1988年発売
奇妙でユーモア溢れるアメリカ旅行記「走れトマホーク」。身辺私小説仕立ての「埋まる谷間」「ソウタと犬と」。中国の怪異小説家に材を取る「聊斎私異」など多彩な題材と設定で構成されながら、一貫する微妙な諧調ーー漂泊者の哀しみ、えたいの知れない空白感。短篇の名手の円熟した手腕が光る読売文学賞受賞作。表題作を含む9篇を収録。
ジョギング中のルポライターが殺された。数日後、今度はその恋人が車にはねられた。事件を解くカギは、被害者がワープロで書いた消えゆく急行同乗ルポにあると思われた。
広島で被爆した原民喜(1905-51)は、見たものすべてを書き尽すことのみを心に決め、激することなく静かに物語った。だからこそ「夏の花」「廃墟から」「壊滅の序曲」等の作品が伝える原爆の凄惨さと作者の悲しみを、いっそう強く深いものにしている。生前の作者自身の編集による能楽書林版(1945)を底本とした。
箱が人を殺したって……? ごちそうを期待してパーティーに出かけた石津、片山両刑事の前に出されたのは、こんな難問だった。またまた怪事件発生。三毛猫ホームズがこの事件に挑む。
象さえも持ち上げるロク鳥、人をひと口で飲み込む大蛇などが登場し、奇想天外な物語に満ちた7回の航海がくりひろげられる「船乗りシンドバードの物語」。他に、美しい若者と少女が魔女とおりなす妖しい話「ブドゥール姫の物語」、奴隷の女と青年が不思議な道すじをたどった末に結ばれる「幸男と幸女の物語」などを収める。
夫を捨てて、突如出奔した母・絹子。「ドナウ河に沿って旅をしたい」という母からの手紙を受け取った麻沙子は、かつて五年の歳月を過ごした西ドイツへと飛ぶ。その思い出の地で、彼女は母が若い男と一緒であることを知った。再会したドイツの青年・シギィと共に、麻沙子は二人を追うのだが…。東西ヨーロッパを横切るドナウの流れに沿って、母と娘それぞれの愛と再生の旅が始まる。
絹子は娘・麻沙子の説得にも応じず、ドナウの終点、黒海まで行くと言い張る。絹子の若い愛人・長瀬の旅の目的に不安を感じた麻沙子とシギィは、二人に同行することにした。東西3000キロ、七ヶ国にまたがるドナウの流れに沿って二組の旅は続く。様々な人たちとの出逢い、そして別れー。母と娘それぞれの、年齢を超えた愛と、国籍を超えた愛を、繊細な筆致で描き上げた人生のロマン。
鎌倉の旧家、里井家の長男・幸太郎が鈍器で撲殺されたのを皮切りに、銃殺、毒殺と次々に恐るべき殺人が行われる。探偵事務所を営む手島利明とその恋人、輝子の2人は、莫大な財産目当ての凶行とみて調査を進め真相に迫る。里井家の少年がもらした「宝探し」のひとことが指し示す凶悪無類の真犯人は一体、誰か?
資産家に嫁いだ美貌の人妻・瀬戸溶子が突然消えてしまった。そして夕刊の風景スナップに彼女の姿が認められたとき、数人の男女が行方を追うため旅立った。やがて杜の都・仙台と美しい鳴子峡で連続殺人事件が起きる。溶子の謎の正体とは?真犯人は一体誰なのか?本格推理と愛憎劇の見事な融合、傑作長編。
桜の木の下に死体。そして血塗られた文庫本…。480キロ離れた横浜と奈良で、昼と夜、同じ状況で連続殺人が起こる。被害者2人を結ぶ細い糸を必死にたぐり寄せた浦上伸介だったが、彼の前に鉄壁のアリバイが立ちはだかった。高笑いする犯人の緻密なトリックを、あなたは浦上より早く解明できるか?
シルクロード博にわく奈良で、東京から来た老人が変死した。鹿に襲われたのである。だが狂乱地価のおかげで、老人の残した資産は15億円といわれ、その遺産をめぐって殺人が起こる。警視庁“独立捜査班”高月圭一が見破った、前代未聞のトリックと鉄壁のアリバイ。緻密な仕掛けで読者に挑む傑作長編ミステリー。
綾子は商社の電話交換手である。夜の退屈しのぎに女友達からそそのかされて、テレフォン・セックスを始めた。そしてある夜、ダイヤルをまわしたとたん、耳に入ったその声!綾子がその番号の持ち主を知ったとたん、事態は恐ろしい方向へとすすみ、彼女をがんじがらめに…。鬼才が都市の恐怖、人間の弱点を衝撃的に描いたサスペンス秀作。
週刊誌の女性編集者北川真弓は、四国取材の途中、屋島で藤の花の下に倒れた若い女の他殺体を発見した。被害者は東京で夫とスナックを経営する人妻。そして離婚の寸前だったという。真弓は週刊誌の記事にするべく事件を追う。浮かび上がった被害者の人生、そして意外な犯人とは?旅情ただよう、アリバイ崩しの名編。
美しい津永和佳子に身辺警護の依頼を受けた私立探偵三影潤は、伊豆の海辺にある彼女の別荘を訪れた。そこには盲目の従姉と病身の祖父が同居していたが、三影の一瞬の油断をつかれて依頼主和佳子が殺害される…富豪の別荘で展開される大胆なトリック殺人を描く表題作のほか4編を収録。本格推理短編集。
マレーシアの高原カメロン・ハイランドの密林に消えた大富豪。その謎を日本・マレーシアの両警察が追ううちに次々と起こる連続殺人。緊張をはらみつつ、事件は意外な結末へと一気に向かう。1967年に起きたタイ・シルク王「失踪」事件を背景に、雄大な構想でまとめあげられた本格長編推理完結。
夏の行先不明列車銀河鉄道X号に乗った男は恋人に見送られ、上野を発った。男は翌日、北上川で死体となって発見された。恋人と隣り合わせた人物と老婆も殺害されてしまう。そして恋人も連環殺人者であるとする警察の疑いに、衣子は「愛の推理」を働かせ第3の男を暴き出す。トラベルミステリーの白眉。
モーツァルトの子守唄が世に出た時、“魔笛”作家が幽閉され、楽譜屋は奇怪な死に様をさらすー。その陰に策動するウィーン宮廷、フリーメーソンの脅しにもめげず、ベートーヴェン、チェルニー師弟は子守唄が秘めたメッセージを解読。1791年の楽聖の死にまつわる陰謀は明らかとなるか。乱歩賞受賞作。
池上鮎子の恋人で新聞記者の北条が、デートから京都へ戻る新幹線の車中で毒殺された。鮎子は警察の事情聴収をうけた際、北条には京都に婚約者がいたと知らされ、衝撃と疑念をおぼえる。謎を追いはじめた彼女の前に次々意外な事実が広がる。そして北条が記者として追及していた巨大悪とは?トリック、構想とも卓抜の問題長編。