著者 : 森村誠一
田舎から憧れと野心を抱き東京へと降り立つ終着駅・新宿。見知らぬ男女、宮地杏子、浅川真、軍司弘之は同じ電車で巡り会い、新宿駅へと降り立った。二年後、浅川が新宿の高層ホテルで殺害され、軍司も失踪してしまう。さらなる犯罪が起こる中、捜査陣がたどり着いた容疑者には、犯行時間に密室にいた完璧なアリバイがあった。捜査は難航を極めるが、意外なところに事件を解くカギがあった。五件の犯行が複雑に絡み合い、事件は二転三転としていく。展開の罠を見事に張り巡らした、著者の記念碑的作品。
不思議な力を秘めた名刀、無銘剣を案内役に壮大に描く「森村通史」の完結編。260年にわたり平和が保たれた江戸期。歴代将軍から遊女まで、多彩な人間模様を活写する歴史長編。
有田順二は通勤電車で「痴漢」の濡れ衣を着せられた。起訴された有田は争い続け、無罪が言い渡されたが、結局その間に職を失い、妻と離婚した。有田は心身ともに荒廃していった。そんなある日、飲み屋で熊谷という男に「雑談クラブ」へ誘われた。そこは心に深い傷を負った被害者たちの憩いの場であった。そんな折、有田を含む四人の常連たちの加害者たちが、相次いで死傷した…。心に傷を背負った人間たちを描くホラーミステリーの傑作。
泰平の世の人心を引き締めるため幕府が復活させた“鋸挽きの刑”。しかしその最初の科人となった美しい娘は、ある夜晒し場で惨殺されてしまう。抜群の嗅覚をもった同心・祖式弦一郎は、事件の裏に潜む巨悪の存在をつきとめるのだが…。この事件を皮切りに、江戸市中で起こる怪事件を陰で操る姿見えぬ敵との闘いが始まる。
高級クラブでVIPの接待係をしていた幼なじみの美女・麻利が失踪!新聞記者平野は家出人捜索所の片山と共にその行方を追う。武器商人、米国将校、元首相と、クラブの客を探るうちに、思いもよらぬ資料を手中にする。そこには核武装した新兵器の概要が!社会派推理の巨匠が、日本の腐蝕を抉る問題作。
武器商人や大物政治家が集う高級クラブの失跡した接待係を追っていた平野と片山は、要人抱きこみを狙う秘密接待所に辿りつく。核燃料再処理と新兵器への陰謀を操るのは誰か。南海の孤島へ飛んだ二人の前に、日本軍細菌部隊の亡霊が現れる。日本を覆う「恐怖の容器」を描き出した社会派巨編、堂々の完結。
警視庁捜査一課の横渡刑事は帰宅途中、暴漢に襲われた女性を助けようとして男と格闘し無念にも刃物で刺殺された。一方、襲われた女性も死体で発見される連続殺人事件が起きた。殉職の訃報を聞いた棟居刑事は激しい怒りを覚え、「仇はおれがとる」と亡き横渡の面影に復讐を誓う。そして、女性被害者の身辺を調査中、遺品から二八年前に起きた棄児事件を報道した古い新聞記事が見つかった…。燃える刑事魂が巨悪と対決する「棟居刑事シリーズ」第一弾。
勝田慎一は学生時代に登った北アルプスのK岳の登攀に挑むことにした。ベルトコンベアに運ばれるサラリーマンの生活と夫を理解しようとしない傲慢な妻のいる家庭から脱出するのだ。長期休暇をとり、鈍った体を錬え直して岩稜や岩壁をアタックする。山小屋の主・深野周作の生命を賭けた支援のもと、パートナーと共に氷壁を登る男の試練とその意外な結末。
ドシャ降りの真夜中、正也は昼間、仔猫を捨てた雑木林へ急いだ、寝床についたものの、気になったからである。だが、暗闇の中、迷ってしまった。その時、遠くで明かりがチラついた。ホッとして近づいてみると、なんと男が死体を埋めているところだった…。現場に残されたヘアピンを食い込ませた靴跡を追う刑事。連続殺人事件に潜む銀行のオンラインの死角。
