著者 : 澤田瞳子
直木賞作家・澤田瞳子氏初の幕末小説 借財10万両から蓄財10万両へーー わずか7年で財政を建て直した備中松山藩の改革 【著者コメント】 幕末を書くのは今回初めて。 倒幕派、佐幕派といった対比関係でとらえられがちな時代だが、 その間に挟まれた数多の人々がいた。 彼らが激動の時代をどう泳ぎ渡っていこうとしたのか、 山田方谷を含めた当時の備中松山藩を切り取ることで描けると考えた。 激しく変化する時代の中でもがいた、ごく普通に暮らしていた 人々の姿をご覧いただきたい。 ーー澤田瞳子 備中松山藩(現・岡山県高梁市)にて藩校・有終館の学頭(校長)を 務めるかたわら私塾「牛麓舎」を開き、弟子たちの指導に当たっていた 陽明学者・山田方谷は、借財10万両を抱える藩の財政を司る元締役と その補佐役である吟味役の兼務を命じられる。 倹約令、殖産興業、藩札刷新などの改革により、備中松山藩はわずか7年で 借財を返済、さらに10万両の蓄財を作るまでになった。 だが幕末の激動の波は地方の小藩にも押し寄せる。 尊皇攘夷の声が高まるなか、藩主・板倉勝静が老中筆頭だったことから、 朝敵として備中松山藩に追討令が出され……。 時代の波に揉まれながら懸命に生きる人びとを描いた、 直木賞作家初の幕末群像劇。 【主な登場人物】 山田方谷 (陽明学者/備中松山藩元締兼吟味役) 熊田 恰 (備中松山藩物頭兼剣術指南/玉島騒動で切腹) 三島貞一郎(中洲) (方谷の門弟/二松学舎創設者) お繁(福西志計子) (方谷門弟唯一の女子/岡山県初の女学校・順正女学校創設者) 新島七五三太(襄) (上州安中藩士/同志社創設者) 川田竹次郎(甕江) (漢学者/東京大学教授/東宮侍講) 河井継之助 (越後長岡藩士/戊辰戦争で戦死) 板倉勝静 (備中松山藩第七代藩主/大政奉還時の老中筆頭)
延暦十九年。駿河国司の家人・鷹取は、軍馬を養う官牧で己の境遇を嘆く日々を送っている。ある日、近くの市に出かけていた鷹取は、富士ノ御山から黒煙が噴き上がるのを目撃し、降り注ぐ焼灰にまみれて意識を失う。一方、近隣の郷人や遊女などの避難民を受け入れた牧は、混沌とする。灰に埋もれた郷では盗難騒ぎが起こり、不安、怒り、絶望がはびこるなか、京から坂上田村麻呂による蝦夷征討のための武具作りを命じられる。地方の不遇に歯噛みする鷹取はー。平安時代、富士山延暦噴火。大災害に遭った人々の苦悩と奮闘の日々を描く、歴史パニック長編。
「源氏物語」に隠された、或る夜の出来事。歴史揺さぶる王朝ミステリ誕生! 藤原道長の栄華を転覆させようと都を暗躍する盗賊たち。道長邸で働く女房・小紅は、盗賊の首魁が死んだはずの兄との噂を知り探索を始める。その過程で権力を巡る暗闘とそれに翻弄される者たちの恨みを知った小紅は、やがて王朝を脅かす秘密へと辿り着きーー紫式部、和泉式部も巻き込んで咲き誇る平安ロマン、艶やかに開幕。
宮中きっての和歌の名手と言われる朝児は夫を亡くしたばかり。五十も半ばを過ぎて夫の菩提を弔いながら余生を過ごそうとしていたが、ひょんなことから三条天皇の中宮姸子の女房として再び宮仕えをすることになる。朝児が目にした平安貴族たちの喜びと悲しみから生み出されたものとは。
2022年の大河ドラマで描かれた、いくつもの野望と愛が交差する鎌倉時代。そんな武士の世への転換点を駆け抜けた人々--源頼朝、北条政子、後鳥羽上皇、和田義盛、そして北条義時。歴史小説の名手たちが彼らの面影を丹念に描き上げた珠玉の小説集! 義時の恋が、政子の激情が、鎌倉の光景をありありと蘇らせる。 朝井まかて 「恋ぞ荒ぶる」 謀略と戦乱の時代に咲いた、北条義時の恋。 諸田玲子 「人も愛し」 若き日の後鳥羽上皇が出会った、悲恋の姫の行く末。 澤田瞳子 「さくり姫」 一幅の仏画に託された、源頼朝の妹・有子の切なる願い。 武川佑 「誰が悪」 猛将・和田義盛が突き止めた、討つべき「真の悪」とは。 葉室麟 「女人入眼」 尼将軍・北条政子が作り上げた、鎌倉という時代の実像。
時は7世紀。飛鳥の世に生きた一人の女、額田王は子まで成した大海人王子と別れ、その兄、葛城王子の仕切る宮城で、色を判じることができない眼の秘密を抱えながら宮人として勤めに邁進する。誰かの妻や母としてではなく、一人の人間として、歌詠みとして生きる道を模索するも、葛城の死、大海人の挙兵でその運命は一転する。大敗を喫した白村江の戦い、叔父・甥が争う壬申の乱…、動乱の飛鳥の世を生き抜いた、万葉の歌人の半生を鮮烈に描く。
