1992年12月発売
溌刺と欲望のおもむくままに生きてきたウサギも、すでに中年。胴回りの太さが気になりだし、鏡を覗くこともついぞなくなった。だが、ウサギは今や金持なのだ。『帰ってきたウサギ』では、ウサギはライノタイプの印刷工として働いていたが、その業種が不振になった時期に、うまい具合に義父が死んでくれ、義父の自動車販売業を受け継ぎ、ちゃっかりそこの経営者におさまってしまう。自動車業界は、第一次石油危機に見舞われ、燃費の悪い大きなアメリカ車が敬遠され、日本の車が順調な売れ行きを示している。ウサギは金持なのだ。
ある日、ケント大学に通っている息子のネルソンが、女友達メラニーを連れて家に帰ってくる。彼女を家に泊めるかどうかで一悶着が起こる。古い世代のウサギには、二人の関係がうまく理解できない。やがて、ネルソンの子を身ごもったプルーという女性が出現する。ウサギも結婚以前に妻のジャニスを妊娠させた過去を持つ。ネルソンは親の通った道を確実にたどりつつある。ウサギは完全に枯れきってはいないが、行動よりイマジネーションの世界に生きることが多くなり、死への予感をおぼろげに感じだす年代になったのだ…。
境界線上のことば、溶解する意識-。30年代NY伝説のギャング、ダッチ・シュルツことアーサー・フレゲンハイマーの最期のことばを元に書き下ろしたバロウズの「映画シナリオ形式の小説」。
胸に赤いAの文字を付け、罪の子を抱いて処刑のさらし台に立つ女。告白と悔悛を説く青年牧師の苦悩…。厳格な規律に縛られた17世紀ボストンの清教徒社会に起こった姦通事件を題材として人間心理の陰翳に鋭いメスを入れながら、自由とは、罪とは何かを追求した傑作。有名な序文「税関」を加え、待望の新訳で送る完全版。
1960年代後半から90年にかけて、〈知〉が沸騰した時代を背景に、バルト、フーコー、デリダ、ラカン、アルチュセール、レヴィ=ストロース、ソレルスなど、現代思想の冒険者たちの強烈な生と死、さらに、多重的にくりひろげられる官能的な物語を描いた華麗な自伝的回想。
上杉謙信が打倒信長に起った。安土を追われた信長は、天下にふたたび覇を唱えるため、南蛮技術を結集して巨大海上要塞を建造、謙信への逆襲に燃える。京都を押さえた謙信、その謙信の意を受ける忍者の暗躍。淡路島のヨーロッパ式城塞を根城とする信長と、彼を狙う暗殺者との息詰まるサスペンス。真の戦国の覇者となるべく両雄の激突が始まった。上杉謙信が死なずに上洛したら…?異色新鋭、東郷隆が壮大な歴史ifに挑戦。前作『信長の野望覇王の海上要塞』につづく歴史if長編第2弾。
引き抜かれたカカシのあとに生えた草の葉っぱ、雲母のようにキラキラする竜のウロコ、字の書かれた小さな石ころーそんな奇妙なものばかりがあるというどんぐり民話館。そのどんぐり民話館を探しに、都会から一人の青年がやってきたが…。いつまでも語りつがれる民話のような味わいで、さまざまな人生の喜怒哀楽を描いた31編。ショートショート1001編を達成した記念の作品集。
元禄四年の早春、天下の副将軍水戸黄門とお供の渥美格之進、佐々木助三郎の三人旅は、奥州路へと向かっていた。-おなじみ水戸黄門漫遊記を描く長編快作。奥州宇多郡中村六万石相馬大膳之亮の城下から、伊達領の一万八千石安房守宗良の領内へと老公の旅は続いていく。各地で老公の裁きによって事件は解決する。一ノ関への山中で三万石一ノ関田村右京太夫の家来脇田新三郎と出会い、真影一刀流牧主水之助の娘お梅との伯もとりもってやった。庄内村で出会った百姓吉右衛門の話から、酒井家の重臣田川新五左衛門の悪事をも老公はみごとに裁いてやった。奥州路の旅から江戸へ戻った三人旅は、次には東海道を京へ上ることになった。老公を待つ次なる事件とは…。