1989年4月発売
32歳になっても、幼児の知能しかないチャーリイ・ゴードンの人生は、罵詈雑言と嘲笑に満ちていた。昼間はパン屋でこき使われ、夜は精薄者センターで頭の痛くなる勉強の毎日。そんなある日、彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の偉い先生が、頭をよくしてくれるというのだ。願ってもないこの申し出に飛びついたチャーリイを待っていた連日の苛酷な検査。検査の競争相手は、アルジャーノンと呼ばれる白ネズミだ。脳外科手術で超知能をもつようになったアルジャーノンに、チャーリイは奇妙な親近感を抱きはじめる。やがて、脳外科手術を受けたチャーリイに新しい世界が開かれた。だが、その世界は、何も知らなかった以前の状態より決してすばらしいとは言えなかった。今や超知能をもつ天才に変貌したチャーリイにも解決しがたいさまざまな問題が待ちうけていたのだ。友情と愛情、悲しみと憎しみ、性、科学とヒューマニズム、人生の哀歓を、繊細な感性で描きだす感動の1966年度ネビュラ賞長篇部門受賞作。
緑まぶしい五月、完全装備した自転車に乗って東京・清瀬を出発、国道4号線を北上し、一路青森へ向かう男がいた。彼の名は桐沢風太郎、44才、貧乏なグラフィック・デザイナー。無類のアルコール好きで、空手の心得もある。この中年男が、そうとは知らずにある極秘文書を所持したまま旅行をつづけ、自衛隊に追われることになった…。道中で出会ったヒッチハイク少年との交流、追う者と追われる者との間に芽ばえる男の友情など、さわやかな読後感を残す冒険サスペンス小説。
アート・ベクスタイン、ピッツバーグ大学4年、インテリでファザコン、父親はギャングスター。ひと夏のあいだに、風変わりな美少女フロックスとホモセクシュアルの青年アーサーの両方を愛してしまう。いったい自分のアイデンティティとは何か?夏が彼自身を明らかにしていく。
宝石密輸の激増に頭を痛めていた公安調査部は、スイスで宝石商が殺害され、強奪された宝石が闇のルートで日本国内に持ち込まれたという情報を得た。犯人のポルトガル人の情婦が、日本人だったのだ。宝石の闇ブローカーに身をやつした加下千里が、軒並み宝石店に当たり続けて半月、とあるバーで、中国服の美女に声をかけられた…(「青衣の魔女」)。他、好評シリーズ2篇を収録。
妙高高原火打の里。雑賀与四郎は雑賀財閥を一代で築いた立志伝中の人物だが、いまは財閥から放逐され、心臓病で療養中の一人息子・呑龍とひっそり隠棲生活を送っていた。嵐の夜。妖しい光を発する物体が火打山の麓に落ちるのを目撃した呑龍は風雨を衝いて現場に向ったが、そこで意識を失った。長い眠りから醒めて邸に戻った呑龍だが、目の前には心臓を掴み出されて死んでいる父の姿が。超時空サスペンス。
上高地観光のバスが、渓谷で次々に銃撃され、3台が断崖を落下、死者105、負傷者54名の大惨事となった。だが狙撃犯・沼田光義はアルコール酩酊で心身耗弱状態、長野地裁は無罪を言い渡した。自らが溺れたアルコール中毒に、無罪を許す法とは何か!?心身耗弱は偽装か?母と妻娘を殺された真琴悠平は、人類の名において沼田を裁くことを決意、沼田の過去を追い始めた…。長篇問題作。
小さな出版社の編集部員・洋一は、新宿ゴールデン街の酒場で見た芝居のポスターの画家に、童話シリーズの絵を依頼した。蚊絣の着物を着、坊主のように頭を剃り上げている画家は、木札の百人一首を持っていた。二人の間でさっそく坊主めくりが始まった。だが、坊主札が出るとうれしそうに解説する画家は、なぜか顔を見せない姫札(小野小町、式子内親王、周防内侍)に異常な関心を示すのだった。珠玉の長篇。
橋のまんなかに立ち、川面にむかってタクトを振っていた叔父-。あの人は、たしかに、〈天のある人〉だった。見なれた、なにげない風景のなかから、人間の奥深い世界がほのみえてくる…。“ことばの錬金術師”池内紀、はじめての小説集。
「お宅のお子様を預かっています。元気です」娘の舞子を誘拐され、絶望の日々を送る高尾加代子に、思いもかけぬ朗報。しかし、その子の父が誰か判然としない彼女の気持ちは晴れない。そこへ女の声で衝撃的な電話が!化野に住む美しい夫人の不倫の愛と悲劇。さらに子供をめぐる連続殺人で、加代子に捜査の手が迫る…。
警視庁捜査一課の超マジメ刑事朝日正義と迷犬ルパンのコンビ、今回は科学万博へやってきた。その日、会場に隣接する宿泊施設で、焼死者の出る不審な火事があり、朝日とルパンは捜査を始めた。しかし翌日、ルパンに吠えられた老人がショック死する事件があり、ルパンに殺人の犬疑ーいや嫌疑が…!怪事件の行方は?
山形県米沢の旧家蘇芳家の当主カナが二度殺された。喜寿の祝いの夜、犯人はカナを絞殺し、翌朝、さらに鴨居から吊ったのだ。半年後、事件の目撃者・富樫幹夫が結婚式を挙げるのと同時に、挙式予定の従妹・貴詩が、その前夜、死体となって発見された。鬼才が放つ奇抜なトリックと斬新な構成で描く本格推理の秀作。
声楽家で野性的な美貌を誇る妻と、その伴奏ピアニストをつとめる風采のあがらぬ夫。この音楽家夫妻に生じた愛情の亀裂を発端に殺人事件が発生、しかも犯人は第二の殺人を予告してきた。捜査線上に最後まで残った容疑者には不動のアリバイがある。主任警部の鬼貫は単身蔵王へ飛んだ…。本格の雄が壮大なトリックで挑戦。
ー1984年6月18日、コロラド州デンバーでラジオの人気DJが暗殺された。彼の名はアラン・バーグ。貧困、犯罪、人種差別、セックスなど、アメリカにはびこる矛盾と腐敗にマシンガンのような喋りで戦いを挑み、スターの座をつかんだ男。だが、その過激な発言は、ネオ・ナチ・グループの格好の標的ともなった…。-“言葉は人を殺す”。アメリカ社会の病根を抉る衝撃のノンフィクション。オリバー・ストーン監督・映画「トーク・レディオ」の原作。
田舎とは聞いていたけれどこれほどとは!夜道はレスリーの心をうつすかのように暗く淋しかった。息子の親権を確保するための便宜上の結婚。しかも相手は手紙のみで一度も会ったことのない男。これから行くオクラホマの牧場ではいったいどんな生活が待っているのだろう。ああ、もし…。
彼女があのシェリーなのか?豊かな赤毛、キュートな女性に成長したシェリー。十余年ぶりに帰ってきた故郷の田舎町での思わぬ再会にタイラーは驚く。いっぽう彼女の方も、野性的な魅力をもつタイラーに惹かれ、かつての憧れの気持ちは恋の炎となって燃えあがる。だが彼はシェリーの土地に工業団地をつくろうとしているのだ。この土地は私のもの、絶対に渡せないわ!でも彼は素敵…困ってしまうシェリーだった。