著者 : 三浦哲郎
雑誌『群像』は1946年10月号を創刊号とし、2016年10月号で創刊70年を迎えました。これを記念し、永久保存版と銘打って発売された号には戦後を代表する短篇として54作品が収録され、大きな話題を呼びました。このたびそれを文庫三分冊とし、さらに多くの読者にお届けいたします。第二弾は経済の繁栄、社会構造の激変と「戦後文学」の変容を示す18篇を収録。 1946年10月号を創刊号とし、2016年10月号で創刊70年を迎えた文芸誌「群像」。 創刊70周年記念に永久保存版と銘打って発売された号には戦後を代表する短篇として54作品が収録され大きな話題を呼び、即完売となった。このたびそれを文庫三分冊とし、さらに多くの読者にお届けいたします。第二弾は経済の繁栄、社会構造の激変と「戦後文学」の変容を示す18篇を収める。 三浦哲郎「拳銃」 吉村 昭「メロンと鳩」 富岡多惠子「立切れ」 林 京子「空罐」 藤枝静男「悲しいだけ」 小島信夫「返信」 大江健三郎「無垢の歌、経験の歌」 後藤明生「ピラミッドトーク」 大庭みな子「鮭苺の入江」 丸谷才一「樹影譚」 津島佑子「ジャッカ・ドフニーー夏の家」 色川武大「路上」 山田詠美「唇から蝶」 多和田葉子「ゴットハルト鉄道」 笙野頼子「使い魔の日記」 小川国夫「星月夜」 稲葉真弓「七千日」 保坂和志「生きる歓び」
短篇の名手が贈る凝縮された作品群「モザイク」第3集。忘れかけていた人生の情景が鮮やかによみがえる。あれは、いつ、どこで見た、なんの模様だったろう-。遠い日の父の記憶を描く表題作など珠玉の小説17篇。
父の事故死、母の出奔で別々に育てられた姉弟が、十年ぶりに再会した。以来、十七歳の弟は、二十歳の姉を週末ごとに訪ねる。夜、姉の布団で幼子のように身を寄せながら、歳月の重さと互いの愛の深さにおののく二人。その年、北国の町では怪しげな商事会社が暗躍し、孤独な二人に危険な人間関係がからみつく。百日紅の咲かない寒い夏に出会ってしまった、姉弟の一途な愛の行方は。
歯科医院で働く二十歳の姉と、自動車修理工場で働く十七歳の弟。父の死、母の出奔により別々に育った姉弟が十年ぶりに再会したその年、北国は百日紅の咲かない寒い夏を迎えていた。怪しげな商事会社の暗躍、それぞれのどうにもならない愛情問題、お互いの心の奥底の欲求…育まれた悲劇の芽は次第に大きく育ち、巨木となって二人に襲いかかった。北国の姉弟の悲しい運命を静かに描き上げる三浦文学の新しい結晶。
夫が出稼ぎに発った晩から激しくなるばかりのからだのほてり。東北の海辺の町に住む35歳の浜浦登世は、自分でも不可解な性の衝動を抑えきれなくなり、幼なじみの英子に相談を持ちかける。やがて英子は病気で入院し、皮肉なことに登世はその留守中に近づいてきた英子の夫・聖次を受け入れてしまう。ある日、抱擁の現場を息子に覗かれ…。性に翻弄されて狂ってゆく平凡な女の運命。
不倫の場を覗かれた日から、貧しいながらも幸福な家庭に魔の影が忍び寄る。脅迫者に豹変した息子と娘は共謀して登世をゆすりだし、愛人にもやがて捨てられる。流産、結核の兆候、際限なくエスカレートする子らの要求…。追い詰められた登世は、パート先の事務長にからだを買われることに。破滅へと加速度的に転がる坂道。人間の内に潜む性の魔性を照射して新境地を拓いた長編。
一家の暗い宿命を負って生きた母が、九十一歳で長かった辛い人生を終えようとしている。その死の前後を静謐な文章で淡々と綴った、母への絶唱「愁月記」他、久しぶりに肉親たちや著者自身に関わる作品ばかりで編んだ待望の短篇集。七篇の収録作は、それぞれ『忍ぶ川』『白夜を旅する人々』など、著者自らの運命の系譜を辿る諸作品に連なるもので、短篇の名手が遺憾なく真骨頂を発揮する。
都会を捨てた一家が静かな高原で営むペンション〈モーツァルト荘〉。ラジカセのロックで踊り狂い、奇妙な忘れものを残していく若夫婦、駆け落ちカップルを囲む不思議な晩餐会、月夜に前庭で舞う裸婦、そしてクリスマス・イブに化けて出るのは狐?四季折々、訪れる老若男女が起こしていく事件ともいえない波紋の数々-。彼らが奏でる人生の協奏曲を円熟の筆で伝える連作小説集。
著者の故郷を舞台にそこに住む人々とその暮しを描く。厳しい自然と対峙する強靭な生命力のしたたかさ。優しく哀しくユーモア滲む短篇の名手・三浦哲郎の瑞々しき豊饒の世界。「金色の朝」「がたくり馬車」「沈丁花」ほか〈故郷〉の匂い染み込む作品群十六篇。新境地を拓いた著者ならではの短篇集。
昭和の初めの東北、青森ー。呉服屋〈山勢〉の長女と三女は、ある重い運命を負って生まれついた。自らの身体を流れる血の宿命に脅えたか、心労の果てに新たな再生を求めたか、やがて、次女は津軽海峡に身を投げ、長男は家を出て姿を消した。そして長女もまた…。必死に生きようとして叶わず、滅んでいった著者自身の兄姉たちの足跡を鎮魂の思いでたどる長編小説。大仏次郎賞受賞作。
うわべは優雅な村人であった亡父の形見の六連発の拳銃。母の心臓に、雷に打たれたようにある六つの小さい深い穴。さりげない筆致と深く暖かな語りのうちに、生きていることの根に、静かな声援をおくる三浦哲郎の鮮やかな短篇連作の世界。野間文芸賞受賞。
家庭生活の光と影のあわいを描いた初期の「結婚」から、母の死を看取った単行本未収録の「愁月記」等最新作まで、著者の肉親や身辺に題材を取った名作23篇。