著者 : 花村萬月
京で隆盛を極める吉岡一門を我独りにて完全に滅ぼす、ついてはその前に女を抱きたい。あきれたことに武蔵はそう口走るのだったー。槍術の達人・宝蔵院胤栄、そして天下の剣豪・柳生石舟斎とあいまみえながら見据えるのは佐々木小次郎の姿。ときに憎しみに近い妬心を、ときに身を捩りたくなるような懐かしさを覚えさせる男。いざ、決戦のとき。衝撃と感涙のクライマックスに向けて物語は猛然と突き進む。
関ヶ原の戦いの結果、京の都は牢人であふれかえっていた。宮本武蔵。弁之助はみずからをそう名乗った。名付け親は佐々木小次郎である。小次郎はまさに天才、超越的な武芸者だ。翻って、自分はこの無数の牢人のなかでどう抽んでていけばよいのか。北白川城趾に向かう最中、気配を感じて振り返る。頬に切先。取り囲む野臥せりたち。しかし次の瞬間、武蔵は意外な態度を取る。物思いに沈んだのだった。死。死。死。際限のない死と引き換えに武蔵が手にするものとは。傑作大河小説、圧倒の第五巻!
女は軽井沢宿で飯盛女をしていたが、江戸に逃れて夜鷹となり、唐瘡に罹ってしまうー「千代」。歌舞伎の戯者になることを希う男児は、京から下り、希望とは裏腹に江戸の陰間茶屋で育てられることにー「吉弥」。貧乏長屋に住み、町芸者に入れ込んで借金を背負った浪人の男は、女房の不義密通を疑うのだがー「長十郎」。八丈島に住む娘は、御用船で送られてきた女犯僧らしき流人と懇意になるー「登勢」。濡れ衣の人殺しで入牢した男は、覚悟の準備をするのだが、そこで地獄の光景を目にし、自らも責問を受けるー「次二」。鬼気迫る五つの暗黒物語。
なぜ、実弟・信行を殺さねばならなかったのか。なぜ、松平元康(後の徳川家康)と同盟を結んだのか。なぜ、藤吉郎を重用したのか。なぜ、本願寺との戦いを続けたのか。なぜ、林秀貞を追放したのか。なぜ、松永弾正の裏切りを許したのか。そしてなぜ、明智光秀が裏切ったのか。-全ては「私記」=日記にある。
薬やその調合技術、秘具性具に精通するよろづ光屋の情ノ字。名に反して、情など一欠片もない彼は、他人を信じない。唯一心を許すのは白犬の鞆絵だけ。しかし、無垢な夜鷹・おしゅんにだけは惹かれた。市井の者から大奥まで身分を問わず、萬の悩みに耳を傾ける中で見出す人間の愚かさ、美しさ。五代将軍・綱吉の世を舞台に、性の深淵とまことの尊さを描いた江戸人情譚。
「バカ」海底に置き去りにした女に向かって、伊禮ジョーはひとこと呟いた。彼の人間離れした美貌の前では、男も女も正視を躊躇う。数多の人間を虜にし、そして殺してきた。そんな伝説を持ち、森羅万象を超越した男が、ある女に心酔する。沖縄のシルミチューで出会った耀子。全てを捧げ合う二人。だが待ち構えていたのは…。愛を弄び、狂気を抉る、一気読み必至の衝撃作!
時は戦国、下剋上の世。京都・相国寺近くにある三好家の屋敷に、その男はいた。得体の知れぬ出自でありながら、茶の湯に通じ、右筆として仕える野心家である。気に食わぬ者は容赦なく首を刎ね、殺害した女を姦通し、権謀術数を駆使して戦国大名へと成り上がっていく。信長ですら畏れた稀代の梟雄・松永弾正久秀を突き動かすものは、野望かそれとも…!?「悪の爽快感」が支配する血涙必至の物語。
天下の声望を集める徳川家康に対し、反旗を画策中と噂される石田三成。風雲急を告げる世情のなか、弁之助は豪族・上の東江家の当主にして、手裏剣術の達人である然茂ノ介とともに武者修行に出る。ふたりを待ち受けるのは硬軟自在の武芸者・秋山兄弟、そして彦山一帯で猖獗を極める山賊ー。壮絶な命の遣り取りを経て、やがて弁之助は佐々木小次郎と運命の再会を果たす。比類なき傑作エンターテインメント大河待望の第三巻!
