1993年8月発売
休暇でしばし仕事を忘れていたモース主任警部は、〈タイムズ〉紙の見出しに思わず目を奪われた。記事によると、迷宮入りした一年前の失踪事件を解く鍵となりそうな詩が匿名で警察に送られてきたというのだ。モースは去年の夏に起きたその事件を憶えていた。休暇でイギリスを旅行していたスウェーデン娘が、ヒッチハイクでオックスフォードまできたあと、ぷっつりと消息を絶ったのである。詩が暗示するように、娘は森の中にいるのか?だとすると、すでに死体となって森の奥深くに埋められているということなのか?一篇の詩から万華鏡のごとく華麗な推理がつぎつぎ展開される、英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー受賞作。
テレビ・コマーシャルは、たしかに効き目があった。暇をもてあましていた私立探偵アルバート・サムスンのもとに、依頼の電話が急にひっきりなしにかかってくるようになったのだ。しかし、そういいことばかりはつづかなかった。警察が血眼で追っているテロリスト・グループからも、仕事を依頼されたのである。環境保護を訴えるこのグループは、爆発しないようにセットした爆弾を公共の場に仕掛け、それを自ら警察に通報するという手口で、マスコミの注目をあつめていた。ところが、仕掛けた爆弾のひとつが何者かに盗まれてしまったという。死傷者がでるまえに爆弾を回収してほしいと依頼されたサムスンは、警察に届けるよう勧めるわけにもいかず、仕方なく調査をひきうけた。やがて警察の追及の手はサムスンにまで…。追いつめられたサムスンが男の意地をみせる話題作。
永遠の生命を持つ美しき魔女クンドリーは、世界制覇の野望を抱く魔法使いクリンゾールに仕えていた。今度の使命は、聖杯の守護者アムフォルタス王を篭絡し魔力の源である聖杯を手に入れることだった。だが、あろうことかクンドリーはアムフォルタスを愛してしまった。愛を貫くためにクリンゾールに逆らおうとするクンドリーを待ち受けていた運命は。ワーグナーのオペラ『パルジファル』に材を取った歴史ファンタジイ。
ぼくが命を狙われはじめたのは、あの夜の記憶を取り戻してからだった。三十年前、空襲激しいベルリンで、ぼくは母が殺される現場を目撃していたのだ。が、犯人の顔がどうしても思い出せない。命を狙われるのは、あの夜の出来事が原因なのか?精神分析医の催眠療法で十歳の自分に戻ったぼくは、悪夢の渦巻く記憶の中へと踏み出すー。異色の心理サスペンス。
チターを弾く大みみず、仔牛の肺臓製のレールの上をすべる奴隷の彫像、人とり遊びをする猫…。熱帯アフリカを舞台に繰広げられる奇想の数々。これは真の神話であるとともに、大胆で徹底した言語実験の輝かしい成果でもある。ブルトンが現代における最も偉大な催眠術師と呼んだルーセルの代表作。
ローマ帝国を未曽有の繁栄に導いた哲人皇帝の崇高なデカダンス。真の享楽主義として濶達に生きた皇帝の瞑想的な魂の遍歴。美青年アンティノウスへの溺愛。皇帝みずから語る歴史論・文明論であり、詩であり、人生論である。澄んだ意識のフィルターを通したひとつの人生と帝国の歴史。
茶川市は清水と焼津の中間にある人口五万の中都市である。真矢裕司は茶川署刑事課強行犯係の刑事だが、強盗殺人放火の凶悪事件の発生を報らせる電話でたたき起こされた。被害者は有名絵画の収集家夫婦で、金庫からは三百万円が紛失していた。犯罪の世界にもある種の波動があるのか、月齢によって発生数が増加するという。頭痛止めの睡眠薬をのんで疲れた体に熱いシャワーを浴びて、柔道三段、剣道二段の肉体を整えて現場に直行した。酸鼻な死体を前にして、真矢は不吉な予感にさいなまれる…。狂気の犯罪深層を暴く衝撃作。
2DKの「ぼく」のアパートにアキラとよう子と島田が住みついて、それぞれがふらりと出かけては帰ってくる4人の共同生活ははじまった-。猫たちのくらしにも似たとりとめのない日常をトレースし、新しい世代のしなやかな感受性を浮かびあがらせた青春小説のイノベーション。
父こそいないが、母や弟妹がいる。保護してくれる伯父がいる。親友もガールフレンドもいる。修平にはなんの不満もないはずだ。でも、修平はなぜか落ちつかない-。不安とときめき、修平16歳。大人への入口に佇つ。
「この人と一緒にいたい」京都随一の美妓・幾松が見初めたのは維新の志士・桂小五郎の颯爽たる姿だった。幕末の嵐を共に乗り越え、桂は新政府の参議・木戸孝允となり、幾松はその妻・松子となるが、結婚を境に二人の愛は姿を変える。国事に忙殺され次第に消耗する木戸。苛立ちと愛の渇きを、若い役者との「遊び」で紛らわす松子。動乱期の女性の生きざまと愛の軌跡を綴る傑作時代小説。
「敵を打ち倒すために大事なことは、武略・計略・調略。それ以外のなにものも不要じゃ」-。元就の卓越した知将としての策略は忍びの者を遣った情報戦、敵の裏をかく合戦陣形、謀略を駆使した政治にあらわれた。下剋上の戦国期に小豪族から身を興し、宿敵陶氏、大友氏、尼子氏らとの激闘の彼方に西国平定の野望を見据えた稀代の猛将毛利元就を描いて、その意外な素顔に迫った長編小説。
山深い過疎の村に、時空を超えて現れた少年と犬。それが騒動の発端だった。山の自然を破壊し村を水没させるダムの建設をめぐって、奇妙な殺人事件が続く。村に住む老人、東京からやってきた若い新聞記者、二人を結ぶ運命の時間流とは-。SFタッチで描くニュー・サスペンス。
早春の小田原城祉公園で美女の刺殺体が発見された。遺留品を手がかりにたどり着いた岩手県の久慈で女の身元を掴んだルポライター浦上伸介の元に、女の母親が同一手口で殺害されたとの報せが入る。しかし、近親者の証言から浮かんだ二つの殺人の容疑者には、強固なアリバイが…。