1987年8月1日発売
第二次大戦末期、連合軍がヨーロッパ深く進攻し、ナチス・ドイツの命脈もつきようとしていたころ、ヒトラーは、ヴァチカンのピウス12世とある取引をし、その切り札をオーストリア山中に秘匿した。その切り札とは、聖ヴェロニカの屍衣。公表されれば、法王庁の権威は失墜し、ひいてはキリスト教世界を崩壊させかねない。ヒトラーはまんまとヴァチカンの口を封じたのである。そして、40年を経たいま、密やかに眠りつづけたヴェロニカがまたよみがえる。屍衣にまつわる謎をめぐって展開するミステリー巨編!
UCLAの哲学講師スティールの妻ステファニーが失踪した。原因は、聖ヴェロニカの屍衣。美術品鑑定家の彼女は、屍衣にからむ政治事件にまきこまれたのだ。懸命に妻の行方を探すスティールがようやく探りだしたところでは、背後で、ヴァチカンの転覆を企む組織が糸をひいているらしい。屍衣は、その鍵となるものなのだ。ヴァチカンが転覆すれば、西欧キリスト教世界は崩壊し、共産勢力の思うままになる。いまやその命運を握るのがステファニーなのだ。さまざまなおもわくをからめて、モサド、CIA、ポーランド国家保安委員会がせめぎあうポリティカル・スリラー!
29歳のマキシ・アンバービルはさっそうとコンコルドのタラップを降りた。これからマンハッタンのアンバービル出版の緊急役員会に出席するのだ。しかし、意気揚々と会議室にのりこんだマキシを待ちうけていたのは、思いもかけない事件だった。こともあろうに叔父のカッターが母のリリーを言いくるめて結婚し、社の実権を手中にしようとしていたのだ。あまつさえ、いまは亡き父のザッカリーが心血を注ぎ、理想に燃えて創刊した雑誌四誌を、業績不振を口実に廃刊にするというではないか。そうやすやすとあの男の思いどおりにさせはしない。なんとかして取り戻してみせる。何年、たとえ何十年かかろうとも、私の手に取り戻してみせてやる。マキシはやさしかった父のおもかげに誓いながら、怒りに身をふるわせ、足音も荒く席を蹴ったのだった…。
決然と役員会の席をたち、みずから強引に新雑誌の編集長におさまったマキシは、娘のアンジェリカと前の夫ロッコに助けられながら、生来のきかん気とバイタリティにまかせて雑誌づくりをおしすすめていった。そして創刊の日、彼女のつくった女性の味方「B&B」は、またたくまに売り切れてしまった。カッターの鼻をあかして、マキシは有頂天だったが、カッターもだまってはいなかった。経費の膨張を理由に、社の売却を画策しはじめたのである。彼は、ともかくザッカリーが憎かったのだ。その名前を地上から消すためならなんでもするつもりだった。そしていま、憎しみは彼の愛娘にむけられている。カッターVSマキシの対決。波瀾にみちた彼女の人生の幕があいた…。成功の甘い香り、挫折と苦悩。男と女の愛の苦しみ、憎悪と嫉妬。華やかなマンハッタンの街を背景にマキシとリリーがくりひろげる一大叙事詩。
マニキュアで窓ガラスに描いた花吹雪を残し、夜明けに下駄音を響かせアイツは部屋を出ていった。結婚10年目にして夫に家出された歳上でしっかり者の妻の戸惑い。しかしそれを機会に、彼女には初めて心を許せる女友達が出来たが…。表題作をはじめ、都会に暮す男女の人生の機微を様々な風景のなかに描く『紅き唇』『十三年目の子守歌』『ピエロ』『私の叔父さん』の5編。直木賞受賞。
それはただ単に、交通渋滞のための遅刻だったが…。恋人を待つ1時間に人妻の心に去来した不信が招く愛の終り。夏の昼下り、夫の浮気を目撃しショックを受けた若妻は、ニースのカジノで幸運を8に賭けた…。いつしかなれあいになった夫婦関係で、離婚を決意する夫の心情。若者の残酷な愛のエゴとジェラシーなど男と女の微妙な恋愛模様を背景に、愛の皮肉と優しさを描く短編集。
ニューヨークの地下鉄で女性に暴行しかけたチンピラを、乗合せた白人男性が射殺した。マスコミは彼を“善意の殺人者”と呼び、英雄に仕立てた。同じころ人気女性キャスターら3人の女性が殺され、また元ベトナム兵が続いて射殺される事件が起きた。NY市警の名コンビ、ニューマンとレッドフィールドは、これらの連続殺人はお互いに関連があると見たが…。新シリーズ第1弾!
ミストラル死す。20世紀を代表するこの天才画家の訃報に接した瞬間、ファッション界に君臨する女性実業家マギー・リュネルの前から50年の歳月が消えた。1925年パリ。花の都に出てきた17歳の田舎娘マギーは、持ち前の美貌と活発な性格で、たちまち人気モデルにのしあがる。マチスが、ピカソが、競って彼女の絵を描いた。が、ひとりの無名画家との出会いが彼女の人生を変える…。
心から愛したパトロンの死後、マギーはモデル・クラブを経営しながら、女手ひとつでひとり娘テディを育てあげる。だが皮肉なことにテディは、マギーがかつて愛した男ミストラルと運命的な恋に落ち、私生児フォーブを出産したのだった…。1920年代のパリから現代のニューヨークまで、華麗なファッション・モデルの世界に生きた女性三代の愛と自立の歴史を描く感動の大河ロマン
実業界、政界に雄飛した父は、女性遍歴を重ねていく。その蔭で、母は歌集を編むことによって自らの心を癒す。青春時代、父に反抗しながら、結局は後を継ぎ、大企業のトップに立つ主人公が、今や、忌み嫌っていた父に似てきたことを覚る。自己の内面に潜む、救いようのない血塗の心奥を吐露した長編小説。
歓喜、悲嘆、憎悪。時には生や死さえも溶解しのみつくす、灼熱の太陽、永遠の海。日々の暮しに遠い神話の世界がまざりあう物語の時間。禁忌と宥恕に包まれた、懐しい戒律の宇宙を、内から発せられる不思議な響きで語りあげた、美しくて残酷な南の島の物語。
1年前、あろうことか、ゴーテは殺人事件をもみ消していた。場所は、彼が一時的に指揮をとるよう命じられたヴィガトポーア警察署。そして、加害者は、ゴーテが敬愛するケルカー副監察長官だった。あまりにも怠惰な警官に腹を立てた長官がインク壷を投げつけたところ、当り所が悪くて相手が死んでしまったのだ。が、目撃者のいないのを幸い、警察の将来のためとゴーテは長官を説得し、溺死に見せかけるため、二人で死体を湖に沈めた。その“溺死”事件に疑問が投げかけられたのは、10カ月後のことだった。水泳の達人だった兄が溺死するはずないという、被害者の妹の訴えがきっかけだった。こうしてゴーテは警察本部長に呼ばれ、査問委員会にかけられることになったのだ。…人間味あふれる東洋の探偵ガネシ・ゴーテが最大の危機を迎える話題のシリーズ最新作!