1992年11月発売
鴬橋派出所の管内で起きた殺人事件。それが、一人の外勤警官の日常を変えた。死体に残された噛み傷、何かを隠している様子の同僚、夜ごとに駅前にたむろする少年たち。小さな謎が絡まりあい、やがて大きな疑惑へと変貌するとき、警官は自分自身の過去と対することとなる…。新本格の気鋭が新しい分野に挑む。
妹の肉体を“名器”から“鈍器”になおしてほしい-。凄艶なる美女が持ち込んだ奇妙な依頼、それは心霊治療師・丸尾遊介をふたたび闇の世界へと誘った。眠ったまま淫夢を見続け、近づく男達全てに、快楽の思念を放出する美少女、それが今回の患者だった。遊介の両手が、怒りの刃と化す時がまたやってきた。
「私の恋人は殺人鬼なの?」子を身篭った女子大生真山なつきの婚約者中道洋一は女性の眼に凶刃を突き立てる連続殺人の幕開けとともに姿を消した。三十年前に全く同じ手口で街を戦慄させた当時の殺人鬼は洋一の実父だった。警察も消えた洋一を追う。なつきは意を決して殺人鬼の囮に。現れる犯人は何者か。
忠敬は下総佐原村の婿養子先、伊能家の財をふやし50歳で隠居。念願の天文学を学び、1800年56歳から16年、糞もよけない“二歩で一間”の歩みで日本を歩き尽し、実測の日本地図を完成させた。この間の歩数、4千万歩…。定年後なお充実した人生を生きた忠敬の愚直な一歩一歩を描く歴史大作。
友と学園に別れを告げ、日本を脱出した大学生タケミ。秋の収穫期を迎えたイングランドの農村のファーム・キャンプで働く中で、さまざまな国籍の季節労働者と親しくなり、インドネシア育ちの中国人女性と愛を育てていく。祖国喪失の放浪者の厳しい身の上、人と国家のせつない現実を描く、青春国際ロマン。
学問の家の神童若江薫子は、紅白粉には見向きもしない学者に育ち、攘夷派の浪士たちと悲憤慷慨、新政府に建白書攻勢をかける。時代に逆行する情熱家は危険人物として幽閉され、晩年は失意のうちに放浪したが、その醜貌の下には、女ほんらいの、暖い心が隠されていた。幕末の女志士を描く傑作他8編を収録。
桂子はニューヨークで1人暮らす日本女性。彼女の生活のすべてを知る者はいない。優しいそよ風のような魅力を持つ桂子と、都会の喧噪や人生に疲れた男たちが出会う時、それぞれのラブ・ストーリーが生まれる。ニューヨークを知り尽くした著者がニューヨークを舞台に描くちょっぴり不思議で洒落た恋愛模様。
南町奉行根岸肥前守の懐刀隼新八郎、神道無念流の名手で頭脳明晰、心やさしい好青年だが恋には晩生。あからさまに出来ない犯罪を、密かに探る内与力の役についている。折しも、淀橋と成子坂で2つの殺人事件が発生、さらに、雑司ヶ谷鬼子母神での惨劇に拡大する…。斬新な江戸ミステリー、待望の文庫化。
江戸期、長州七代目藩主となった毛利重就は、藩財政の巨大な赤字に驚く。そして陰棲していた、かつての能吏、坂時存を起用、財政建て直しを命じる。坂時存が、奇矯にも萩城内の廊下に机を据えて事務室を設置、考え出した大胆かつ卓抜な経済計画とは何だったか?特異な時代の人間像を描いた秀作集。
1969年7月、ケネディ家末弟で上院議員のエドワード・ケネディは若い女性秘書を乗せてドライブに出た-。数時間後、クルマは橋から転落、ケネディだけが脱出し、女は水死した。警察への連絡は9時間後。いったい何が起きたのか?“ケネディ家第3の悲劇”を小説化。
西暦2861年、ここは惑星フォードー。場末に事務所を構える私立探偵“MARIA”の美女3人組。暇をもてあます彼女たちの前にひさびさのお客、謎めいた女性ムヒカが現れる。盗まれた懐中時計を捜すという簡単な仕事のわりには、多額の礼金を支払うという。何か裏があるのでは、と疑いながらも、3人はこの儲け話にとびつく。だが案の定、事件には宇宙を破壊するほどの恐ろしいエネルギーがからんでいた。宇宙連合警察も介入し、惑星間を飛び回る激しい戦闘が繰り広げられる…。
豪商ガストーネ家の後継ぎレオナールは、ある夜の宴で高名なジプシーの女占い師ミュカレから思わぬ言葉を告げられる。『世界を左右する運命の持ち主』だと。すなわち、太陽が死ぬ…。熱を失い二度と天に昇らない。それを食い止めるためには、レオナールと二つの宝“双頭の蛇の剣”“太陽の涙”が必要なのだ。この変事に関わるミュカレの弟子アローラとリュート弾きのアデスはレオナールに選択を迫る。半信半疑ながらレオナールは退廃した貴族社会を捨て、宝を求めジプシー達と共に旅立つ。
兄・朱雀院のたっての願いで光源氏の許へ女三の宮が降嫁してから理想的に見えた六条院に波風が立ちはじめる。年よりも万事に幼い宮に、源氏は困惑し、改めて紫上の素晴らしさを知る。内大臣の息子柏木は以前からの恋心が募りとうとう女三の宮と密通してしまう。源氏はその事実を知り苦悩するが、柏木は罪の意識から病に倒れ、死を迎える。やがて源氏の愛を一身に集めた紫上も惜しまれ世を去った。
53歳の男との安らぎある関係に満たされながらも、19歳の青年に心ひかれていく省子。二人の男を隔てる歳月の切なさに揺れる少女のような想いを描く表題作「かそけき音の」。見合いを薦めながら週の半分は部屋にやって来る独身主義者の男を保護者のように受け入れてしまう亜由子、「合鍵」。はぐれ、寄り添い、憎みあう男と女の、どこかあやうくて微妙な8つのラブストーリー。
放蕩無頼の夫に虐げられ、苦難の道を歩み続けた千代は、突然、激しい殺意につき動かされたー。明治維新前の緊迫した世相を背景に、薄幸の美女の生と死を哀切に描いた表題作をはじめ、板垣退介襲撃事件の犯人の動機に迫る「刺客心中」など、幕末、明治を舞台に展開する短篇6篇。