1993年10月発売
平凡な経理マンとして働いている加藤一郎の夢の中に、いつごろからか、血まみれの手をした男が現われ、彼の名を呼ぶようになった。そしてある朝、通勤の地下鉄の中で加藤は、血まみれの手の男を見つけ、夢の中の男が現実へ侵入してきたことを知る…。平和な生活が破壊されてゆく男の戦慄を描いた表題作ほか、日常に潜む恐怖を扱った四篇を収録。
夜勤明けに病院に呼び出された非常勤外科医の花衣都。どうやら同僚の北斗医師が、入院患者と何かモメているらしい。その患者というのは、なんと今をときめく人気アイドル歌手の結城翔だった。彼は仕事のために手術はできない、とガンとして北斗たちの言葉を受けつけない。お目付け役として、花衣都は翔の面倒を見ることになるが…。二人をめぐる、さわやかラブ・コメディ。
捉えどころのない管理と支配の触手にみちた「現在」を生きる若者の矛盾と混乱を、クラシック音楽形式の実験的手法で描いた野間文芸新人賞受賞作ほか「スピカ、千の仮面」を収録。
対潜哨戒機P3Cに乗る草野は哨戒飛行中に、ロシア船籍の貨物船に対する不審感を覚えた。同じ頃、新潟沖で自然のものとは思われない地震が発生、韓国では日本のテレビ局のソウル支局長が逮捕されるという事件が起きていた。個別の事件の隠された結びつきは驚愕の計画を示していた。日本は戦場となるのか。
やおい-やまなし、おちなし、いみなしの略だといわれる。少年と少年との耽美な物語、あるいはそれを愛する少女たちのことをいう。そんな少女の一人が自ら死を選んだ。その死は、少年の失踪と誘拐事件を引き起こし、元警察官阿南を若者たちの内面へと導くことになった。気鋭が挑む新感覚のハードボイルド。
K氏という小説家を主人公とする小説を、ひとりの小説家が書こうとする。その過程で起きる不思議なできごと、秘かに郵便物にまぎれこんできた小さな落葉、深夜に誰かからFAXで送られてくる小説、駅からずっと同じ道を歩きつづける印象的な女-。巧みなタッチで日常と非日常のはざまを戯れる、奇妙な味わいの連作短篇集。
東京・新宿のネオン街で起った夜の女殺しに続いて、旅客機爆発墜落事件が発生…。捜査線上に浮かんだ、数年前の自殺事件。一見何の関係もないかに見えるこの二本の糸を、刑事の常道、運・根・勘と最先端の科学捜査力で解決に挑む、本格推理長編。
浮気願望の人妻、コンドームを持ち歩く女子高生、AVマニアの若き未亡人、オフィスラブに燃えるOL…。更なる快楽を求めて大胆に行動する女たちを鮮やかに描き出す最新官能ロマン集。
かねて念願の劉備陣営に加わった趙雲は劉備の信頼も厚く、つかのまの平安な日々を送っていた。しかし、劉備が身を寄せていた荊州の刺史・劉表の死につけこみ、荊州を狙う曹操の大軍が襲ってきた。その猛攻に劉表の後継者・劉〓@59DDは曹操に下り、劉備陣営は窮地に陥る。そして、軍師・諸葛亮の指示により人民をつれての逃避行がはじまった。混乱の中、趙雲は幼主・阿斗を見失ってしまう。阿斗は糜夫人に抱かれて敵中を逃げまどっているというのだ。ついに趙雲はたったひとりで曹操率いる大軍の中へ躍りこんでいった。自分の腕だけを信じて…。三国志一の名場面「長坂坡単騎駈け」を新しい視点で描く異色作。1800年の時をこえて、英雄・趙雲が今、よみがえる。「放浪の子竜・趙雲」の続編、ここに登場。
同心・田上玄之介は、廓の放火の犯人捜しの最中、遊女殺しの罪を着せられた。事件に裏を感じた玄之介の手先・刃研の七こと通称・犬七。彼は女犯に脅しときわめつけの無頼者だが、世上に疎い玄之介の手先を買ってでては、身内の悪にも牙が剥けられる一匹同心への自覚を促す。そんな犬七が嗅ぎつけた材木商・菱喜と先任同心・加茂精三郎への疑惑。
鏑木兵庫と松代鬼平は共に刀を下げたまま対峙していた。人斬りの現場を見られた松代が兵庫に挑んだのだ。だが腕が違った。詫びた松代との話の中で、互いに犬同心を斬っていたことを知る。『生類憐みの令』を嵩にきて、庶民にたかる犬同心への天誅は当然なのだ。人を斬るより犬を殺した方の詮議が厳しいという狂気の沙汰に、男たちの怒りは、やがて犬を狩り犬同心を狩る必殺剣となって…。
北海道北浦市の市長春田が東京で、次いで、その政敵早川議員が地元で、それぞれ死体で発見された。地域開発計画を契機に、それぞれの愛憎が北海道・東京間を行き交う。鮮やかなトリックを駆使した長編推理小説。
学生時代からの友人潤木と吉沢は、千葉・外房で奇妙な円筒形の建物を発見し、釣人を装い調査を始めたが……表題作のほか、不朽の名作「ゆきどまりの女」を含む全六編を収録。短編ハードボイルドの金字塔。
テディベアの性格は、作られた時の顔つきで、すっかり決まってしまいます。これは、目の位置がほんのちょっぴりずれてしまったばかりに、思いあがった性格になってしまった、クマくんの波乱にみちた物語ー。せつなくも、どこか途方もない明るさをたたえた佳作です。
時間の変幻と永遠相の虹のプリズムを通して綾なすさまを、旧知との交遊のはざまに見出して詩的に定着した『海にゆらぐ糸』連作(川端賞受賞)と、ひとのいのちの収斂するときをいとおしんで描く短篇一作と放送劇とを収録。
創業者は、なぜ消えていくのか。果てしない競争の現実の中で、ダイエー中内のめざすものは。ある日、突然に株式買い占めの急襲をうけた上場企業の運命と、衝撃の中で苦悩する創業者の実像に迫る。
シュタイナー教育の代表者として世界的に知られる著者が、アジアのメルヘンとグリム童話を具体的にとりあげながら、そこに秘められた人間の成長と人類の歴史をめぐる深い叡智の意味を説き明かす日本での連続講演集。