1990年2月発売
義和団事変の騒乱もようやくおさまりをみせた今世紀初頭の北京。婚約者の待つ異郷の地へと、メアリ・マッケンジーはイギリスからはるばる船で渡っていく。だが、中国での新婚生活は彼女にとって満足のいくものではなかった。やがて日露戦争が始まり、偶然に出会つた日本軍人栗浜伯爵に激しく魅了されたメアリは、道ならぬ恋におち、彼の子供を宿してしまう。イギリスに送還しようとする夫の手を逃れ、栗浜の用意した船で彼女は、見知らぬ国日本へと向かう…。第1次大戦、関東大震災、太平洋戦争と、しだいに軍国主義の傾向を強めていく暗い時代の日本で、たくましく自立していくスコットランド女性メアリと栗浜の禁じられた愛を描いた、イギリスの大ベストセラー。
1964年の出版以来、性と暴力の描写の苛烈さで話題を呼び、バージェスらに激賞された大ベストセラー。交通標識そのままの表題に従い、ブルックリンの街に入っていくと、そこでは退屈しのぎに兵隊が半殺しにされ、面白半分に娼婦が暴行され捨てられていく。破格のスタイルを使い、暴力と恐怖と途方もない笑いを描くことで、人間の純粋さと弱さを痛ましく漂わせた現代アメリカ文学の傑作。
新陰流の達人京極斑鳩之介は、いわれなき辻斬りの罪をきせられ、遠島となった。辛くも江戸に舞い戻った斑鳩之介は、何者かに娘を狙われているという商家紅屋の用心棒となる一方で、真の辻斬りを追う。杳として手懸かりが掴めないまま、ある晩、斑鳩之介の不在を衝いて紅屋に火が放たれ、娘の秋が連れ去られた。卑劣な奸計の裏を手繰り、自分を陥れた狡猾な同心鬼頭一角に行き当たった斑鳩之介は、怒りの秘剣を揮う。
早苗の兄・喬が局部をえぐり取られた惨殺死体で発見された。同じ頃、喬の馴染みのバーのママの家へ、切断された男性器が送られてきた。勝刑事は早苗の協力をえて捜査を開始。ところが、喬の住んでいた部屋で、別の男がガス中毒死した。2つの事件を結ぶ糸は?密室トリックとアリバイ崩しで読者に挑戦。本格推理の傑作。
一人の男が関わった4つの悲鳴。最初の悲鳴は、人影の少ない海岸での若い女性のもの。2番目は、彼の上の階に間借りしているホステスの悲鳴。第3の悲鳴は自らがあげることになった。そして、第4の悲鳴の後に殺人が…。本格推理の名手が巧みに織り成す表題作「悲鳴」ほか、珠玉のミステリーを揃えたオリジナル短編集。
鎌倉街道東慶寺は、「駆込寺」として知られる。寺の前のせんべい屋に居候する。“麿”は、公卿の身を捨て、住持の玉淵尼を守る忍びの棟梁である。せんべい屋の八兵衛・おかつ夫婦もまた忍びである。この三人で、駆込寺に逃れる女を救い、悪をくじくのを、人呼んで、“陰始末”-。今日も、若い女が東慶寺の石段を逃れてくる。「駆込寺」東慶寺に逃れる女たちを救う白皙の剣士“麿”とは-3人の忍者が事件に立ち向かう快作。
フロリダ-輝く太陽と青い海。ベス・ファラデーは潮風に顔を撫でられながら朝の日差しを浴びていた。「やあ、ベス」近づいてくるヨットから声をかけられて、ベスは一瞬息をのんだ。ギブ・マクラーレン!黒髪にエメラルド色の瞳、たくましい体躯。5年前、苦悩の底で、手を差しのべてくれたのは、まさしく、彼ギブだった。ベスの心に、苦しい想い出とともに懐しさがよみがえり…。
「地方検事候補のフランクリン・ウェイドです。どうぞよろしくお願いします」動物愛護運動をすすめるアリーは、その深みのある声に振り返った。豊かな金髪に、あふれんばかりの笑顔。この人なら、私たちの運動に協力してくれるにちがいないわ。アリーの目は輝いた。