神奈川県警多摩署の川合刑事は、太平洋戦争中、ミッドウェイで友軍機を誤射墜落させていた。自責の念で搭乗員の消息を長年追い続けていたところ、その人物・綾瀬勝治はつい最近、八王子の山あいの休耕田で殺されていることが判明した…。川崎市多摩区で起きた新婚夫婦惨殺事件を担当する川合が奇しくも知り得た綾瀬の過去と墜落機の謎。
剣に将来を託し、武市半平太の命ずるままに暗殺剣を振るい続けた岡田以蔵の末路(「魔剣」)。世情騒然たる京都三条小橋のたもとにうずくまる老乞食と維新を焦る桂小五郎との奇妙な交流(「膿殺」)。西洋菓子の原型を日本で造り上げた紅屋留吉と維新後の永倉新八との不思議な因縁(「剣菓」)-幕末から維新の激流に翻弄されながらも、苛烈に生きた志士たちの命運を刻んだ九つの時代異譚。
夫のあまりの異常性愛癖に嫌悪感から恐怖すらを抱き始めた瑛子は、十数年ぶりに幼なじみの宮沢と偶然巡り合う。自衛隊のレインジャー部隊出身の彼と男女の関係になった瑛子は、現状生活から脱出するために、宮沢へ拳銃を手渡す。悪意の重さをまさに具現する凶器は、二人の殺意を凌駕し、その存在を取りまく人間たちを目に見えぬ狂気へと誘い、銃身に込められた冷たく無情の凶弾は運命の連環へと引きずり込む。
盛夏を感じる七月下旬、熊谷の荒川河川敷きで溺死体が発見。県警の捜査で、上流にある八高線鉄橋付近で列車から転落した可能性が推測された。その数日後、高崎市内でマンション住人が花火大会を観ていて墜落の通報があり、事故死と確認されたが、何故かその部屋は密室状態であった。何の関連も見られない二つの事故と思われた出来事が、調査の結果、保険金殺人事件と通底する事を突き止めた捜査陣だったが…。
日本の代表的商事会社『菱井商事』の社宅・星渓寮は、本社の課長以上部長クラスのみが入宅を許される最高級の施設だった。その社宅に支社からの転勤で一時的に入居した課長代理の早野は、妻から息子の辰夫が陰湿ないじめを受けていることを告げられる。会社の縦型職階制度が子供社会に影響したものと考えられた事件は、同じ社宅に住む部長夫婦の一人息子が行方不明になったことで思わぬ方向へ展開していった…。
休暇と家族サービスを兼ねて、林は秋盛りの日光中禅寺湖畔のホテルを訪ねた。彼は十年前の同じ季節に今の妻とは別の女とこの湖へやって来た。その旅は山湖の秋色を探るためではなく、許されぬ結婚を嘆いての心中が目的だった。結局は未遂に終わった、その熱烈な情愛の経緯をホロ苦く思い出しながら、ホテルのロビーでコーヒーを啜る林の隣りに座った女は。果たされぬ愛と殺意が名勝で繰り広げる傑作ミステリー。
化粧品メーカーに勤務する魚住晋一は、立山で遭難しかけ、若い女性に助けられた。だが、女性は翌朝、忽然と姿を消した。後日、見合い結婚した魚住は、新妻・夕紀子がその時の女性ではないかと思い、妻の過去を探り始めた。その魚住の行動は、周囲に波紋を投げかけ、思いもかけずそれぞれの隠蔽されていた忌まわしい過去を白日のもとにさらけだすことになった…。
家族を崩壊させ、心の恋人を凌辱したうえ殺害した暴力団黒門組。復讐の炎を燃やす元軍人・旗本良介の許に集結した強者6名。7人の老戦士の壮絶な死闘が始まった。
自由勤務を命じられたサラリーマン、一攫千金を狙うチンピラたち、玉の輿を夢見るデートガール…。現代の世相が生んだ孤独な人間たちが、愛憎の果てに行きついたところは…現代を鋭く抉る巨匠の本格長編推理。
本書に収めた五作は、「奇妙な味」を主題としている。推理小説の一つの分野となっている奇妙な味は、まずストーリーの意外性と、非日常性を身上とする。非日常と言っても荒唐無稽なお伽話とは異なる。それは日常の中にぱっくりと口を開いた非日常の世界である。