著者 : 小山内園子
物語のなかの〈弱さ〉が、読む人の心に光を灯す どの作品も、〈弱さ〉を正面から描いているからーー。 著者が数々の作品の翻訳を手掛けるなかで、「なぜ韓国現代文学に魅せられるのか」を自らに問い、深く考えてたどり着いたのが、この答えでした。 〈弱さ〉とは、自らの意志とは関係なく選択肢を奪われた状態のこと。その視点で、『82年生まれ、キム・ジヨン』をはじめとする多彩な13の作品を読み解きながら、そのメッセージを探り、魅力を掘り下げます。一つひとつの物語を丁寧にたどっていくと、この暴力的な現代社会を生きるための道が照らし出されるはずです。 2023年1月〜3月にNHKラジオ第2「カルチャーラジオ 文学の時間」で放送された同名の講座、待望の書籍化! 第一章:試練の歴史と作家のまなざしーーパク・ミンギュ『亡き王女のためのパヴァーヌ』 第二章:ある女性が〈ひとり〉になるまでの物語ーーチョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』 第三章:性暴力を「信じてもらえない語り」で描くーーカン・ファギル『別の人』 第四章:「普通」の限界、クィア文学が開けた風穴ーーパク・サンヨン『大都会の愛し方』 第五章:経済優先社会で行き場を失う労働者ーー孔枝泳『椅子取りゲーム』 第六章:植民地支配下、声を上げる女たちの系譜ーーパク・ソリョン『滞空女 屋根の上のモダンガール』 第七章:民主化運動、忘却に静かに抗うーーキム・スム『Lの運動靴』 第八章:セウォル号沈没事件・キャンドル革命と〈弱者〉--ファン・ジョンウン『ディディの傘』 第九章:「子どもが親を選べたら」少子化が生んだ想像力ーーイ・ヒヨン『ペイント』 第十章:社会の周縁から人間の本質を問うーーキム・ヘジン『中央駅』 第十一章:あり得たかもしれない、ハッピーエンドの物語ーーチョン・セラン『シソンから、』 第十二章:高齢女性の殺し屋が問いかける〈弱さ〉--ク・ビョンモ『破果』 第十三章:弱くある自由を叫ぶーーチョ・ナムジュ『私たちが記したもの』 〈弱さ〉から始まる未来を想像するーーあとがきにかえて
「この車に乗ったら最後、お前の身体は、一から十まで作り変えられる」。師に見出され殺しの道を歩みはじめた彼女は、死と隣り合わせの最終訓練に臨む。人を破壊する術を身につけることは、人として、女としての「普通」の一生を粉々にすることー。伝説の殺し屋誕生を濃密に描き出す、戦慄と陶酔ほとばしる『破果』外伝。
『82年生まれ、キム・ジヨン』著者チョ・ナムジュのデビュー作!抜群の聴力を持ちつつも、周囲からさげすまれる少年。衰退する市場の起死回生を図る店主。業界での生き残りを賭けるTVディレクター。三者三様の悲喜こもごもは、壮大なサバイバルゲームへとなだれ込み、三つのカップのように渦を描く。文学トンネ小説賞受賞の傑作!
1950年代後半、朝鮮戦争の傷痕が残る西洋式「大仏ホテル」に居場所を見つけた3人の若者、外国人客の通訳をしながらアメリカ行きを目論むコ・ヨンジュ、アメリカ軍の無差別爆撃で家族を亡くしたチ・ヨンヒョン、韓国人からヘイトの対象とされる華僑のルェ・イハン。悪霊に取り憑かれていると噂のホテルに、ある日、シャーリイ・ジャクスンがチェックイン。エミリー・ブロンテも姿を現し、運命の歯車が回りだすー。韓国社会の“恨”を描くゴシックスリラー。
『キム・ジヨン』の多大な反響と毀誉褒貶、著者自身の体験を一部素材にしたような衝撃の短編「誤記」ほか、10代の初恋、子育て世代の悩み、80歳前後の姉妹の老境まで、全世代を応援する短編集。
コロナ後の厳しい時代を「やさしさ」で武装して生き抜くために。サッカーチームの先輩から自然に受けていた励まし、偽善的な上司への演技、客室乗務員時代の女性たちの連帯…。マウントや偏見など無意識の暴力がはびこる日常生活を、相手の立ち場で考える想像力=「やさしさ」を持って見つめ直し、私を立ち上がらせた大切な感情の集積。韓国で大反響のエッセイ!
稼業ひとすじ四五年。かつて名を馳せた女殺し屋・爪角も老いからは逃れられず、ある日致命的なミスを犯してしまう。拾ってしまった捨て犬、しきりに突っかかってくる同業者、たまたま秘密を共有することになった医者ー。周囲の存在に揺り動かされ、みずからの変化を受け入れるとき、人生最後の死闘がはじまる。「生への讃歌」と絶賛された韓国発の新感覚ノワール、待望の邦訳。
子どもを欲しがらない人はますます増えていた。出産を奨励するために政府がさまざまな支援策を打ち出したが無駄だった。時間が経つにつれ状況はややこしくなった。政府は結局、新たな道へ踏み出した。「これからは国が責任を持って子どもを育てます」。チャンビ青少年文学賞受賞作。
都心にギリギリ通勤圏内。他のコミュニテイから隔絶された山あいに国家が建設したのは、少子化対策の切り札となる集合住宅だった。「入居10年以内に子供を3人もうける」というミッションをクリアすべく入居したのは、4組の夫婦。やがて、お仕着せの“共同体”は少しずつ軋みはじめるー。奇抜な設定で、「共同保育」「家事労働」「労働格差」など韓国社会のホットで深刻な現実を描き出していると話題を呼んだ作品。
植民地時代の朝鮮では、日本が西洋文化を学ぶための窓だった。日本語を習得し、日本流に変形された自然主義文学を受容した廉想渉の作品の変遷を縦糸に、自然主義が生まれたフランス、それを変形させて受容した日本、日本から自然主義を受けいれた韓国の比較を横糸に、韓国における近代の受容の軌跡をたどる。