小説むすび | 出版社 : 幻戯書房

出版社 : 幻戯書房

部屋をめぐる旅 他二篇部屋をめぐる旅 他二篇

フランス革命の只中、18世紀末のトリノで、世界周游の向こうを張って42日間の室内旅行を敢行、蟄居文学の嚆矢となったグザヴィエ・ド・メーストル「部屋をめぐる旅」--その続編「部屋をめぐる夜の遠征」、および「アオスタ市の癩病者」の小説3篇と、批評家サント゠ブーヴによる小伝を収録。 われわれは、ここに再版する興味深い発見や冒険を行なった人物よりも前に存在した旅行家たちの価値を、貶めるつもりはない。マゼラン、ドレーク、アンソン、クックといった方々は、疑いなく立派な人物である。ただ、もしわれわれの思い違いが過ぎるのでなければ、あえてこう言わねばならない、『部屋をめぐる旅』には先立つ全ての旅をはるかに上回る特別な価値があるのだ、と。 ーージョゼフ・ド・メーストル デカルトは、ナッサウ公マウリッツに仕えていたとき、同じ方法で、ただし比類ない真剣さで、軍隊生活の空白を埋めていた。〔……〕グザヴィエ・ド・メーストルもまた、不安も煩悶もなかったようで、『部屋をめぐる旅』を書きはじめた。独創的な主題であり、何でもないことについて何でも語ることができた。 ーーアナトール・フランス サヴォワ人の筆すさびがわれわれに残した不滅の小著…… ーーホルヘ・ルイス・ボルヘス 彼はそのとき住み慣れて知り切っていると信じた自分の部屋の周游旅行を志すことに依ってこの憂さを消そうと計画したのであった。これは確かによい思いつきだ。憂愁と退屈には旅行は何よりもの慰安である。それに仔細な観察に眼と心とを慣らすということは人の精神に無駄なことではない。で彼は自分の部屋を旅行し、観察し、数々の未知を発見し、これに就てのエキゾチクと云ってよいほどの驚きを記録している。彼の部屋は殆ど一つの世界である。 ーーきだみのる クサヴィエ・ド・メストルは二つの冒険譚を書いた。小説もあるが、それはまあいい。何よりも風変わりな冒険物をいうべきだろう。フランス人が文章においてとりわけたっとぶ「クラルテ」と「レジェルテ」、つまり明晰さと軽妙さとをほどよくそなえ、フランス語散文の好見本にちがいない。 だが、この名前が文学辞典にみつかるかどうか、大いにあやしい。 ーー池内紀

予は如何にして文士となりしか予は如何にして文士となりしか

著者

橘外男

出版社

幻戯書房

発売日

2021年9月13日 発売

日本文学史上稀有の国際的スケールと型破りのジャンル混淆的ロマン性によって、コロナ禍の今こそ再評価されるべき作家・橘外男の、主な単著未収録作品を三つのテーマで編纂した、3冊連続刊行企画・第2弾。自伝物語篇。 類い稀なるストーリーテリングと、類人猿(ゴリラ)への異常な愛情。 軍人の父に放逐された文学好きの不良少年は、芸妓と出逢い一大改心。貿易商のかたわら小説デビューし、あれよという間に直木賞。しかしその回想はいつも微妙に食い違う……虚々実々に彩られた怪作家の人生を辿る自伝物語篇。(解説=川口則弘) 春の目覚め:学校と家を追い出された外男少年は年上の女性歌人に誘われ…… 若かりし時:叔父がトップを務める札幌鉄道局に勤めた外男少年は貧苦のあまり……(「青春の尊かりし頃」「わが青春の遍歴」改題、再録) 懐し金春館時代:関東大震災で焼失した映画館への懐旧…… 結婚とは:知人の披露宴で突如祝辞を求められた橘氏は…… 予は如何にして文士となりしか:小説家として再デビューするきっかけは…… 人生は六十五歳から:若き日にゴリラ言語学の道を諦めた橘先生が立てた老後の生活設計とは……(「人生は常に若く」改題、再録) 資料編(日本書院時代の新聞広告集/有島武郎「『太陽の沈みゆく時』序」/第7回直木賞選評/並木行夫作「小説・橘外男」他) 解説:川口則弘(直木賞研究家)

