1994年2月発売
歴代総理の中曽根康弘、宮沢喜一。田中角栄を退陣に追い込んだ共産党の松本善明。元社民連の江田五月など、東大法学部に学んだ人物の歩んだ道を辿り、超エリート養成機関の実像を描き出す。日本の政財界の中枢を担う人物たちがどのように東大法学部を目指し、人脈を作り上げていったのか。綿密な取材と豊富なエピソードで読ませる実録ノベル。
ストーリーにも中絶がある。重なる迂回、いいまちがえに開きなおり、作者も予期せぬ突然の夭折。それでもわれらは物語の海を帆走し続ける、伝説の海のあの怪物とともに。楽しいしかけが盛りだくさん。巨匠バースのメタ・ロマンス。
もしかしたらぼくは心のどこかでこういう悲劇的な出来事を望んでいたのかもしれないー。絶大な〈力〉に対する少年の畏怖と屈辱を描いた『16の夏』のほか、それぞれの性のかたちを斬新な感性で切りとった3編を収める。
少年時代から自分を天才と信じた島田清次郎が、弱冠20歳で世に問うた長編小説『地上』は記録破りの売行きを示し、彼は天才作家ともてはやされ、いちやく文壇の流行児となった。しかし、身を処する道を誤まり、またたく間に人気を失い、没落した。本書は、島田清次郎の狂気にも似た足跡を克明にたどり、没落のよってきたるところを究めようとした、直木賞受賞の傑作伝記小説。
新宿の街を友達の貴子と高校の制服姿で歩いていたいずみは、和服のモデルにスカウトされる。翌日、カメラマンのオフィスを訪れると、着物メーカーの宣伝部長に、着替えを急がされた。いつの間にかカメラマンは消えている。二人きりになった部屋で、男はいずみを抱き寄せると、晴れ着のままでのセックスを迫ってきた。奔放な性と打算に錯綜する女子高生の心理。
30歳を期に脱サラした加賀が設立した結婚披露宴を撮影するビデオ会社は、いまや順風満帆。その余勢を駆って売出したAVまでもが大ヒットし、女優へのステップにしようと、フーゾク嬢、女子大生…etcが黙っていてもやってくる。厳しい審査は社長の務め、とばかり、加賀は彼女らをボディチェック。その甲斐あって会社もビンビン伸びて、野望はますます拡大。
十三年ぶりにシャバに戻ったがちがちヤクザと、単身クーデターを起こし自殺未遂の元自衛官。そして収賄で挫折したエリート官僚。価値観も常識もまるでバラバラなこの三人が、何の因果かトリオを組んで世の中の悪党を懲らしめることになったから、さあ大変。何が悪で何が善なのか。根はやさしい男たちが織りなす爆笑感涙の世界。
響子は夜久村の山野を母胎に生まれ出て、自然児として育ち、人間本来の衝動のままに男と交わり、自然と感応して輝いている。子を生んでも結婚はせず、世間の常識や村の掟からはなれて自由に生きる響子は、その凶まがしさを力に心々の心をとらえ、事件をひき起こしては夜久村を揺り動かす-。性愛にも血縁にも縛られず奔放に生きた響子は、死によって生まれない以前の世界「不生」に至り、物語はその娘・風子を介して、「微笑」の世界へと回帰していく…。自然・エロス・生命、待望の四部作完結篇。
セントラル・パークで日本人観光客相手に物乞いをする男は、私の夫だった人なのか…。戦後沖縄に駐留したアメリカ兵と結婚したカナ。出ていったまま帰らない夫の消息を三十年後に聞かされた彼女は、自分自身思いもかけない衝動に突き動かされ、ニューヨークに出かける。沖縄の基地のある町の盛衰を背景に描く悲喜こもごもの人生。短編小説集。
「あつ子、すまなかった、探し出すのが遅過ぎた」-陸一心こと松本勝男は、三十六年ぶりにめぐりあった妹・あつ子に泣いて詫びた。妹は張玉花と名のり、寒村で過労の果てに病いの床にあった。兄妹の実父・松本耕次は、子供らの消息をつかみえぬまま、奇しくも陸一心とともに日中合作の「宝華製鉄」建設に参加していた。
「宝華、万歳!」「初出銑、万歳!」万雷の拍手と大歓声が湧き起った。七年がかりで完成した日中共同の大プロジェクト「宝華製鉄」の高炉に火が入ったのだ。この瞬間、日中双方にわだかまっていた不信感と憎悪が消え去った。陸一心の胸には、養父・陸徳志の、「お前、いっそのこと日本へー」という言葉が去来する。
人を愛した記憶はゴミのようには捨てられない。黒人の男「リック」を愛した「ココ」。愛が真実だったとしたら、なぜ二人は傷つき別れなければならなかったのか。男、女、ゲイ、黒人、白人ー、ニューヨークに住むさまざまな人々の織りなす愛憎の形を、言葉を尽くして描く著者渾身の長篇。女流文学賞受賞。
非合法のプロ集団が、「噂」を使って暗躍するピカレスク・ロマン。選挙を策謀し、巨大企業を告発する「噂」。トレーラーで移動しつつ、「噂」を流していく無国籍の集団が、日本に存在する。現代の断面を鮮やかに切る中篇小説集。