1988年発売
父が死んで、高校をやめた僕は左官見習として働いていた。姉も結婚できずに働いている。気丈だった母が、ノイローゼになり…。丘の上に新しい家を建てることを明るい希望にしていた僕は、無免許で事故を起し少年院へ(「手錠の一日」)。少年期から青年期へ、上手に飛べなかった若者の悲しみが、キラッと光る傑作青春小説集。
朝まで営業しているスナック“ケント”は、クルマ好きの若者たちの溜り場だった。そこをピットがわりに、1周13.9キロの首都高速を何分何秒で走るか。バイク、クルマを材にして、若者たちの血気と情熱を描く青春小説集。
理由不明のまま、山奥の駐在所に配転の身となった新人類刑事・五月千春。気分転換にSL山口線の旅と洒落込んだが、思いもかけず若い女性の殺人容疑者にされてしまい…。暴漢に襲われた美女を救う新人類刑事五月…。SL山口線、大井川線を舞台の鉄道トリック!!。
ニューヨークのロフトを改造した工房で絵具の臭にまみれながらの2年間だった。自己のいっさいを犠牲にして、偉大な芸術家・永田隆造にひかれてゆくぼくー。光と闇・尊敬と憎悪・強者と弱者、あらゆる対比のなかから解放を希求する若者を緊迫した文章で綴る。表題作他2篇。
ホストクラブに勤めていた修二が死んだ。遺書らしきメモも見つかった。失恋を苦にした自殺とみなされ解決したかと思われたが…。万全な計画のもと、遺漏なく“完全犯罪”を実行したのは、新進の女流作家・房子であった。すべては順調に…!?表題作他5篇を収めた本格派推理小説集。
1984年冬、ハンナ・スチュアートが「ベルン・クリニック」で不審な死をとげた。この事件が起こるや、アリゾナ州ツーソン、ニューヨークのケネディ空港、オーストリアのグミュント、そしてロンドンのパーク・クレセントで、ほとんど同時に、幾組かの男女が、それぞれのおもわくを秘めて動きはじめた。目的地はスイス、チューンにある「ベルン・クリニック」。そこでささやかれている「ターミナル計画」とは何か?アメリカ人ジャーナリスト、ニューマンは、ひょんなことから事件に巻き込まれていく。虚々実々の駆け引きの末「ターミナル計画」の謎にたどりついたニューマンに危機が迫る。
百貨店の社長として烈しい競争の世界を疾駆し続ける〈私〉の胸に、ふと、引き裂くように自由への渇望がこみ上げる。そのような時にはまた、宿業を負った生い立ちから、理想に燃えて父に反逆した青年期が思い起こされる。-一族の血の重さに耐えつつ、ひたすら事業を拡大し、なおしなやかな感性を保ち続けようとする生きざまを驚くべき真率さで物語る。平林たい子文学賞受賞。
ソウル・オリンピック最終日、メインスタジアムにわきあがる歓声とどよめき、なんと胸に日の丸を付けた黒人が男子マラソンで優勝!?-オリンピックとナショナリズムの問題を扱った表題作の他、日本全土が5日間、全ての経済活動を停止する「無名の日」、住宅展示場のモデルハウスに住む家族の顛末を描く「ホモ・アピアランス」など、大胆な設定で常識のイカガワシさを突く短編5編。
「面白くない」と背番号7の宇野人形は文句をつけた。「あいまいだわね」と『石野真子』ちゃんも同調した。「うるさい、どんな話をしようとわたしの勝手だ」-というわけで、お話は続きます。信じようと信じまいと。9人の金子光晴、アメリカに行くための地図、伊藤整の「日本文壇史」、「ハッピイ・エンド」など、文学史上初の豪華8大付録つきで贈る、ポップでキュートなポストモダン新物語。
断崖絶壁に立った時の血が引いていくような戦慄、季節はずれの別荘地の静寂につつまれた時の本能的な怯え。-北は北海道の十勝岳、シラルトロ沼から、南は九州の平尾台、高千穂峡まで日本全国18カ所の風景を〈主人公〉にしたユニークな旅のミステリー。非情な大自然が人間の心に呼びおこす名状しがたい恐怖を、時刻表や心理のトリックを駆使して描き出す。泉鏡花賞受賞。
ある朝、ニューヨーク56番街に中年の劇作家イェップ・マスカットがふらりと戻ってきた。舞台女優の夢を捨て切れぬ妻、ブルックリン・ドジャースが大好きな息子と母親似の娘、そして幼なじみや懐かしい人たちとの再会…。ニューヨークの街を歩くイェップの前に人生のほろ苦さと暖かさ、憂鬱と輝きが浮かび上がる。誰よりも人間を愛し続けた作家、サローヤンの自伝的代表作。
英国南部、海を見下ろす崖の上に建つ古い邸宅エンド・ハウス。その家の若く魅力的な女主人ニックは、このところ奇妙な事故に悩まされていた。重い額縁の落下、ブレーキの故障、落石…。そして、たまたまリゾートにやってきたポワロの目の前で、ニックが狙撃されるという事件が起きる。彼女の命を守るため、ポワロの灰色の脳細胞が働きはじめたー。初期クリスティを代表する長編。
飛行テスト中の新型弾道ミサイルが突如方向転換して米本土へ舞い戻った。ソ連の妨害工作か?調査を命じられたCIA工作員マーカムは自国の驚くべき超能力開発の現場を垣間見るが、KGBでの研究はそれをはるかに凌ぐという。研究者に偽装した彼はソ連の研究の中枢に侵入をはたすがー。最先端の科学をめぐる秘密工作とその裏に隠れた謀略をスリリングに描くエスピオナージュ。
亡き妻の級友と知り合い、再婚に漕ぎつけた男に降りかかる奇妙な災難を描く表題作ほか、人間心理の深奥を鋭く探り、日常生活のうちに突然生ずる殺意の瞬間を鮮やかに捉える、濃密なサスペンス7編。