著者 : 梶よう子
八丈島生まれの留吉は、大工の棟梁をしている同郷の半右衛門の誘いで横浜へ移り、奉公先で商いを覚え異国語も学ぶ。偉ぶらず、やることは大胆で、強引さのある半右衛門に憧れていた留吉は「半右衛門の役に立ちたい」と思い続け、二十七年後ウィリアム商館で番頭を務めるまでになっていた。「鳥島へ行かないか?」半右衛門に声をかけられ島へ渡ると驚くべき光景が広がっていた。絶海の無人島で鳥を撲殺し、金を生み出す島へと変えた男、玉置半右衛門。その壮絶な人生とは!?
ただ、江戸を守りたい。非力であろうと、臆病であろうとーー。 二百六十年以上にわたる長き泰平の世で、江戸が初めて戦場になった日。 彰義隊は強大なる新政府軍に挑み、儚く散った。 名もなき彼らの葛藤と非業の運命を描く、号泣必至の傑作! 慶応四年。鳥羽伏見の戦いで幕府軍を破った新政府軍が江戸に迫る。多くの町人も交えて結成された彰義隊は上野寛永寺に立て篭もるが、わずか半日で最新兵器を駆使する官軍に敗北ーー。なぜ、名もなき彼らは、無謀な戦いの場に身を投じたのか。臆病者の旗本次男・小山勝美ら、若き彰義隊隊士の葛藤と非業の運命を情感豊かな筆致で描き出す、号泣必至の傑作!
精確で優れた仕事ぶりから、 「おまんまを喰いっぱぐれる心配がない」とついたふたつ名は『おまんまの安』-- 摺師・安次郎は、亡き女房の実家へ預けていた息子の信太を引き取り、神田明神下の長屋に父子二人で暮らしていた。 そんなある日、兄弟弟子の直助が血相を変えて摺り場に飛び込んできた。 なんでも、共に切磋琢磨してきた彫師の伊之助がお縄になったという……。 江戸の人情が深く染み渡る、あたたかく切ない傑作時代小説。
「おけいさんは相変わらずだの。小鳥をあの子と呼んだり、売れた鳥を送り出したといったりな」「だって、ここにいる鳥たちは皆、大切な子です。命を持っているんですもの」わけありの夫と離縁し飼鳥屋を営む女主人のおけい。九官鳥・月丸との暮らしも順調なある日、店は大火に呑み込まれ…。たおやかで実直なおけいの選ぶ人生の道とはー?
東京の芝田町で土木請負を生業にしていた平野屋弥市のもとに、東京〜横浜間に鉄道を通す計画があることが報される。鉄道敷設は、明治新政府肝煎りの一大事業だった。芝〜品川間の海上を走らせる「築堤」部分を請け負うことになった弥市は、誰もやったことがない難工事に立ち向かう。しかしそこには、様々な困難が待ち受けていたー。
わたしたちには翼がある。新しい時代へ、力強く飛び立つ翼が。戊辰戦争を生き延びた孤独な少女は、横浜の女学校「フェリス・セミナリー」と出会う。女性の自立と子どもの幸せを希求し、やがて、明治の文学者・若松賎子として歩みだすー名作児童文学『小公子』を日本で初めて翻訳。命を燃やし尽くした三十一年の生涯に新たな光をあてる感動長編。
描きたいんだよ、おれが見てきた江戸の青空をーー。〈青の浮世絵師〉歌川広重が謳歌した遅咲き人生! 美人画は「色気がない」、役者絵は「似ていない」と酷評されてばかりの歌川広重。鳴かず飛ばずの貧乏暮らしのなか、舶来の高価な顔料「ベロ藍」の、深く澄み切った色味を目にした広重は、この青でしか描けない画があると一念発起する。葛飾北斎、歌川国貞が人気を博した時代に、日本の美を発見した名所絵で一世を風靡し、遠くゴッホをも魅了した絵師の、比類なき半生を描く傑作長編。
絵師を目指し、安房から江戸に出て十年。菱川吉兵衛は、吉原と芝居小屋という「二大悪所」に入り浸る自堕落な日々を過ごしていた。 狩野探幽への弟子入りを門前払いされたものの、その面目なさから郷里の縫箔屋の跡を継ぐ決心もできずにいたのだ。 そんな中、ひょんなことから吉原の女たちの小袖に刺繍を施すことに。福良雀と笹の葉、波千鳥、吉祥文様の宝珠、玩具の手毬や扇子に草花。 さまざまな美しい意匠を縫い付けながら、吉兵衛は、未来の見えない辛い日々の中でも懸命に明るく生きようとする彼女たちの心の温もりに励まされ、再び筆を執ることを決意する。 だが、ある日突然巻き起こった大火に吉原と江戸の街が飲み込まれ……。江戸の人々の暮らしを見つめ続けた菱川師宣こと吉兵衛が本当に描きたかったものとは? 浮世絵の祖の生涯を描く、人情と愛に満ちた波瀾万丈の浮世絵師小説。
神田旅籠町の一角で、素麺箱に古本を並べ、商売をする男がいた。その名は藤岡屋由蔵ー古本販売を隠れ蓑に売っていたのは、裏が取れた噂や風聞の類。買いに来るのは、各藩の留守居役や奉行所の役人であった。そんな由蔵のもとに、ある日、幕府天文方の役人が逃げ込んで来るが、シーボルト事件に絡むその騒動で、由蔵の手下が命を落とす。手下の理不尽な死を許すことができない由蔵は、真実を暴くため、動き始めるのだが…。気鋭の作家が描く傑作歴史小説。
長く泰平の世が続き、代々大久保の地を守る鉄砲同心たちは火薬の材料を転用したつつじ栽培の内職に励み、時季には美しい花々を求めて多くの人が集まる江戸名所となっていた。礫家はつつじ作りの才を持つ丈一郎、頑固者の父・徳右衛門、温和な母・広江、勝気な妻・みどり、生真面目な息子・市松、物忘れが多くなってきた祖母・登代乃の六人暮らし。銃の代わりに大ばさみを握り、火薬の材料を肥料に花を咲かせる。大久保鉄砲百人組、礫一家が繰り広げる笑いと涙の春夏秋冬。温かなお江戸家族小説!
