1988年4月発売
コンピュータ・ソフトウェア会社の野心家のSE・桂木勲は、ある日の午後、若いOLと情事を愉しんでいた。ところが、その同じ時間に出向先の銀行で、まったく予期せぬ出来事が起こり、桂木はピンチにおちいる。はじめて味わう挫折感。やがて、新しい出向先に移った桂木は、今度は自己の存在理由が根底からゆさぶられるような、衝撃的な事件に遭遇する。その事件とは?ビジネスマンの生き方の問題を、恋愛とえん罪をからめて鮮烈に描く感動の長編推理。
「ひょっとして、透とは親がちがうのでは?」真帆は弟の透より一つ上の中3。美形の透はおしゃれでモテる。それに比べて、真帆は平凡で美的センスに欠ける。親がちがうという考えは、疑問から確信へと変わっていく。ある日、透の所へ、真帆と同学年の達也が訪ねてきた。真帆の心はドキッとなった。サッカー部のキャプテンの達也に憧れる女の子は多い。真帆の親友の尚美も、その一人だった。
春休みの第1日目。クセっ毛が悩みのあたしは、こっそりストレートパーマをかけに行くはずだった。ところが、ひょんなことから、笑い上戸の男の子と出会った。そして、あたしはひと目ボレ、ついに初恋。だけど、2度目に会った彼は冷ややかで虚無的、まるで別人みたい。しかも彼の耳には真っ赤なルビーのピアスが…。いったい彼に何があったの、すてきな彼の笑顔はどこにいっちゃったの?
ブルーな工場での1日、京介が落とした財布を届けてくれたポニーテールの女の子ーそれが海だった。織田川海、19歳、三つ子の兄弟・空、大地たちとロックバンド「ポルカドッツ」をつくって、ライヴハウスで活躍している。実家は大きな造り酒屋で、親に決められた生活を嫌い、上京してきたのだ。京介は、さっそく海に交際を申しこむ。だが、ポルカドッツのプロデビューが決定し…。
楼吹雪の舞う夜の公園で17歳の少年は、殴り倒され、初めての屈辱と殺意を知った。やがて彼はふとしたことから5発の実弾が装てんされたリボルバーを手に入れ、誇りを傷つけた男の行った札幌めざして復讐の旅に立った。九州から北海道へ、息づまる奇妙な旅をスリリングに描くサスペンス長編。
父が死んで、高校をやめた僕は左官見習として働いていた。姉も結婚できずに働いている。気丈だった母が、ノイローゼになり…。丘の上に新しい家を建てることを明るい希望にしていた僕は、無免許で事故を起し少年院へ(「手錠の一日」)。少年期から青年期へ、上手に飛べなかった若者の悲しみが、キラッと光る傑作青春小説集。
朝まで営業しているスナック“ケント”は、クルマ好きの若者たちの溜り場だった。そこをピットがわりに、1周13.9キロの首都高速を何分何秒で走るか。バイク、クルマを材にして、若者たちの血気と情熱を描く青春小説集。
理由不明のまま、山奥の駐在所に配転の身となった新人類刑事・五月千春。気分転換にSL山口線の旅と洒落込んだが、思いもかけず若い女性の殺人容疑者にされてしまい…。暴漢に襲われた美女を救う新人類刑事五月…。SL山口線、大井川線を舞台の鉄道トリック!!。
ニューヨークのロフトを改造した工房で絵具の臭にまみれながらの2年間だった。自己のいっさいを犠牲にして、偉大な芸術家・永田隆造にひかれてゆくぼくー。光と闇・尊敬と憎悪・強者と弱者、あらゆる対比のなかから解放を希求する若者を緊迫した文章で綴る。表題作他2篇。
ホストクラブに勤めていた修二が死んだ。遺書らしきメモも見つかった。失恋を苦にした自殺とみなされ解決したかと思われたが…。万全な計画のもと、遺漏なく“完全犯罪”を実行したのは、新進の女流作家・房子であった。すべては順調に…!?表題作他5篇を収めた本格派推理小説集。
1984年冬、ハンナ・スチュアートが「ベルン・クリニック」で不審な死をとげた。この事件が起こるや、アリゾナ州ツーソン、ニューヨークのケネディ空港、オーストリアのグミュント、そしてロンドンのパーク・クレセントで、ほとんど同時に、幾組かの男女が、それぞれのおもわくを秘めて動きはじめた。目的地はスイス、チューンにある「ベルン・クリニック」。そこでささやかれている「ターミナル計画」とは何か?アメリカ人ジャーナリスト、ニューマンは、ひょんなことから事件に巻き込まれていく。虚々実々の駆け引きの末「ターミナル計画」の謎にたどりついたニューマンに危機が迫る。
百貨店の社長として烈しい競争の世界を疾駆し続ける〈私〉の胸に、ふと、引き裂くように自由への渇望がこみ上げる。そのような時にはまた、宿業を負った生い立ちから、理想に燃えて父に反逆した青年期が思い起こされる。-一族の血の重さに耐えつつ、ひたすら事業を拡大し、なおしなやかな感性を保ち続けようとする生きざまを驚くべき真率さで物語る。平林たい子文学賞受賞。