出版社 : 新潮社
人を憎み利用するだけで愛を知らないシビルの目的は、ヴァレリーの全財産を奪い破滅させることだ。ヴァレリーは、銀行家の夫と別れ、最近、カールトンと再婚、自分の財産管理を夫に一任していた。その夫がヴァレリーの全財産を担保に借金をして急死。破産したヴァレリーは学生時代の恋人ニックと再会する。そして、資産家の未亡人になったシビルは、カールトンと密会していた…。
ただひとりキーツを天才詩人だと見抜いていたイザベラ・ジョーンズ夫人。彼がこの年上の美貌の夫人と過した運命の夜を再現し、長編詩『エンディミオン』『聖アグネス祭前夜』を完成させるまでの詩人の心の奥をさぐりながら、その愛とエロスと生の真相に迫る。キーツの魅力に憑かれた作家が、十九世紀初頭の英国と現在を往還するかのごとく描く魂の交響曲。
加賀藩の実権を掌握した黒羽織党の銭屋へのいわれなき報復はますますその悪辣さを増す。碇泊中の千石船への細工、女中頭への襲撃、銭屋の名を騙った金沢城下への付け火。さらに十五万両という莫大な御用金の供出を迫られる。絶体絶命、瀕死の銭屋が打って出た大博打とは?幕末の不穏な政情下、鴻池、住友、三井をも凌駕した海商、銭屋五兵衛の苦難の生涯。痛恨血涙の完結編。
盲目の元音響技師ハーレックは鋭い聴覚を駆使して、身内が巻き込まれた誘拐事件を解決に導き、一躍英雄となった。事件を通じて知り合った警官デブラと結婚し、すべて順調に思われたが、悪い知らせが届く。捜査に携わった元巡査部長ジャノウスキーが射殺されたのだ。しかもそれは凄惨な復讐劇の幕開けに過ぎなかった…。『音の手がかり』『音に向かって撃て』に続くシリーズ第3弾。
際どい和歌のために貴族社会のタイトロープを踏み誤った母。焼死したと噂される幻の母を追って宮中奥深く入りこんで機を窺う娘。愛憎と権世欲の逆巻く世界が生み落したシリアルキラーは果して何者か。幽鬼が出没し狂人の彷徨う京の都は、一体どんな悪霊に支配されているのか。まやかしの都を舞台に、サイコサスペンス風味でたっぷりと描く超絶時代小説。
親類て煩いもんです。誰だって好きではないのに、皆集まってはややこしくしているようなもんです。老母とのつきあい、冠婚葬祭をユーモラスに描く表題作、ロスアンジェルスの暴動を渦中から克明に描く「千一本の火柱」、二つの国の物語。
農奴解放前後の、古い貴族的文化と新しい民主的文化の思想的相剋を描き、そこに新時代への曙光を見いださんとしたロシア文学の古典。著者は、若き主人公バザーロフに“ニヒリスト”なる新語を与えて嵐のような反響をまきおこしたが、いっさいの古い道徳、宗教を否定し、破壊を建設の第一歩とするこのバザーロフの中に、当時の急進的インテリゲンチャの姿が芸術的に定着されている。
太平洋戦争末期、南海の孤島アナタハンに取り残された33人。米軍の爆撃が熄んだのちも、大日本帝国の不敗を信じて米軍への投降を拒み続け、七年と十八日間。当初は軍人の指揮のもとに結束していた男たちも、自給自足の生活を強いられ、互いに離反してゆく。そして何よりも、唯一の女性の存在が、32人を根底から揺さぶり始めた。夜もおちおち眠れぬ愛憎の疑心暗鬼。闇の中で誤解と深読みがぶつかり合い、死体がひとつ、またひとつ…。32対1の女の凄絶サバイバル。
杉林で発見された二体の白骨。その片方は行方不明の姉だった。動揺する坂本直里に持ち込まれた、新築マンションでのシックハウス症候群という仕事上のトラブル。その二つを繋ぐ悪意とは?木場と秋田を舞台に、「杉」という木の背後に広がる人間の闇を描く。
恋愛・結婚・女性観、エロス論、イデア論…。彼は古代ギリシアで、どう生きていたのか。-そうだ、プラトーンに会いに行こう。午睡のあと、ソフィアとカズゥコはタクシーを拾い、神殿へと向かった。
宗教の島・久高島から、本島へ嫁いだ朝子。婚家は誇り高い神女殿内で、接収された軍用地からは莫大な使用料が-幸福を約束されたかに思えた結婚だったが、家の資産を狙うヤクザ者が夫に近づき、朝子の心は次第に“濁った闇”に包まれてゆく…。『日の果てから』『かがやける荒野』に続き、沖縄を代表する作家が、激しく揺れ動く現在の島を舞台に“沖縄の魂”の変貌を描き切った一作。
香西レイは18歳。札幌の女子短大に在学中。心の底に焦燥を抱えるレイは、無邪気な同級生たちとは相容れず、ひたすら詩作に熱中していた。周囲との距離を保つことで、居場所を確保するレイだが、自分を取り巻く環境と無縁ではいられない。虚言癖のある先輩、不感症の女、ストーカーまがいの男…。様々な人たちと出会いながら、心の扉を開け放とうと呻吟する女性を描いた自伝的長編。