山の花環 小宇宙の光山の花環 小宇宙の光

低き丘でも高みに立たば、 下の者より見ゆるは道理、 われもみなより多く見ゆべしーー 幸せにして、また不幸なり。 イスラム教改宗者の討伐という歴史的事件を材に、民衆の「哀しき人間の運命」を綴った、セルビア「第二の聖書」と目される一大詩篇『山の花環』。宇宙創造、人間の堕落と魂の救済を詠う『小宇宙の光』。セルビア文学の金字塔となった、ニェゴシュを代表する二大叙事詩。 ……ニェゴシュの文学は、吟遊詩人の伝える伝承の「コソボ史観」に尽きるものではない。ニェゴシュの詩人としての偉大さは、そうした民族叙事詩の世界を乗り越えて、「哀しき人間(ひと)の運命(さだめ)」を追求したことにある。『小宇宙の光』では、その主題が形而上的なレベルで扱われているが、そこに現実世界で主教、君主、そして人間として苦悩するニェゴシュの魂を読むことができる。『山の花環』の登場人物たちはかなり理念化されているが、ダニロ主教の悩みや恐れは、ニェゴシュの心の深奥を映し出している。──「訳者解題」より

イェレナ、いない女 他十三篇イェレナ、いない女 他十三篇

目にするものはすべて詩であり、手に触れるものはすべて痛みである。 不正義、不条理に満ちた世界で人びとはいかに生きるか。 歴史に翻弄される民族を見つめ、人類の希望を「橋」の 詩学として語り続けたノーベル文学賞作家アンドリッチ── 「橋」、短編小説八篇、散文詩『エクス・ポント(黒海より)』 と「不安」、エッセイ三篇を収録した精選作品集。 歴史の不条理を、若きアンドリッチは身をもって体験した。第一次大戦中の思想犯としての獄中生活は、戦争という外的世界を凝視させると同時に、「幽閉された者」の精神的な内的世界へと作家を招き入れる。歴史と魂の問題は、作家の生涯を通じて、詩学を支える二本の柱となった。この詩学の魅力は、新現実主義と形而上主義の両面を持ちあわせ、見える世界と見えない世界を結び合わせる力にある。集団と自我、天と地、魂と肉体、異なる二つのものを引き裂くもの、繫ぎ合わせるものに、作家は光をあてる。アンドリッチの問いかけは、人はどう生きるべきかではなく、人々はどう生きるかという人類的な問題である。──「訳者解題」より

聖伝聖伝

その目はあまりにも死んだ兄の目に似ていた。あの時、逆賊のテントで、みずからの手で殺したあの兄の目に…… 絶対平和主義を貫き、正しい生き方を求め、 最後には自死を選んだ伝記作家の名手ツヴァイクーー 聖書、聖典を材に、時代の「証人」として 第一次大戦中から亡命時代に至る激動の時代に書き残した、 人類永遠の主題「戦争と平和」をめぐる四つの物語。 本邦初訳を含む新編新訳。 シュテファン・ツヴァイクは、自死する前に、世界が彼に何をあたえ、そして奪ったかを書きとめた。その記述は、まぎれもない絶望の冷徹さからくる容赦のない正確さをもってなされた。彼は名声の喜びと屈辱の災禍を記録する。彼は、自分がそこから追放された楽園について語る。 ーハンナ・アーレント あなたこそは本当にわれわれの時代が必要としている、高潔なヨーロッパ精神の体現者です。このような人が現れるのをわたしは二十年来待ちわびていました。われわれロマンス語圏の国には、どうしてあなたほどのスケールの批評家がいないのでしょう! ーロマン・ロラン ツヴァイクの作品の多くは、無垢でありながら闇の領域に足を踏み入れてしまう人物の視点から語られている。わたしは常々、ツヴァイク自身は冒険をしないタイプの人、つまり彼が作品のなかで掘り下げて書いているのはあくまでも自分が興味をもった出来事で、彼自身の体験ではないのだと思っていた。だが事実はまったく逆のようだ。 ーウェス・アンダーソン

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