1989年10月発売
エリート商社員と夫と有名私立小に通う息子とくらす奈々子。息子のいじめと無関心な夫、隣人とのやりきせない人間関係の中で幸せなはずの家庭に忍び寄る官能の嵐、そして崩壊。繁栄の時代の影を浮き彫りにする異色の長篇。
黎明期の向島花街に生きたひとりの女の愛と哀しみ。明治20年、新橋の売れっ子芸妓お良は政商村岡にひかされて向島に移る。隅田川に秋風が渡るある夜庭先に現われた目許の涼しい若い男に別れられない想いを抱いたお良だが、村岡が何者かに暗殺され…。向島花街に生きたひとりの女の物語。
英文学教授ポーラ・グレニングは、庭の石段ど足を滑らせ怪我をした友人の代理講師として、急遽、金持ちの未亡人レディ・ヒンドンの屋敷で毎週ひらかれる創作講座にでることになった。だが友人の怪我はたんなる事故ではなかった。何者かが石段に細工していたのである。それだけではない。“家庭内の殺人”をテーマに生徒たちが書いた短篇には、事故との類似性を感じさせるものがあったのだ。生徒の誰かがストーリーをなぞって罠を仕掛けたなどということがあるだろうか?あれは、生徒の中に実際に“家庭内の殺人”を犯した者がいると暗示していたのか?しかし真意を確かめる間もなく、事態は思わぬ方向へと展開した。英国女流の新鋭が放つクラシックな本格サスペンス。
私立探偵ジェイコブ・ロマックスのもとにデンバーの石油業者フィリップ・タウンゼンドの弁護士が電話をかけてきたのは、タウンゼンドが車ごとロッキーの岩場に転落して死亡してから6週間後のことだった。事故死の判定にどうしても納得しない未亡人を満足させるために、再調査をしてほしいという依頼だった。確かにロマックスが調べてみると、ひっかかる点がいくつかあった。タウンゼンドの私生活を洗いはじめたロマックスは、一本のビデオ・テープを発見した。そしてそこには、まだあどけなさの残る少女を犯すタウンゼンドの姿が写っていた。誠実な夫、優しい父親、真面目なビジネスマンの下にロマックスが見たもうひとつの顔とは?ロッキーの大自然に囲まれた町デンバーに知性派探偵ジェイコブ・ロマックス初登場。PWA新人賞受賞作。
グリーンに輝く巨大なクリスタルの破壊を命じられた戦艦《オマゾ》が消息を絶った14時間がすぎた。自由意志を奪って人間を思いのままに操るヒュブノ・クリスタルに《オマゾ》は乗って取られてしまったにちがいない。その報告を受けたアトランと自由商人ロワ・ダントンは、ダントンの宇宙船《フランシス・ドレーク》で《オマゾ》捜査に乗りだした…。ようやく所在をつきとめたかれらは、《オマゾ》艦内に潜入して、乗員たちを救出しようと奇策をめぐらすのだが…!
明るい陽光、バームツリーと白い砂浜。隠退老人たちのリゾート天国、フロリダで余生を送る元天才ロボット学者のコッブは、自分とそっくりの男の訪問を受けた。月に行ってくれれば、代償に新たな肉体を提供するというのだ。月では、かつてコップに自意識を与えられ、人間に対して叛乱を起こしたロボットたちが、独自の都市を築いている。いぶかしく深いながらも招待に応じたコップは、いつしかロボット同士の大抗争にまきこまれてしまった!マッドSFの鬼才ラッカーが、奇想天外な大騒動をポップなタッチで描いたディック記念賞受賞。
ゴールデンゲート・パークでアヒルに餌をやっていた少女ミシェルは目を見はった。池の対岸が見えなくなるほどの濃霧が、あっというまに一面に立ちこめてしまったのだ。しかも異変は、そこだけにとどまらなかった。サンフランシスコを中心とする一帯がこの異常な霧に包まれ、航空機や船舶の事故が相つぐ。霧に影響されないはずの超音速地下列車すら不通になるありさま。外部との通信もいっさい途絶し、サンフランシスコ市民は不安と混乱の一夜をむかえた。翌日、霧の晴れたサンフランシスコ上空に異星人の奇妙な宇宙船が姿を現わした。
アリオン人と名のる異星人はサンフランシスコ市民に驚くべき事実を知らせたー実験材料として、サンフランシスコを母星アリオンに持っていくというのだ。巨大バブルに包まれたサンフランシスコは、いま、恐るべき速度で宇宙空間を移動しているらしい。傍若無人なアリオン人のやり方に、サンフランシスコ市民も黙ってはいられない。市民による大暴動デモが各所で繰り広げられ、ハミルトン空軍基地と市の行政部も協力して、アリオン人に対する強力な抵抗運動を展開していく。…気鋭作家が、奇想天外な設定と緻密な構成でリアルに描くSF大作。
空中を浮遊する風船虫、地上を這いまわるひしゃげ蟹、そして空中を掘り進む穴掘屋ー宇宙生物学者ダニー・デイルハウスは狂喜した。双子座の惑星ジェムには、三種類もの知的生物が存在しているのだ。そのうえジェムは地球型環境の惑星だから、人口増加と資源枯渇に悩む地球にとって、願ってもない植民惑星となる。デイルハウスの調査結果をうけ、食料ブロック、燃料ブロック、人民ブロックにわかれた地球では、ただちに各ブロックごとの探険隊が組織された。他ブロックより先にジェムを獲得するために三つどもえの熾烈な競争が始まったのだ。
