著者 : 恩田陸
湿原に浮かぶ檻、と密かに呼ばれていた全寮制の学園。ここでは特殊な事情を抱える生徒が、しばしば行方を晦ます。ヨハンの隠れた素顔、校長の悲しき回想、幼き日の理瀬、黎二と麗子の秘密、月夜に思いを馳せる聖、そして水野理瀬の現在。理瀬と理瀬を取り巻く人物たちによる、幻想的な世界へ誘う六編。
「私」には、三人の母がいる。日がな鳥籠を眺める産みの母・和江。身の回りのことを教えてくれる育ての母・莢子。無表情で帳場に立つ名義上の母・文子。ある時、「私」は館に出入りする男たちの宴会に迷い込む。着流しの笹野、背広を着た子爵、軍服の久我原。なぜか彼らに近しさを感じる「私」。だがそれは、夥しい血が流れる惨劇の始まりで…。幻の作家「飯合梓」によって執筆された、美しくも惨烈な幻想譚。「本格的なメタフィクションを」という恩田陸渾身の挑戦がここに結実!
撮影中の事故により三たび映像化が頓挫した小説『夜果つるところ』と、その著者・飯合梓の謎を追う小説家の蕗谷梢は、関係者が一堂に会するクルーズ旅行に夫・雅春とともに参加した。船上では、映画監督の角替、映画プロデューサーの進藤、編集者の島崎、漫画家ユニット・真鍋姉妹など、『夜〜』にひとかたならぬ思いを持つ面々が、梢の取材に応えて語り出す。次々と現れる新事実と新解釈。旅の半ば、『夜〜』を読み返した梢は、ある違和感を覚えてー。
大阪の海産物問屋の息子を父に、東京の老舗和菓子屋の娘を母に持つ、梯結子。彼女の融通無碍な人生が、いまここに始まるー。これは、梯結子の問題解決及びその調達人生の記録である。
夏が近づく季節、母方の故郷・磐座を訪れた奈智。十四歳になると参加することになる二か月に及ぶ長期キャンプは、「虚ろ舟乗り」の適性を見極めるためのものだった。キャンプの本当の目的とはー。14年の連載を経て紡いだ美しくもおぞましい吸血鬼SF。
英国へ留学中のリセは、友人のアリスから「ブラックローズハウス」という薔薇をかたどった館のパーティに招かれる。美貌の長兄・アーサーや、闊達な次兄・デイヴらアリスの家族と交流を深めるリセ。折しもその近くでは、首と胴体が切断された遺体が見つかり「祭壇殺人事件」と名付けられた事件が起きていた。屋敷の主、オズワルドが一族に伝わる秘宝を披露するのでは、とまことしやかに招待客が囁く中、悲劇が訪れる。さながら、あの凄惨な事件をなぞらえるかのごとく。禍々しい美しさを纏う少女が、呪われた一族の謎に挑む。可憐な「百合」から、妖美な「薔薇」へー。正統派ゴシック・ミステリの到達点!
この扉の向こうに、秘密を抱えた旅人たちがいる。豪華寝台列車「ななつ星」の旅から生まれた5編の物語と2つの随想。ゆっくりと流れる時間の中、人は、それまで口にしたことのない言葉を語りだす。
白いワンピースに、麦わら帽子。廃ビルに現れる“少女”の都市伝説とは?物に触れると過去が見える、不思議な能力を持つ散多。彼は亡き両親の面影を追って、兄とともに古い「タイル」を探していた。取り壊し予定の建物を訪ねるうち、兄弟はさらなる謎に巻き込まれてー。消えゆく時代と新しい時代のはざまで巻き起こる、懐かしくて新しいエンタテインメント長編。再開発予定の地方都市を舞台にした、ファンタジックミステリー。
イグアナが料理されれば盗賊団が上海に押し寄せ、そこに無双の甘党が上陸。風水師が二色に塗り分けられ、ホラー映画の巨匠がむせび泣くと秘宝『蝙蝠』の争奪戦が始まった!革ジャンの美青年がカプチーノをオーダー、一瞬で10万ドルが吹き飛んだら、上海猛牛号で渋滞をすりぬけ、まぁとにかく寿司喰寧。歯が命のイケメン警察署長が独走し、青年が霊感に覚醒したとき、パンダが街を蹂躙する!張り巡らされた魔術に酔いしれよ!圧巻のエンタテインメント。
索条痕のない窒息死体が連続で見つかった。この殺人事件に、あの男は関与しているのか。雑誌記者が、あとを追う。特殊能力を持つ者たちが覇権を争う「途鎖国」でやがて犯罪者の王として君臨する神山が、闇に目覚める瞬間を描く(表題作)。傑作ダーク・ファンタジー『夜の底は柔らかな幻』へと続く鮮烈な作品集。
暑い日になぜか起こる奇怪なある出来事、風鈴の音が呼び覚ますもう一人のわたしの記憶、死んだはずの母が見えるわたし、病院から届いた友人のSOS、旧いブザーを押す招かざる客…。それは不思議な夢か、それとも妄想なのか?10人の豪華執筆陣が“怪異”をテーマに描く、短篇アンソロジー。極上の奇譚小説をあなたにー。
とあるたてこもり事件の不可解な証言を集めるうちに、戦慄の真相に辿り着いて…(「ありふれた事件」)。幼なじみのバレエダンサーとの再会を通じて才能がもたらす美と神秘と酷薄さに触れる「春の祭典」。密かに都市伝説となった歩道橋を訪れた「私」が記憶と、現実と、世界の裂け目を目撃する表題作ほか、まさにセンス・オブ・ワンダーな、小説の粋を全て詰め込んだ珠玉の一冊。
立入制限区域をパトロールするロボット「ウルトラエイト」の居住区に、国税庁から派遣されたという謎の女・財護徳子が現れる。だが彼らには、人間の訪問が知らされていなかった。戸惑いながらも、人間である徳子の命令に従うことにするのだが…。
近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。 自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。 かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。 楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。 完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。 天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。 その火蓋が切られた。
2次予選での課題曲「春と修羅」。 この現代曲をどう弾くかが3次予選に進めるか否かの分かれ道だった。 マサルの演奏は素晴らしかった。 が、明石は自分の「春と修羅」に自信を持ち、勝算を感じていた……。 12人が残る3次(リサイタル形式)、6人しか選ばれない本選(オーケストラとの協奏曲)に勝ち進むのは誰か。 そして優勝を手にするのはーー。
耽美派小説の巨匠、重松時子が薬物死を遂げてから、四年。時子に縁の深い女たちが今年もうぐいす館に集まり、彼女を偲ぶ宴が催された。ライター絵里子、流行作家尚美、純文学作家つかさ、編集者えい子、出版プロダクション経営の静子。なごやかな会話は、謎のメッセージをきっかけに、告発と告白の嵐に飲み込まれてしまう。はたして時子の死は、自殺か、他殺かーー? 長篇心理ミステリー。
読みまどい、辿りつけ。きっとあるはずだ。竹林(と美女)の理想郷が。十人の人気作家による「美女と竹林」モチーフの新作短編集。