1990年2月発売
結婚2年半の平井めぐみは、エース化粧品宣伝マンの夫、豊と、出張先の蔵王ホテルで落ち合うことになっていた。ところが一日遅れてくる筈の夫がその日、ゲレンデのスキー客の中にいた。待っていた温泉での一夜をスッポカされた彼女は、夫婦間に溝ができたことを自覚した。そんなある日、室に押し入った青木という男にレイプされためぐみは、心ならずも性の深奥を覗いてしまった。そのことを知った豊が家出して間もなく、青木は殺され、「あなたの夫は人殺しよ。あなたも殺されないようにね」と女の声で怪電話がかかり…。
京都3大祭りのひとつ、時代祭りの行列の中にヒロインの巴御前に扮した広川雪江がいた。雪江は東京・調布にある音楽大の学生で、3人の学友と家族、それに大学の講師で推理作家でもある朝見大介の目前にきて、ハンケチをふった。ところがその直後に落馬してしまった。30分後、「ハハガ…ハラガ…」の謎のメッセージを残したまま雪江は死んだ。大観衆とカメラの放列の見守るなかで、なぜどうやって雪江は殺されたのか?教え子の死の謎に敢然と立ちあがった朝見大介だったが…。書下し本格推理シリーズ第3弾。
ルポライターの実相寺貴之は、国労本部組織部長・木田島の書いた、元総理・角田力衛の上越新幹線私物化を告発する文章のリライトを手がけた。記事が週刊誌に発表されて1カ月後、木田島の娘・はるみが新潟で乗用車ごと転落死する。当の木田島は、娘は殺されたとの言葉を残し失踪。実相寺は、木田島の部下でありはるみの婚約者でもあった岩木とともに、木田島捜索と事件の真相究明に乗り出す。長篇サスペンス。
「よう、外池の旦那、君の屍体が赤坂の十番ホテルで発見されたよ」-警視庁の部長刑事戸田老人から外池洋祐に奇妙な電話がかかってきた。自分の名前をかたってホテルで消された男の謎を追う洋祐。細菌兵器の機密をさぐる秘密工作員。彼らをめぐる女たち。そして事件の陰には、いつも青いサングラスの男がいた…。洋祐は、彼の名前をかたった男に化け、謎の連続殺人とスパイ網の秘密を暴く。長篇推理。
独身OLの阿部純子は、3日続きの悪夢に悩まされていた。琴の音に始まり、法螺貝の響き、人馬ぶつかる合戦の轟き、そして首なしの鎧武者…。見かねた友人の勧めで手かざしを受けた結果、純子には戦国武将の怨霊が憑いているという。真相を突き止めようと探偵の尾高一幸らとともに、怨霊の武将の末裔にあたる九鬼家を訪れた純子の前で、次々と惨劇が始まった。長篇ホラー・ミステリー。
平凡なサラリーマンである辰巳吾郎は3年前に行きつきけのスナックの娘・香織と結婚した。彼女は私生児だった。実父は岸森良介といい、立志伝中の財界人。辰巳は義父の良介に会いに奥飛騨の山荘へ行った帰り、人を轢き殺してしまう。が、現場へ警官と戻った時、死体は忽然と消えていた。真相を追及する辰巳の前に岸森の影がちらつく。5千年をさかのべる伝説とともに物語は意外な展開を…。官能サスペンス。
裏店の先生月瀬右馬丞、実は老中の密命で浪人に身を窶し、諸大名・旗本の動静を探る、歴とした松平家の次男坊。その先生がある日、お衿と五郎太に命じた。老中の書簡を携えた無刻飛脚として、将軍家献上の御茶壷の道中奉行石尾阿波守に喧嘩を売れという。斬首覚悟、何故先生は?市井には石尾阿波守、奥女中を相手の淫靡な嗜癖ありとの噂が流れていた(「壷涙かせ」)。色道に武士道を見る痛快時代小説連作。
52歳で志を立て、信州飯田から京へのぼった歌人・多勢子は、岩倉具視の命を助け、孝明天皇暗殺の幕府方の密謀を探り出すなど命がけで国事に奔走する-知られざる実在の人物に光をあてた書き下ろし歴史小説。