「地底世界こそ神話にあるユートピアだーアトランティス大陸、シャンバラ、ペルシダー!そしてかの地に住まうは魚人間である」この珍説に我が意を得たりと共感したのが発明狂のジャイルズ少年。なにしろ自分の体に鰓と水かきがあってはそれも無理もない。驚くべきは、ガラクタ集めて地底探検車を作ってしまったこと。これに目をつけたのが名声ばかり追求するうさんくさい探検家ピニオン。にわかに騒がしくなったジャイルズ少年の身辺だったが、あげくは殺人事件まで生じる一大事に…。ディック記念賞受賞作家が描くマッド・ファンタジイ。
カリフォルニア・フリーウェイパトロール。かれらは発達した高速道路網を使った数々の犯罪の取り締まりに奔走していた。そんな時、それまでのハーレーに替わってニッポン製の新型高性能バイクが次期モデルとして採用されることになった。ハーレーに憧れてフリーウェイパトロールになったパトロール・チームのチーフ、シンディはそれに反発した。そして、ひとりハーレーを後りようとしないシンディの前に、大規模な自動車窃盗組織による軍の新型装甲車の強奪事件が発生する。そして新型バイク・チームの出動となるが…。浅香晶デビュー第一作。
6月と7月の満月の夜に連続して起きた一家惨殺事件は、全米を恐怖の底に叩き込んだ。10人の残酷な方法で殺されたうえ、遺体の状況は現場で不気味な死の儀式が行われたことを示していたのだ。FBIは、かつての異常殺人の捜査で目ざましい業績をあげたグレアムを現場に呼び戻す。グレアムは犯人の心理に自分を同化させる独特の方法で、次の満月までに犯人を捕えるべく、捜査を開始。だが新聞の報道でグレアムの存在を知った犯人が、ひそかに彼をつけ狙いはじめた!冷酷な殺人鬼とグレアムの人知を尽くした対決を描く傑作サイコ・サスペンス。
詩人・画家であるウィリアムス・ブレイク描くところの〈大いなる赤き竜〉。その姿に自らをなぞらえて、恵まれぬ運命に復讐するかのように冷酵な殺人をくりかえす男、ダラハイド。新聞記者を生贄にし、不敵な挑戦状を叩きつける彼に、グレアムら捜査側は、なす術もなく翻弄される。だが、一人の盲目の女性との出会いを契機に、ダラハイドの自我は二つに分裂しはじめた!はたしてグレアムは次の満月が昇るまでにダラハイドを阻止し、第三の惨劇を防ぐことができるか?鬼才が人間心理の深淵に潜む怖るべきものを垣間見せる戦慄のサスペンス大作。
英国国防省の高官ブラックロック卿が、自宅で何者かに殺された。首を切り取りテーブルの上に置くという残虐な手口だった。国防省に勤務するハリー・セドールは、首相からの命令を受け、調査を開始する。だが、その数日後、ブラックロック卿の屋敷を謎の一団が襲撃する事件が起きた。警備員たちとの銃撃戦で襲撃者は3人死亡、その遺体からセドールは貴重な手がかりをつかんだ。黒い圧力と妨害を受けつつも、セドールは敢然と捜査を進める。やがて、英米仏共同の巨大な陰謀と、悲劇的事件が浮かび上がってきた!注目の新鋭が放つ力作スリラー。
手始めは、少年だった。しばらくその頭を清流の中に押さえつけておくだけですんだ。次は、車の修理工。車の下敷きにするだけだった。眠っている赤ん坊はもっと簡単だ。タオルで顔を押さえて窒息死させれば事足りた…ニューヨーク州のある田舎町で、一見何の脈絡もなく人が死んでいった。いずれも事故や突然死とみなされたが,共通しているのは死者の髪がなぜかベっとりと濡れていることだった。誰が何を目的として動いているのか?事件の背後にソ連の謀略〈クロノス〉の存在を読みとった工作員トロッターと見えざる敵との息づまる対決。
真っ黒に塗りつぶされた特別検察官の報告書。それが、何度も噂に上り、疑惑を持たれ、現に証人が二人も消されている司法長官の裏金作りをめぐる調査の結果だった。政治家のスキャンダルはこうしてうやむやのまま終わることが多い。しかし、塗りつぶしのない完全な報告書を入手し公表できれば、灰色の司法長官に致命的な打撃を与えることも可能だ。テレビ記者の友人が私を呼び出したのは、そのためだった。自分の高い能力を証明するため、私はこの危険な仕事を引き受けたのだが…。一介の私立探偵がアメリカ司法長官の裏金スキャンダルに挑む。
報酬は十万ドルー選挙をにらんで、民主党の下院議員も私に調査を依頼してきた、時間も金もかかる仕事で、調査は難行していた。だが、急がねばならなかった。刑務所にいる証人にまで殺し屋の手が伸びできたのだ。証人の息子を殺した犯人たちの行方を探し出すこと。それがこの証人からすべてを聞き出す交換条件だった。情報を得た私はバハマに飛んだのだが…。新しい世代のハードボイルド『ただでは乗れない』で初登場した元ジャンキーの私立探偵トニイ・カッセーラが持てる力のすべてと男の矜持をかけて腐敗した権力に立ち向かう話題の雄篇。