百合子。城山。林。互いに惹かれ合うも添い遂げることができない三人の恋情は、城山組と館岡組の抗争で引き裂かれていく。一度は、共通の敵・利根川を倒すために手を結んだ城山と林だが、二人は百合子を巡って闘わねばならぬ運命にあった。館岡組を継承し、母となった百合子がその時とった行動とは…。三人の抑え切れぬ情愛の果てにあるものは何か。人間の本性を極限までに描いた大河小説、堂堂の完結。
終戦直後の新宿。街の殆どが瓦礫と化し、明日の行方も見えぬ混乱の中、三人の男女は出逢う。僅かな金と煙草で組事務所の襲撃を請け負った特攻崩れの城山龍治。朝鮮人であることを隠しながら頭脳と美貌でのしあがろうとする林敬元。疎開先で強姦されそうになり東京へ流れてきた天涯孤独の生娘・岡崎百合子。苛酷な運命に抗いながら見えない糸で絡まり合っていく三人の壮絶な人生を描破した、昭和スペクタクル小説、ここに開幕。
伊賀には表と裏がある。八劔なる裏伊賀の忍者たちは、血を掛け合わせて人材を生み出す謎の集団。元和5年、八劔に美しく能力を備えた赤子・錏娥哢〓(あがるた)が誕生する。忍びの技を修練し、見目も麗しく成長。いくつかの旅で男たちと交わり、ますます妖しく輝きを放つ。寛永14年、錏娥哢〓(あがるた)は天草四郎時貞を追って島原に潜入する。島原の乱異聞ともいうべき、破天荒、前代未聞の忍者小説。
錏娥哢〓(あがるた)は常人離れした美貌と忍び技を兼ね備えた裏伊賀の女忍者。まさに島原の乱の渦中にあった。一揆を煽動する時貞。時に彼を手助けする錏娥哢〓(あがるた)。だが、強大な幕府軍の攻撃の前に、ついに一揆は潰えてしまう。裏伊賀と根本的に対立する存在である徳川家康の正体を知った彼女は、これを滅ぼすため、江戸へ。果たして難敵と勝負はいかに…。歴史小説の枠を超えた傑作エンタテインメント。
「惟朔君は、すごい悪い子だと思うわ」昭和三十年代後半、東京・府中で過ごした小学一年生から、四年生になるまで。惟朔少年の早すぎる青春の日々。母子家庭で育ち、不登校に。突然同居を始めた父親は働かず、惟朔には岩波文庫を読ませる。女友達の父親には殺すぞと脅され、六年生達にはリンチされる。なんとか周囲と折り合いをつけようとする少年が身につけた、自分のやり方。自伝的作品『百万遍』へと続く、はじめの一歩。
疾風怒濤の開拓期を生きた、この破天荒な人生!著者渾身の大河歴史巨編、待望の第二部、千四百枚!アイヌに心を通わせた男と無頼の一家を起こした男ー広大無辺の蝦夷地の原野を男たちの「運命」が奔る。
青年よ、旅に出よー。大学生の「僕」は、学園祭で講演に来た「花村」という作家にそそのかされて、北への独り旅に出かけた。旅先の下北半島で「僕」は様々な光景に出会い、成長していく。一方、作家である「私」は沖縄をさまよっている。ユタと出会い、色街を歩き、娼婦たちと関わり…。北へ、南へ、旅を続ける男たち。神宿る風景を素描し、「私小説」を擬態した傑作短編集。