義和団事変の騒乱もようやくおさまりをみせた今世紀初頭の北京。婚約者の待つ異郷の地へと、メアリ・マッケンジーはイギリスからはるばる船で渡っていく。だが、中国での新婚生活は彼女にとって満足のいくものではなかった。やがて日露戦争が始まり、偶然に出会つた日本軍人栗浜伯爵に激しく魅了されたメアリは、道ならぬ恋におち、彼の子供を宿してしまう。イギリスに送還しようとする夫の手を逃れ、栗浜の用意した船で彼女は、見知らぬ国日本へと向かう…。第1次大戦、関東大震災、太平洋戦争と、しだいに軍国主義の傾向を強めていく暗い時代の日本で、たくましく自立していくスコットランド女性メアリと栗浜の禁じられた愛を描いた、イギリスの大ベストセラー。
1964年の出版以来、性と暴力の描写の苛烈さで話題を呼び、バージェスらに激賞された大ベストセラー。交通標識そのままの表題に従い、ブルックリンの街に入っていくと、そこでは退屈しのぎに兵隊が半殺しにされ、面白半分に娼婦が暴行され捨てられていく。破格のスタイルを使い、暴力と恐怖と途方もない笑いを描くことで、人間の純粋さと弱さを痛ましく漂わせた現代アメリカ文学の傑作。
新陰流の達人京極斑鳩之介は、いわれなき辻斬りの罪をきせられ、遠島となった。辛くも江戸に舞い戻った斑鳩之介は、何者かに娘を狙われているという商家紅屋の用心棒となる一方で、真の辻斬りを追う。杳として手懸かりが掴めないまま、ある晩、斑鳩之介の不在を衝いて紅屋に火が放たれ、娘の秋が連れ去られた。卑劣な奸計の裏を手繰り、自分を陥れた狡猾な同心鬼頭一角に行き当たった斑鳩之介は、怒りの秘剣を揮う。
早苗の兄・喬が局部をえぐり取られた惨殺死体で発見された。同じ頃、喬の馴染みのバーのママの家へ、切断された男性器が送られてきた。勝刑事は早苗の協力をえて捜査を開始。ところが、喬の住んでいた部屋で、別の男がガス中毒死した。2つの事件を結ぶ糸は?密室トリックとアリバイ崩しで読者に挑戦。本格推理の傑作。
一人の男が関わった4つの悲鳴。最初の悲鳴は、人影の少ない海岸での若い女性のもの。2番目は、彼の上の階に間借りしているホステスの悲鳴。第3の悲鳴は自らがあげることになった。そして、第4の悲鳴の後に殺人が…。本格推理の名手が巧みに織り成す表題作「悲鳴」ほか、珠玉のミステリーを揃えたオリジナル短編集。
勤王か佐幕か、攘夷か開国かー。沸き返る世論と、目まぐるしく変化する時勢の流れに、敢然と立ち向かい、新しい時代を模索しながら、志なかばに斃れていった人々の激しい生きざまを描く。
鎌倉街道東慶寺は、「駆込寺」として知られる。寺の前のせんべい屋に居候する。“麿”は、公卿の身を捨て、住持の玉淵尼を守る忍びの棟梁である。せんべい屋の八兵衛・おかつ夫婦もまた忍びである。この三人で、駆込寺に逃れる女を救い、悪をくじくのを、人呼んで、“陰始末”-。今日も、若い女が東慶寺の石段を逃れてくる。「駆込寺」東慶寺に逃れる女たちを救う白皙の剣士“麿”とは-3人の忍者が事件に立ち向かう快作。
フロリダ-輝く太陽と青い海。ベス・ファラデーは潮風に顔を撫でられながら朝の日差しを浴びていた。「やあ、ベス」近づいてくるヨットから声をかけられて、ベスは一瞬息をのんだ。ギブ・マクラーレン!黒髪にエメラルド色の瞳、たくましい体躯。5年前、苦悩の底で、手を差しのべてくれたのは、まさしく、彼ギブだった。ベスの心に、苦しい想い出とともに懐しさがよみがえり…。