下谷の山伏町にある風変わりな名前の「三年長屋」。その河童が祀られた長屋に三年ほど暮らした者は、居職の者なら工房と弟子を抱え、棒手振り稼業なら表店を出し、女子は良縁に恵まれるというー。お節介と差し出口が過ぎる差配と、一癖も二癖もある店子たちの願いは、果たして叶うのか…。
おいしくも切ない味がする、江戸の料理をめしあがれ 蕪汁、桜餅、鮎の塩焼き……いま話題の女性時代作家による絶品アンソロジー 岡っ引きの茂七が、謎めいた稲荷屋台の親父が出す料理をきっかけに事件の真相に迫る「お勢殺し」(宮部みゆき)、菓子屋の跡取り息子なのに、菓子作りが下手な栄吉の葛藤と成長を描いた「餡子は甘いか」(畠中恵)、風邪で寝込んだお勝が本当に食べたかったものとは何かを探る「鮎売り」(坂井希久子)など、江戸の料理や菓子をめぐる短編六作を収録した、思わずお腹がすいてくる時代小説アンソロジー。
看板娘のお瑛と兄の長太郎が切り盛りする雑貨屋『みとや』。一律三十八文が売りの小さな店だが、のんきな兄が鼻高々で仕入れてくるのは、おかしな品ばかり。大量の黄表紙、煙臭い市松人形、小花の簪、山ほどの下駄。訳あり品に秘められた下町人情、意外な縁、嫉妬の罠とは……。時代小説の名手が、背負った過去にも負けずに生きる人びとの姿を、しみじみと描き出す。好評シリーズ第二弾。
変化朝顔の栽培が生きがいの同心・中根興三郎は、菊作りで糊口をしのぐ御家人・中江惣三郎と知り合う。だが帰り路、興三郎は中江と間違えられて、謎の侍たちに襲われかける。じつは中江は金のために菊を使って悪事を重ね、恨みを買っていたという。興三郎は憤りつつ、中江のしていることに疑問を抱く…。花を愛する人びとが織りなす江戸の人間模様。
信州小布施の豪商の惣領息子・高井三九郎は、葛飾北斎の弟子になるために江戸へやって来た。だが相手にしてもらえず、美人画絵師の渓斎英泉にからかわれたり、北斎の娘・お栄にこき使われたりで、弟子入りの話はうやむや。そんな折、北斎の贋作が出回る事件が出来し…。浮世絵師たちの姿を描いた長編歴史小説。
突然、理由もなく嫁ぎ先から離縁された女流書家の岡島雪江は心機一転、筆法指南所(書道教室)を始める。しかし大酒飲みの師匠・巻菱湖や、かまびすしい弟子の武家娘たち、奥右筆の弟・新之丞に振り回される日々。そんなある日、元夫の章一郎が「ある事件」に巻き込まれたことを知りー。江戸時代に生きる「書家」とその師弟愛を描いた、感動作。
西丸書院番組頭を務める立原家の娘、志津乃には、決して忘れることのできない男がいた。かつての許婚の坂木蒼馬は、西丸書院番士であったが、徳川家治の嗣子、家基の死を切っ掛けに突如出奔したのだ。彼を忘れられずにいる志津乃に対し、蒼馬の友人だった男は、蒼馬が家基の暗殺を疑われていることを告げるのだったーー。蒼馬が出奔した真相を知るため、志津乃は彼を捜す決意をする。意外な真相が胸を打つ、傑作時代小説。