出版社 : 田畑書店
昨年11月、惜しまれつつ逝った著者の、最後に遺された単行本未収録の短篇小説、追悼文、鎌倉の文芸誌「そして」に連載されていたエッセイを収める。巻末に三木卓文学を愛してやまない編者・小谷野敦氏の解説と年譜を収める。 詩人として、また作家、児童文学者として生涯活躍し続けた著者のスワンソング。 〈短篇小説〉 ヌートリア 来訪したもの 咳 夏、そして冬 幸福感について 寝台自動車 病室 〈追悼文ふたつ〉 辻章さんのこと 小田さんありがとう 〈文芸誌「そして」に連載されたエッセイ〉 異性の目 ハッピーエンド わが土台 小説を書きだした頃のことから 文学者の認められかた ああ、ジョン・レノン 八公の神さま 解像度と段差 録音音楽について 二〇一四年二月 最近のこと、ひとつ これからの文学 ぼくはターザン 身の上相談からはじまって 随筆文学の衰退について 【解説】三木卓の世界 小谷野敦 三木卓 年譜
あのとき吹いた青あらしは、海台風のように激しかった!昭和、平成、令和の時代を市井で生き抜いた作家が自らの生涯を振り返り、失ったもの、得たものを凝視しながら、海の香り漂う豊かな作品世界に昇華させた、著者最後の長編小説!
シティポップが生まれた80年代。同時代の日本の「文学」は何をしていたのだろう?世界のファンのSNSが甦らせたポップ音楽の背後には、同じ時代状況から生まれ、同様に日本オリジナルの発展を遂げた、都会文学の世界が隠されていた。それは現実の都市生活をベースにしながらも、フィクションのヴェールを1枚かけて理想化された、作家たちの“夢”の中の「街」、「どこにもない」場所を架構する文学だった。本書に収めた“9つの物語”は「シティポップの時代」を並走した、そんな日本の忘れられた都会小説。そこには今も優しい風が吹いている。
文学は情報ではないー。谷崎最大の長編「細雪」。しかしその評価は未だ定まってはいない。本書は従来のナラトロジーを更新するノン・コミュニケーション理論を導入することで、日本語による三人称小説の“客観的に論証可能な「語り」読解”の方法論を提示し、プルースト、V・ウルフらに比肩する同時代の世界文学としてその価値を標定する。
貧困、早婚、目を覆うような家庭内暴力と家庭崩壊、旧態依然とした体質の原住民社会ー台湾原住民に対する既存のイメージを打ち破ってその暗い側面を明るみに出し、苦境にあっても屈することなく努力を続けるタイヤル女性・懐湘を描いた感動の長編小説!
家父長制のもと戦争の波に流され、戦後を生き抜いてきた“女ともだち”の人生の終焉(自殺)を、ヴァージニア・ウルフに重ねて描いた表題作ほか、長年連れ添った夫婦のかたちを静謐な筆致で描いた短篇群に、随筆を加えるー円熟味の増した著者が達した新境地!
渋谷ホームレス殺人事件から丸2年。いま問いかける“普通の人々”の実相!気がついたらいつのまにかホームレスになっていた66歳の十和子さん。その十和子さんをなんとか助けようと孤軍奮闘する公務員の永山くんー日ごと酷さを増す社会のひずみに陥る“普通の人々”の実相を、元公務員作家が巧みなフィクションで描く!
ワリス・ノカンは、原住民としての覚醒以降、台湾原住民の伝統生活や山地の風景、そして近代文明との衝突、さらに原住民族の受難の歴史について、口述歴史やフィールド調査を通じて、さまざまな角度から作品に描いてきた。本書は「蕃刀」をペンに換えて文化出漁/文化出草し、タイヤルの伝統領域における生活を守り、失われゆくタイヤルの誇りを言祝ぐために書かれた猟人の文学である。
真のスポーツマンシップは戦争の現実にふれて戦慄した。「戦争はスポーツとは違う…」隅田川とスンガリー川。ふたつの川のあわいに生きた元祖ラガーマンの数奇な生涯を描く、大河長編小説!
膨大な文業のなかに埋もれていた「社会派」短篇の名篇を発掘。高度成長期に隠された人間の悲哀を描く傑作選!野口冨士男の水上勉論「慕情と風土」を収録。
明治も終りに近い頃、江戸川橋近くの鰻屋で育ちながら、家業を嫌い靴職人になった主人公・伊之吉が、たび重なる浮き沈みに揉まれながら生き抜いて行くー。丹念な心理描写ときめ細かな筆致で、靴職人の半生と関東大震災前の東京を鮮かに描く!太平洋戦争中には“不要不急”の小説として刊行を見送られ、戦後は出版社の倒産によってお蔵入りとなった“幻の長編小説”!野口冨士男・生誕110年を期し、78年の封印を解いてここに刊行!
真っ直ぐな言葉の連なりが織り成す微妙な色合い。読むほどに人と人との間の心の綾が身に沁みて、少しだけ人生が愛おしくなるーそう、小説ってこういうものだった。長い沈黙のトンネルの果てに、作家がたどりついた新境地!
日露戦争に出征して生還、関東大震災を経てなお、太平洋戦争を生き抜き、戦後の繁栄を支えたひとりの商人の生涯ー東京市麹町に一代で羅紗問屋を築いた自らの父をモデルに描く著者渾身の長編大河小説!
昭和三十四年、「降誕祭の手紙」で芥川賞候補になって以来、戦後の激動期を家庭人として過ごしながらも、ふつふつと漲る文学への思いを絶やさずに生き続けた人生ーその熟成の過程を余すところなく収録した、著者畢生の自選作品集!