1993年4月発売
美女伏姫の体から飛びちった八つの霊玉。その化身、智勇兼備の犬塚信乃、化け猫退治の犬飼現八ら八人の犬士。行く手をはばむ希代の悪人、毒婦たち-。滝沢馬琴の原作を時代小説の名手が平明な現代語によみがえらせた見事な絵草紙。総挿画五十一葉入。
妻を殺そう。そう思いたってからというもの、ヘンリーの頭の中は、太った醜悪な妻をどうやったら始末できるかということで、いっぱいだった。絞め殺す。崖からつきおとす?それとも、自動車に細工して事故に見せかける。いや、毒殺がいい。毒殺こそ、わが大英帝国の伝統と誇りにつちかわれてきた、秘めやかで美的な殺人方法だ。これでいくしかない。手段が決まると、ヘンリーはさっそく下調べをはじめ、タリウムという無味無臭の毒薬があるのを知った。これを料理にふりかければ、健康食品しか食べない妻のエリナーも、なんの疑いももたずに口にするだろう。だが、ヘンリーの細やかな気配りと努力にもかかわらず、妻はそう簡単に毒殺させてはくれなかった。のどかな郊外住宅地を舞台に、さえない中年男が妻をこの世から抹殺すべく、あの手この手の大奮闘をくりひろげる、ブラック・ユーモアたっぷりの英国ミステリ。
同日の同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。雑誌記者の浅川は姪の死に不審を抱き調査を始めた。-そしていま、浅川は一本のビデオテープを手にしている。少年たちは、これを見た一週間後に死亡している。浅川は、震える手でビデオをデッキに送り込む。期待と恐怖に顔を歪めながら。画面に光が入る。静かにビデオが始まった…。恐怖とともに、未知なる世界へと導くホラー小説の金字塔。
夏の闇をついて一件のレイプ事件が発生した。現場は、地元民がほとんど足を踏みいれることのないユダヤ人コミュニティ。厳格な戒律に従って敬虔な毎日を送っていたはずの彼らが、なぜこのような事件を引き起こしたのか?立ちはだかる宗教の壁を前に、未成年犯罪担当のデッカーは困難な捜査を強いられるが…。マカヴィティ賞最優秀処女長編賞に輝く、スリリングなデビュー作。
「刻苦勉励、切磋琢磨、率先垂範」がモットーの典型的な日本企業、吉平重機では「わが社本位主義」の軋みから「社内犯罪」が頻発していた。自らの出世の妨げとなる危機的局面において、骨の髄まで企業論理に染まった管理職たちは、いかに機略を巡らし危機を回避するのか?いかにもありそな彼らの滑稽な奮闘振りを、ミステリーの薬味をきかせて描く痛快カイシャイン小説。
北海道の骨壺温泉、宮城県の死急温泉、名古屋の繁華街にある恥曝温泉など、絶対に行けない、行くことのできない本当の秘湯だけをガイドした表題作「秘湯中の秘湯」。あきれるほど何も知らない女子大生の無知を笑う「非常識テスト」。他に何回読んでもさっぱりわからない機械の取扱説明書や、うんざりするほど詳しくて長い手紙など、身近な言葉の面白さに注目した爆笑小説全11編。
ジュディスは著名な歴史小説家。美貌に恵まれ、次期英首相候補の婚約者でもある。王政復古を題材にした新作の取材で、ロンドンに滞在中だ。実は彼女には、もつ一つ、自分の出生を確かめるという目的があった。精神科医パテール博士が投与した薬によって、幼時に戻ることに成功した彼女の心は、さらにさらに時を遡って…。著者には珍しい人格転移を扱った表題作ほか、4編を収録。
公爵家の最後の血 兄の孫アリョーシャを西側に脱出させようと、1987年83歳の公爵夫人ターニャは68年ぶりにロシヤの地を踏んだー。ロシヤ革命後の1919年1月、アダレーフスキー公爵家の人々はパリ亡命を決行。15歳のターニャ(彼女のブーツの底に公爵家の宝石が隠された)と兄ペーチャ以外は全員暴行され殺された。ソ連のアフガニスタン侵攻を背景にターニャの賭と甥孫の逃亡を描く。
慶長十八年五月。伊達政宗の軍事力をバックに、豊臣方に反旗を翻した下総佐倉城主・松平忠輝(家康六男)は、猪鼻城後詰めに一万二千の軍を送った。手薄になった佐倉城は、宮本軍に属する猿飛佐助、霧隠才蔵の働きで落城。武蔵は西上をはじめた政宗を討ちとるが、それは影武者だった。泰然自若と猪鼻城に拠る忠輝。後手に回った宮本・真田幸村連合軍は、猪鼻城の強固な出城、堅牢な砦を攻めきれず苦戦を強いられる。さらに江戸湾には伊達水軍が…。
17歳の女子高生が自宅で保健所の医師と名のる男にインフルエンザの予防注射を打たれたあと、その男の車で連れ去られた。客の急訴にハマの県警本部は色めきたつ。誘拐か。が、1日たち2日たっても犯人側からは何の要求もない。不気味だ。4日目、ついに公開捜査に。折も折、シティホテルの支配人から「強盗傷害で指名手配中の男が女連れで宿泊している」と。待機中の特捜星班が出動し包囲作戦をとったが、男はなんと…。-臨場感あふれる著者渾身の警察小説。
プロ棋士・真城寺欽弥は金沢支部の大会出席後、新聞記者・苗場とカメラマンの瀬能を誘って越前岬の老舗旅館に冬の名物カニを食べに寄る。その夜、真城寺を訪ねて、おでん屋の女将・睦美がやってくる。睦美を一目見て、瀬能は以前見た覚えがあると洩らす。翌日、気になることを調べたいという瀬能を残して真城寺と苗場は東京へ帰る。だが、二日後、瀬能が小松のホテルで殺されたとの報が入る。事件後、睦美もプッツリ姿を消す…。冬の北陸を舞台に描く書き下ろし旅情ミステリー。
新興宗教団体「闇の光」の狂信者立花冽子は兄弟と共謀し内縁の夫を“悪魔祓い”儀式の生贄にする。逮捕された彼女らは長期懲役の判決を受ける。しかし、それを不服とする三人は護送車から脱走、琵琶湖の遊覧船ミシガン号を乗っ取って、船上での“やりなおし裁判”を要求する。応じなければ五分間に一人ずつ乗客を射殺するという脅迫に、赤かぶ検事は決死の覚悟を決めるが…。