼女をつろうとするのだが、3番目の甥は黄金のリンゴをほしがろうともしないのだ…。
先代の伯爵親子の事故死という悲劇は息子の従弟にあたるロックブルック伯に突然の爵位継承をもたらした。由緒ある称号と莫大な財産を相続したロックブルック伯だったが心のうちは重い憂鬱に閉ざされていた。軍人時代一夜を伴にした公爵令嬢レディー・ルイーズがかれが伯爵になり富と名声を手中にしたと知るや公爵である父を通して結婚をほのめかすようになったのだ。執拗なレディー・ルイーズの求婚から逃れるため遠乗りに出たロックブルック伯は、落馬し、故クランフォード少佐の館にかつぎこまれた。少佐の妹プリラの手厚い看護に触れロックブルック伯はある決意をした。
19世紀のイギリス。暗闇から聞こえてくる男たちの声に、ミルボーン卿の娘サルリーナは耳を澄ました。ジョージ皇太子の暗殺-。暗殺の舞台となるのはカールトン・ハウス。イギリスの最大の敵であるフランス皇帝、ナポレオン・ボナパルトの策略に違いない。いったいどうすれば…。気がつくと、サルリーナは、豪奢なフリートウッド伯爵の館の前に立っていた。
「すべての財産を美しい妻クリサに遺す」結婚式の興奮も醒めやらぬ間に急死した夫サイラスの遺言は、クリサにとって青天の霹靂だった。男爵の父の借金の肩がわりを条件に、アメリカの大富豪サイラスと結婚したクリサだったが、父も死んだいま、クリサにとって巨万の富は無用の長物だった。故郷に帰りたい-。すべてを捨て、傷心で、イギリスに向かう船トレーヌ号に乗りこんだクリサに、思いもかけない事件が待ち構えていた。
オスカー伯爵の従兄弟と名乗るジャーヴィス。実は彼は、伯爵の財産や爵位をねらっているらしい。伯爵に呪いをかける秘密の儀式を偶然見かけ、ドリナの胸は締めつけられた。ジャーヴィスの策略によって愛する伯爵を見殺しにすることはできない。「愛は奇跡を起こすの」と言った亡き母の声に勇気を得て、ドリナは伯爵のもとに急いだ。
伯爵の父を持つライナは、結婚によって爵位を得ようとするヘクター卿の執拗な求愛から逃れ、ひとりロンドンに向かった。職を求めるライナは、キティ・バーチントンの侍女としてパリの舞踏会へ行く仕事を得た。しかし、その仕事の裏には意外な事実が隠されていた。
「おまえを第五代ゴールストン公爵に嫁がせる!」父の話はオレサにとって青天のへきれきだった。莫大な財産を相読するはずのアシャースト家のひとり娘だからといっても結婚する相手は自分で決めたい-。そこで、父の決めた相手がどんな男性か自分の目で確かめることにしたオレサは、図書室の目録作りを依頼された司書の娘になりすまして公爵の屋敷にのりこんだが…。
「きみにそっくりだ」プラドー美術館に飾られた聖母マリアの絵を前にしてしかも、姉のヘルミオネが結婚を望んでいる相手のシルバーラ伯爵が口にした言葉はヴァレーダを不思議な気分にさせた…。娘の家庭教師として素性を偽り、スペイン訪問に同行してほしい-という姉のヘルミオネの頼みをききいれはしたものの、静かな田舎の暮らしとはまるで違うスペインの日々はヴァレーダには驚くことばかりだった。
差出人不明の手紙に呼び出され、好奇心からハイドパークへ出向いたヘルストン伯爵。そこへ、1頭の馬が猛スピートで駆けてきたかと思うと、目の前で、緑色の乗馬服の女が馬から落ちた。驚いて駆け寄る伯爵に、女はレディ・チェビントンの娘カリスタだと名乗り、チェビントン館からの招待を断ってくれと思いもかけない言葉を口にする。「うちにいらしたら、無理やりわたしと結婚させられてしまうからよ」。
社交界にデビューしたての妹のナネッタはどうやら恋をしているらしい。相手は全目当てで女に近づくという評判の悪い男。妹を守るにはどうしたらいいのだろう?プルネラは思い悩んだ末、亡き父の知り合いだったウィンスロー伯爵を訪ね、力を貸してほしいと頼んだ。ところが彼は、長い田舎暮らしで、恋も知らずにきたプルネラをさんざんばかにし、ナネッタの肩をもとうとするのだ。
ケンウィン伯爵の娘サマラはとても父親思いで、借金をかかえた苦しい生活にも明るさを失わない。ある日、屋敷の前に豪華な馬車が横づけにされた。訪問者は見知らぬ年配のレディだったが、弟の結婚相手としてサマラを迎えたいと切り出した。しかも、結婚式は半月ほど後に決まっているという。会ったことも話したこともない人と結婚だなんて!サマラは当惑するが、相手がバックハースト公爵ときいたとたんすらすらと返事していた。「喜んで申し出をお受けします」。
父母を失い、頼る人もいないドルーシラは今は住み込みの家庭教師として公爵家で働く身。そんなある夜、ドルーシラの部屋に、今は候爵となっている幼なじみのヴァルドが飛び込んできた。「きみだけが、ぼくを助けることができるんだ」思いがけない再会に驚くまもなく、雇い主の公爵が現れ、公爵夫人とヴァルドとの仲を疑い、決闘を申し込もうとする。ヴァルドをかばうためにドルーシラは思わず、彼から求愛され、結婚するつもりだと告げる。