伯爵の父を持つライナは、結婚によって爵位を得ようとするヘクター卿の執拗な求愛から逃れ、ひとりロンドンに向かった。職を求めるライナは、キティ・バーチントンの侍女としてパリの舞踏会へ行く仕事を得た。しかし、その仕事の裏には意外な事実が隠されていた。
1876年、ニューメキシコのベイヤード砦。騎兵隊中佐ステファンの妻、ハンナは軍人の妻たちの間でもその毅然とした美しさは際立っていた。しかしハンナはいま好奇と蔑みの眼に耐えながら生きていた。というのも数ヶ月前、アパッチに襲われ、捉われの身となっていたのだ。無事帰りついたものの、夫のステファンですら妻の醜聞を何とか隠そうとしつつ、「いったい、この女は何人のアパッチと…」とハンナを疑いの眼で見るのだった。2人の溝は日増しに深くなるばかりだが、そんな彼女に、いつしか心の支えとなっていったのは、騎兵隊のキャプテン、カッターだった。
25歳の美しい未亡人、ロイアル・バナーの船は、ブラジルに向かっていた。夫を亡くして間もない彼女だったが、自由への夢と希望に、胸はときめいていた。愛のない、みじめな結婚生活は終わったのだ。解放的な気持ちのまま、途中、リオの祭マルディ・グラーに行ったロイアルは、魅力的な男セバスチャンと、たちまち意気投合し、危険な誘惑と知りながらも、激しい抱擁に身をまかせてしまう。一夜かぎりのことと割り切ったつもりだったが、再びセバスチャンと顔を合わせることになろうとは。
オランダ人貿易商の養女、レンは18歳になったばかり。魅力的な男マルコームに、生まれてはじめての熱い思いを抱き、両親に結婚の許しを乞う。しかし、両親の反応は冷たかった。父リーガンは、海の旅から帰ったばかりの息子カレブに、レンの気を誘い、ひとときの恋の迷いから覚まして欲しいともちかけるのだった。両親の裏切りを知ったレンは、家をとび出し、愛するマルコームの許に走るのだが…。
レンが青春を賭けて愛した人、マルコームは財産めあての冷血漢だった。心も体も傷つき、自分の愚かさに打ちのめされたレンは、義兄カレブの船「シーサイレン号」に乗りこみ、懐しい故郷をあとにする。新大陸アメリカへ向かう船上で、レンを優しく労わるのは、かつての憎い人、カレブその人だった。逞ましい海の男に、次第にレンは心魅かれていくのだが…。執念の虜となったマルコーム、恋敵のセーラと共に、ふたりの運命をのせて、船は大西洋の荒波をわたっていく。
ニューヨークのクリスマス・イブ。セントラル・パークは降りしきる雪におおわれ、静かなたたずまいを見せるが、いったん視線を通りに移すと、そこにはイブの興奪に湧きたつ巷がある。家族が、友人が、恋人たちが、愛と希望を抱いて微笑みかわす-そんな夜に、ひとりで街を歩いて車にはねられ、病院に収容された女がいた。女の身元が判明したとき、看護婦は驚きのあまり声も出なかった。有名な女流作家のダフネ・フィールズだったのだ。もっと驚いたことに、ダフネのもとに駆けつける人は誰もいなかった。家族も、友人も、恋人も-。うわ言で「マシュー、アンドリュー」とふたりの男性の名を呼ぶダフネ。物語は過去と現在をむすんで、ダフネの謎の私生活を綴っていく。
実業界を引退したゆたかな紳士ピクウィック氏は、素朴な人柄で、人間愛に満ちた人である。彼は行く先々で人を助け、悪をこらしめようと力をつくす。しかし、人がよすぎて、かえって失敗ばかり…。明るく楽しい笑いの底に人間回復の願いを託す、ディケンズ最初の長篇小説。