著者 : 澤田瞳子
奈良時代、東大寺の大仏造営事業が進む中、故郷から造仏所に徴発された真楯。信仰心など一片もないのに、仲間と共に取り組む命懸けの労役は苦難の連続。作事場に渦巻く複雑な人間模様も懊悩をもたらすばかり。だが、疲れ切った彼らには、炊屋の宮麻呂が作る旨い料理があった。一膳の飯が問いかける仏の価値とは!?食を通して造仏に携わる人々の息遣いを活写した傑作時代小説。
師走も半ば、京都鷹ヶ峰の藤林御薬園では煤払いが行われ、懸人の元岡真葛は古くなった生薬を焼き捨てていた。慌ただしい呼び声に役宅へ駆けつけると義兄の藤林匡が怒りを滲ませている。亡母の実家、棚倉家の家令が真葛に往診を頼みにきたという。棚倉家の主、静晟は娘の恋仲を許さず、孫である真葛を引き取りもしなかったはずだが…(表題作)。人の悩みをときほぐす若き女薬師の活躍。
両親と兄弟を流行り風邪で亡くし、叔母に育てられている十歳の少女・おさき。箱根山を登る旅人の荷物持ちで生計を立てている彼女は、ここ数日、幾度も見かける若侍が気になっていた。ふつう、旅人は先を急ぐはずだが、誰かを待っているのか?(「関越えの夜」)表題作ほか、品川宿から京都まで、東海道を上るさまざまな人々の喜怒哀楽を描く時代小説集。『孤鷹の天』デビュー以前に書かれた、澤田瞳子の原点がここに。
平安時代、身体を売って暮らす似非巫女の綾児(あやこ)は、その美貌を見込まれて、菅原道真を祀る神社をでっちあげる策謀に誘われた。神社の筆頭巫女として、権力を存分にふるえるかに思われたのだが……。
京は錦高倉市場の青物問屋枡源の主・源左衛門ー伊藤若冲は、妻を亡くしてからひたすら絵に打ち込み、やがて独自の境地を極めた。若冲を姉の仇と憎み、贋作を描き続ける義弟・弁蔵との確執や、池大雅、与謝蕪村、円山応挙、谷文晁らとの交流、また当時の政治的背景から若冲の画業の秘密に迫る入魂の時代長篇。
猫をテーマにした時代小説の傑作を、いま最も注目される歴史小説家・澤田瞳子が厳選。朝日新聞書評欄で絶賛された巻末の解説にも注目。 【収録作品】池波正太郎「おもしろい猫」海野弘「大工と猫」岡本綺堂「猫騒動」小松重男「野良猫侍」島村洋子「猫姫」高橋克彦「猫清」平岩弓枝「薬研堀の猫」古川薫「黒兵衛行きなさい」光瀬龍「化猫武蔵」森村誠一「猫のご落胤」
わしと共に、京の者たちを呪い殺そうとは思わぬかーー。薬師寺別当に任命され、遠い京から下野国にやってきた道鏡は、行信という僧から禍々しい誘いを持ちかけられる。一瞬、道鏡の心を過ぎったのは……。日本の威信と将来を担う人々の姿、奇跡のような瞬間が、奈良の都に満ちる。『若冲』の著者による、人生の機微に触れる傑作歴史小説。
七世紀終わり。国は強大化する唐と新羅の脅威にさらされていた。危機に立ち向かうべく、女王・讃良は強力な中央集権国家づくりに邁進する。しかし権益に固執する王族・豪族たちは、それに反発。やがて恐ろしい謀略が動き始めるー壮大なスケールで「日本誕生」を描き歴史エンターテインメントの新たな扉を開けた傑作。
京都鷹ヶ峰にある幕府直轄の薬草園で働く元岡真葛。ある日、紅葉を楽しんでいると侍同士の諍いが耳に入ってきた。「黙らっしゃいッ!」--なんと弁舌を振るっていたのは武士ではなく、その妻女。あげく夫を置いて一人で去ってしまった。真葛は、御典医を務める義兄の匡とともに、残された夫から話を聞くことに……。女薬師・真葛が、豊富な薬草の知識で、人のしがらみを解きほぐす。
その病に、理由ありーー。妊娠したという幼い娘が持参した丸薬の秘密。薬種屋の主が、仕入れの旅に出ないと言い出した理由。どんな薬を煎じても一向に治らない咳病とは……。京都・鷹ヶ峰で幕府直轄の薬草園を営む藤林家で養われた女薬師・元岡真葛が、薬草を通じて隠れた悩みを解きほぐす。『若冲』の著者が贈る、心に沁みる絶品時代小説。
奇才の画家・若冲が生涯挑んだものとはーー 今年、生誕300年を迎え、益々注目される画人・伊藤若冲。緻密すぎる構図や大胆な題材、新たな手法で周囲を圧倒した天才は、いったい何ゆえにあれほど鮮麗で、奇抜な構図の作品を世に送り出したのか? デビュー作でいきなり中山義秀賞、次作で新田次郎賞を射止めた注目の作者・澤田瞳子は、そのバックグラウンドを残された作品と史実から丁寧に読み解いていく。 底知れぬ悩みと姿を見せぬ永遠の好敵手ーー当時の京の都の様子や、池大雅、円山応挙、与謝蕪村、谷文晁、市川君圭ら同時代に活躍した画師たちの生き様も交えつつ、次々に作品を生み出していった唯一無二の画師の生涯を徹底して描いた、芸術小説の白眉といえる傑作だ。
京から大宰府に左遷され泣き暮らす道真だが、美術品の目利きの才が認められる。大宰大弐・小野の窮地を救う為、奇策に乗り出すが……。朝廷への意趣返しなるか! 書き下ろし歴史小説。(解説/縄田一男)
両親と兄弟を流行り風邪で亡くし、叔母に育てられている十歳の少女・おさき。箱根山を登る旅人の荷物持ちで生計を立てている彼女は、ここ数日、幾度も見かける若侍が気になっていた。旅人はおおむね、道を急ぐもの。おさきの視線に気づいた若侍は来島主税と名乗る。人探しのため西に赴く途中だというが…(表題作)。東海道を行き交う人びとの悲喜こもごもを清冽な筆致で描く連作集。
藤原清河の家に仕える高向斐麻呂は、唐に渡ったまま帰国できぬ父を心配する娘・広子のために唐に渡ると決め、大学寮に入学した。儒学の理念に基づき、国の行く末に希望を抱く若者たち。奴隷の赤土に懇願され、秘かに学問を教えながら友情を育む斐麻呂。そんな彼らの純粋な気持ちとは裏腹に、時代は大きく動き始める。デビュー作にして中山義秀文学賞を最年少受賞した傑作、待望の文庫化。