江戸後期、弘化年間。金吾は石見国大森銀山にやって来た。大森代官・岩田鍬三郎の身辺を探るためだ。代官所の中間として働き始めた金吾だが、そこで待っていたのは銀山を支えるため懸命に生きる人々との出会い。命の危険にさらされながら間歩の中で鉱石を採掘する掘子、重い荷を運び母と妹を養う少年、世を憎み、酒浸りの日々を送る僧侶。そして彼らを慈悲深く見守る岩田…。さまざまな思いに触れ、金吾はいつしか彼らに魅せられていく。産み出された良質で大量の銀が世界経済を動かし、「銀鉱山の王国」と呼ばれた石見銀山。常に危険と隣り合わせで働く名もなき掘子たちの生きざまを活写した歴史群像。
不世出の絵師、河鍋暁斎が死んだ。残された娘のとよ(暁翠)に対し、腹違いの兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。早くから養子に出されたことを逆恨みしているのかもしれない。暁斎の死によって、これまで河鍋家の中で辛うじて保たれていた均衡が崩れた。兄が河鍋の家を継ぐ気がないのは明白であった。弟の記六は根無し草のような生活にどっぷりつかっていて頼りなく、妹のきくは病弱で長くは生きられそうもない。河鍋一門の行末はとよの双肩にかかっているのだったがー。父の影に翻弄され、明治から大正を駆け抜けた女絵師の一代記。
比叡山のふもとに建つ豪奢な比丘尼御所。二人の皇女を中心に公家文化が息づくこの寺に、それぞれの苦しみを抱えて逃げてくる者たちがいた。古い友人から借金をして逃げた老女。非の打ちどころのない縁談から逃げる若者。妻子を捨てて出奔した武士。幼子を寺の前に捨てる老夫婦。「僧尼とは古来、いたいたしい者を助け、手を差し伸べるが勤め」心があたたかくほどける連作短編集。
阿倍女帝こと孝謙天皇に寵愛され、太政大臣禅師や法王などの高職に就いていた頃の面影は、もはやない。女帝の死後すぐに下野国薬師寺別当に任ぜられた道鏡は、空ばかり見て過ごしていた。そこに行信と名乗る老僧が近づき「憎い相手はおらぬかー」と囁く。そう問いかけられたとき、道鏡の心に浮かんだ顔は…。奈良時代、治世の安寧を願った人々の生き様を描いた珠玉の短篇集。
天保の改革ののち、長年幽閉されていた鳥居胖庵が戻ると江戸はなくなっていた。軽薄な「東京」に憤然とする胖庵は困窮に喘ぐ見習い能役者と知り合う。立場も年齢も違う二人が心を通わせる中で遭遇する、やるせない市井の事件の数々。転変の世を生き抜く者の意地と哀歓を描く本格派時代小説。明治五年、東京。居場所をなくした二人が向かうべき道とは?
東大寺大仏の開眼供養から四年、仏教政策を推進した帝の宝算は尽きる。道祖王を皇太子にとの遺詔が残されるも、その言に疑いを持つ者がいた。前左大臣・橘諸兄の命を受けた中臣継麻呂と道鏡は、密かに亡き先帝の真意を探ることにー。聖武天皇の真実を探る物語。
野太い喊声、弓箭の高鳴り、馬の嘶き…血の色の花咲く戦場に、なぜかくも心震わせる至誠の音が生まれるのか!己の音楽を究めんと、幻の師を追い京から東国へ下った寛朝。そこで彼は、荒ぶる地の化身のようなもののふに出会う。-「坂東のならず者」を誰より理解したのは、後の大僧正その人だった。謀叛人・平将門と、仁和寺の梵唄僧・寛朝。男たちの魂の咆哮が響き合う歴史雄篇。俊英が描く武士の世の胎動!
時は、平家が繁栄を極める平安末期。高貴な出自でありながら、悪僧(僧兵)として南都興福寺に身を置く範長は、都からやって来るという国検非違使別当らに危惧をいだいていた。検非違使が来るということは、興福寺がある南都をも、平家が支配するという目論みだからだ。検非違使の南都入りを阻止するため、仲間の僧兵たちとともに、般若坂へ向かう範長。だが、検非違使らとの小競り合いが思わぬ乱戦となってしまった。激しい戦いの最中、検非違使別当を殺めた範長は、己の犯した罪の大きさをまだ知らなかったー平家が南都を火の海にし、復讐の連鎖を生もうとしていることを。
奈良時代、東大寺の大仏造営事業が進む中、故郷から造仏所に徴発された真楯。信仰心など一片もないのに、仲間と共に取り組む命懸けの労役は苦難の連続。作事場に渦巻く複雑な人間模様も懊悩をもたらすばかり。だが、疲れ切った彼らには、炊屋の宮麻呂が作る旨い料理があった。一膳の飯が問いかける仏の価値とは!?食を通して造仏に携わる人々の息遣いを活写した傑作時代小説。