1991年発売
天下統一を成し遂げた豊臣秀吉の晩年の頃、ひとりの剣客がいた。名は、朧愁之介。年の頃は27、8で長身痩躯。彫りの深い顔には、冷徹な色と妖しい色気が漂っている。伏見の船宿の二階に居候しているが、腕は滅法強い。必殺剣は、長刀・備前長船景光をひっさげての「影の灯火」だ。愁之介には出生の秘密があった。千利休の妾腹の子なのだ。ある事件を追っているうちに、父利休の死の謎に突きあたる。真相を暴かんと単身敵地に斬り込むが、その結果、石田三成の陰謀と千利休の思いもよらぬ出自が浮かびあがる。
季節はずれの猛吹雪に襲われた南アルプス仙丈岳。市川佑子と佐倉知弘のカップルは、避難した仙丈小屋で三人連れのパーティと天候回復を待つことになった。そこへ荷物をなくした大熊友男が逃げこんできたのだ。大熊の傍若無人のふるまいと凶暴性を秘めた態度に、五人の反感は次弟に憎しみと恐怖、ついには殺意へと変る。が、一カ月後、大熊を投げこんだ谷からパーティの一人の死体が発見されたのだ。
五光百貨店のプリンスとまでいわれた榊原聡明常務は、社内政治に長けた奥谷猛専務に追い詰められていた。一度は、奥谷の社長就任を許した榊原であったが、百貨店の経営については自分の方が一枚も二枚も上手だという自負もある。そこに持ち上ったのが北山流通グループ総帥の北鋭司からの誘いだった。榊原は北山百貨店の副社長として迎えられ、敵陣より五光の奥谷の経営に挑戦する。長篇企業内幕小説。
『三国志』ほどスケールの雄大な物語は少ないだろう。玄徳、関羽、張飛が盟約を結び、天下統一をはかろうとして展開される。やがて中国史上空前の大戦といわれる赤壁の戦いを迎え、最後には晋によって天下が統一され、三国志は終わる。本書は天保年間に刊行された『絵本通俗三国志』を基にしたダイジェストである。挿画は北斎の高弟葛飾戴斗。いかにも北斎派らしい大胆な構図と躍動感に満ちた絵がすばらしい。
天正7年伊藤一刀斎は堺にいた。茶の湯の宗匠・津田宗及と相識り、招かれて夕玄庵に滞在、茶道で言う「一期一会」のなかに剣の極意がひそむのを感得し、新たなる境地を拓いた。剣に生きるものの宿命か、無眼流、反町無角に挑戦を受けた。愛刀一文字は水のように流れ、無角を真っ二つに斬り捨てていた。一刀斎は、その剣に「払捨刀」と名づけた。戦国の世を往く剣聖を描く書下し剣豪小説。
その生涯は不遇であった。奈良・聖武帝の御世に多感な青年期を送った大伴家持は、名門貴族の嫡男に生まれながら、都の政争の渦中で没落し、鄙の地・陸奥に没したとき、屍になってなお、謀反の嫌疑によって追罰を受けた。万葉集を編纂し、最多の歌を収めるこの歌人が、都を遠く去った越中や因幡、伊勢に詠った風景は、胸底にわだかまる憂愁であり、天平へのかなわぬ憧憬であっただろうか。歴史長篇。
ときめく心で大冒険、夢いっぱいのファンタジー。ブラックホールを抜けると、そこは妖精・魔物たちが住む不思議なファンタジーワールド。異次元世界に迷い込んだタケルと仲間たちが繰り広げる痛快スチャラカ大冒険、いよいよ開幕。
連城重吾隊長が鬼道組を離脱し、残された上条と麗子は懸命に動揺を抑え、宿敵ダブル・クロスの急所を探る。指揮官・水上の邪悪な野望を挫くべく、ザルツブルグの敵本拠地に急襲をかける上条と麗子。だが、彼らの見たものは、復讐の鬼神と化し殺戮の限りをつくす連城の弧高なまでに猛々しく血に飢えた姿であった。新・野獣舞踏会シリーズ完結篇。
Kブライダルセンターに一通の手紙が舞い込んだ。「貴社の仕事は愛を冒とくするものだ。ただちに中止せよ」誰かのいたずらかと無視していたが、センターのOLが散弾銃で撃ち殺されてしまい、死体の上には花束が…。折りしも翌週に「愛の花束」と銘うった集団見合いが企画されていた。片山刑事、晴美たちもこの見合いに出席するが…。スリル満載のシリーズ15弾。
営業部長の妻がロックされた団地七階の自宅で頚骨を折られて死んでいた。つづいて総務部長の娘が謎の自殺を。そのうえ宣伝部副部長が浴槽から溺死体で発見された。関係者がみなヨコハマ自動車の社員か家族であり、殺人現場がいずれも密室風であることから、社内に戦慄が走った。そこでOL探偵団が結成されたが、姿なき殺人者の手は彼女たちにものびてくる。
高木彬光の生み出した5人の名探偵、神津恭介、大前田英策、百谷泉一郎、近松茂道、そして、霧島三郎。五人五様の推理の冴えを競う、文庫未収録作品3編を含む推理ファン必読の作品集。-東大法医学教室の助教授・神津恭介のもとに奇怪な事件が持ち込まれた。7年前に父親が失踪し、最近部屋に血の雨が降るという。しかも血には血液型がなかった。(「幽霊の血」)。
三味線片手に、諸国を旅して歩く門付け女、お丹。息をのむほど美しい新内の名手。彼女を一目見た男は、すべて艶やかな色香の虜になってしまう。ところが実は、無類の力持ち。東海道の宿々で、美貌と怪力にもの言わせ、近寄る男たちを手玉にとりつつ、荒稼ぎ。御金蔵破りの助っ人やら、山賊、果ては大名の姫君の替え玉役まで、奔放に生きる怪美女の痛快旅日記。
不幸は突然、襲ってきた。藩内で陽明学を講ずる門出転に幕府から苛酷な罪科が下されたのである。「切腹」。この学問は国禁とされていた。愛弟子・和三郎の動揺は激しかった。「師の大恩に報いるには自ら介錯人を務めること」と申し出た。師を送る日が迫る。和三郎は“失敗”の夢にうなされた。さて当日は…?。武士道小説の名手が織りなす美しくも悲しい9編の宿命絵巻。
「ソエルディン候爵のもとに嫁ぐのだ」父、マドレスコート公爵の言葉に、レディ・ロレッタは当惑した。夫については、以前から夢に描いた理想像があった。それが、一度も会ったことのないフランス人の男性と結婚するなんて…。思い悩んだロレッタは身分を偽ってフランスへ渡り当の男性の人柄を見極めようと決意した。
タレント・エージェントのローリーは、こともあろうに、テニスコートの男子用更衣室のロッカーに身を潜めていた。マスコミ嫌いで知られる若手No.1プレーヤー、スティーブにCM出演を承知させるためだった。やがて、スティーブの声が聞こえドアの閉まる音がした。そっとロッカーの扉を開けてみると…、日に焼けて引き締まったスティーブの背中が見えた。