著者 : 沼野充義
満洲に生まれ育ったラトヴィア人が描く グローバルな満洲史 ハルビンは十九世紀末の建都以来、およそ半世紀の間に、目まぐるしく支配者を替え、それとともに様々な民族が出入りし、多民族のるつぼが描き出す町の絵柄も変わっていった。そのすべてをハルビンに生きて自ら経験したからこそ、カッタイスは自分の上に「一〇の国旗」がはためくのを目撃するという歴史の稀有の証人になったのだった。(沼野充義) 満洲と呼ばれた、二度と繰り返されることのない地球のすばらしい一郭に運命に引き寄せられた中国人、ロシア人、日本人、朝鮮人、ユダヤ人、タタール人、ポーランド人、そしてラトヴィア人とが、寄り添うように生きた日々を書いたにすぎない。……下世話な話ばかりで真面目さに欠けると言われるなら、それも仕方があるまい、フランス語ならケセラセラと言うところだ。世界の波に揺られる人間の営みは、万事ろくでもない勘違いかもしれないのだから。(カッタイス「あとがきにかえて」より)
イギリス各地の墓地で起こる死体消失事件、スコットランド・ヤードのグレゴリー警部補は真相解明に乗り出すが、捜査は難航を極める…メタ推理小説『捜査』、地球文明崩壊後、地下遺跡から奇跡的に発見された1篇の手記に記されていた驚くべき記録ー疑似SF的不条理小説『浴槽で発見された手記』、レムの多彩さをうかがわせる異色作2篇を収録。
第二次大戦のさなか、アメリカの州境に火星からロケットが飛来、科学者や技師らからなるチームが火星人との意思疎通を試みるが…『金星応答なし』に先立つ、レムの本当のデビュー作『火星からの来訪者』、広島への原爆投下を主題にした、世界でもっとも早い文学作品の一つ「ヒロシマの男」など、いずれも本邦初訳となるレム20歳代の頃の作品集。
32世紀。高度な科学技術的発展を成し遂げた人類は、史上初の太陽系外有人探査計画に着手、地球に最も近い恒星であるケンタウルス座α星へ向かう決定を下した。かくして選りすぐりの遠征隊員を乗せ、巨大探査船ゲア号は未知の空間へと踏み出していく。旅路の果てに彼らを待ち受けているものとは?-レムの幻の長篇がついに邦訳なる。
地球上の兵器システムをすべて月に移し、軍拡競争をAI任せにした人類であったが、月面での兵器の進化がその後どうなっているのか皆目わからない。地球から送られた偵察機が一台も帰還することなく消息を絶つに至り、泰平ヨンが極秘の偵察に赴くが…レムの最後から二番目の小説にして、“泰平ヨン”シリーズ最終話の待望の邦訳。
着陸後に消息を絶ったコンドル号の捜索のため琴座の惑星レギス3に降り立ったインヴィンシブル号が発見したのは、廃墟と化した“都市”と、砂漠にめり込んでそそり立つ変わりはてた姿のコンドル号であった。謎に満ちたこの惑星でいったい何が起こったのか!?-ファースト・コンタクト三部作の傑作『砂漠の惑星』のポーランド語原典からの新訳。
「実在しない書物の書評を書くということは、レム氏の発明ではありません」。ゲーム理論を援用して宇宙の創造と成長を論じるノーベル賞受賞者の講演「新しい宇宙創造説」のほか、「ロビンソン物語」「逆黙示録」「誤謬としての文化」など、パロディやパスティーシュも満載の、知的刺激に満ちた“書評集”。
急死した若い娘の祈祷をすることになった神学生ホマー。夜の教会に閉じ込められた彼の目の前で突然、死人が、棺から立ち上がる…“魔女”と神学生の三夜の闘いを描く、ゴーゴリの「ヴィイ」。他にも、ドストエフスキー「ボボーク」、チェーホフ「黒衣の僧」、ナボコフ「博物館を訪ねて」など、文豪たちが描く、極限の恐怖!
「賜物」(1938)。フョードルはロシアからベルリンに亡命し、初の詩集を出版したばかりの文学青年。家庭教師で糊口をしのぎつつ、文学サロンに顔を出し、作家修行に励むのだが、詩集の反応は薄く、父の伝記を書こうとしては断念する。しかし転居を機に下宿先の娘ジーナと恋仲になり、19世紀の急進的思想家、チェルヌィシェフスキーの評伝に取りかかる。ナボコフの自伝的要素を含んだ、ロシア語時代の集大成となる「芸術家小説」。「父の蝶」。「賜物」の主人公フョードルが語り手となり、鱗翅学者としての父親の功績を偲ぶ、なかばエッセイのような短篇小説。父が編纂した蝶類図鑑の理想的なまでの魅力を語り、父が提唱した新たな分類学の理論を解読しながら、フョードルは亡き父の像を浮かび上がらせてゆく。「賜物」の単行本に並録する予定で執筆されたという見方が有力だが、未完成のまま遺され、ナボコフの死後、息子のドミートリイによって発表された。
幻想的な初恋小説、どたばたユーモア群像劇、彷徨える若い魂の成長物語…あなたの知らない意外な作品を一挙収録!書簡集や、『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』など四大長篇の読みどころ解説も。もっとドストエフスキーが好きになる一冊。
集団主義のイデオロギーによって個人が厳しく抑圧される様を、独裁者の支配下、人びとが水の中に住むことを強制されている星に仮託して風刺的に描いた「航星日記・第十三回の旅」、大事故にあった宇宙船の中に唯一生き残った、壊れかけのロボットに秘められた謎を追った「テルミヌス」、高性能コンピューターに人類の歴史のありとあらゆる情報を吸収させた上で詩を作らせる、抱腹絶倒の言葉遊び「探検旅行第一のA(番外編)、あるいはトルルルの電遊詩人」など、自由な実験場ともいうべきレムの短篇の中から、ポーランドの読者人気投票で選ばれた15篇中、未訳の10篇を集めた日本版オリジナル傑作短篇集。
怪しい色男を巡る、二人の紳士の空疎な手紙のやり取り。寝取られた亭主の滑稽かつ珍奇で懸命なドタバタ喜劇。小心者で人目を気にする閣下の無様で哀しい失態の物語。鰐に呑み込まれた男を取り巻く人々の不条理な論理と会話。十九世紀半ばのロシア社会への鋭い批評と、ペテルブルグの街のゴシップを種にした、都会派作家ドストエフスキーの真骨頂、初期・中期のヴォードヴィル的ユーモア小説四篇を収録。