出版社 : 岩波書店
慶応2年10月、高野広八以下18人の曲芸師たちは、横浜を出港、アメリカをへて、ヨーロッパ各巡業の旅に出る。この破天荒の旅のさきざきで彼らを待ちうけていたものは何か…。850日にわたる広八の詳細な日記をもとに、幕未期に欧米諸国を漫遊した旅芸人の驚き、とまどい、喜び、そして哀しみの日を活写する。巻未には90頁に及ぶ年譜・著作目録を収めた。
あるときは仙人、戦国の武将を、あるときは宋代の文豪書聖を、生き生きと語って余すところがない露伴史伝の世界。これら諸作には当代文明への痛烈な批評も蔵されている。初期作品の幽幻の俤を残す「観画談」、少年との心温まる釣行を描く「蘆声」をあわせ収める。
戦後の崩壊感のなかでの、主人公の母の死、父や妻との葛藤、先輩の妻との情事やその発覚後の抜き差しならぬ展開…捉えどころなく移ろう日常にひそむ「おそれ」と、人間のエゴイズムの深部を乾いた筆致で描き出した「幕が下りてから」「月は東に」の二つの長編を収録。なお「月は東に」には今回大幅な加筆が行なわれた。
明の建文永楽の交、中国を二分して相争ったこの二帝のたどる数奇の運命を軸に、群臣諸将の盛衰を描く一代の雄篇「運命」。一片の盃に人生の来し方を映し出す佳品「太郎坊」。露伴の人間観照を直載に示す諸作を収録。
英国人船長に欺かれ、奴隷として南米の地に売り飛ばされたアフリカの王子オルノーコ。主人公に黒人の奴隷をおいた初めてのイギリス小説として名高いこの『オルノーコ』の作者アフラ・ベイン(1640?-89)は、また、英文学史上最初の女性職業作家であり、近年再評価の気運が高い。待望の本邦初訳。
東山道、江戸、棚倉、二本松…。戊辰戦争転戦のさきざきから家郷へ宛てた安岡覚之助の夥しい書簡を軸に流離の物語は展開する。幕末維新の動乱の時代と、ただならぬ運命を生きた人々の相貌を鮮かに映し出し、歴史とは何かを鋭く問う傑作長編。
露伴の文名を一挙に高めた「風流仏」。そこに定着された入神の技芸讃仰の高い浪漫性は、「一口剣」をへて屈指の代表作「五重塔」に結実し、また変幻自在の小説手法は、山中仙境での妖艶な美女との出会いをめぐる怪異譚「対髑髏」へと展開する。
アブー・ヌワースは8世紀から9世紀にかけてアッバス朝イスラム帝国の最盛期に活躍し、酒の詩人として知られる。現世の最高の快楽としてこよなく酒を愛した詩人は酒のすべてを詩によみこんだ。その詩は平明で機知と諧謔に富み今もアラブ世界で広く愛誦されている。残された1000余の詩篇から飲酒詩を中心に62篇を選訳。
父の郷里土佐で見つかった渋紙色の古い日記に誘われ父祖の事蹟を辿りはじめた著者は、やがて厖大な資料と格闘しながら幕末維新の歴史の襞の一つ一つを解きほぐし、この動乱の時代を活写する。歴史小説に新しい手法を切拓いた渾身の労作。
明治22年、弱冠23歳にして露伴は美妙編集の『都の花』に「露団々」を連載し人生即文学への途を開いた。自らの運命とたたかう男の流離の物語である初期長篇「いさなとり」をあわせ収める。この2作には、露伴の理想主義、人間観、運命観がはやくも色濃く漂っている。
現実界を超え、非在と実在が交錯しあう幻視の空間を現出させる鏡花の文学。その文章にひそむ魔力は、短篇においてこそ、凝集したきらめきを放ってあざやかに顕現する。そうした作品群から、定評ある『竜潭譚』『国貞えがく』をはじめ、絶品というべき『二、三羽ー十二、三羽』など9篇を選び収める。
母を常磐津の師匠に、伯父を俳諧の宗匠に特つ中学生長吉の、いまは芸妓になった幼馴染お糸への恋心を、詩情豊かに描いた『すみだ川』。また花柳界に遊んだ作者が、この世界の裏面をつぶさに見聞しみずからも味わった痛切な体験を、それぞれ独立した小篇に仕立ててなった『新橋夜話』のほか、『深川の唄』を加えて1冊とした。