1994年5月25日発売
夏の日、沼のほとりで消えてしまった姉。黒人リーグの伝説的大打者の打った白球。すべてはどこへ行ってしまったのだろう。吉目木晴彦のみずみずしい抒情と感性が鮮やかに伝わる待望の長篇小説。
再会-黒く塗り潰された電話のメモ。再会した同級生の中に、妻を死の淵へ追いやった者がいる。漏水-新築したばかりの家を訪れた怪しげな男。漏水調査係と名乗るが、男には別の目的が…。タンデム-ライダーの命を奪い、男女の仲を引き裂いた一本のワイヤーロープ。暴走族グループの犯行か。私に向かない職業-ナイフで刺された男を見て、私は立ち尽した。組事務所の屋上を訪れたしがない探偵のとる道は。秀作ミステリー5編。
《ゆるぎなき心》とは、1984年10月8日、ヴェネツィアにおいて結成された秘密結社の名。その目的は幸福の追求…流れる音楽はモーツァルト…メンバーは作家Sをふくむ男性2人、女性3人。冬のパリ、春のヴェネツィア、夏のレ島を経て秋のパリへ、Sなる作家の一年がめぐる。Sはメンバーの女性たちと快楽を追求しつつ、ただ瞬間だけの愛を生きた過去の女たちの記録『赤い手帳』を読む。一方で、ダンテ『神曲』映画化のシナリオ執筆をひきうけているSと、アメリカのプロデューサーとその代理人、日本人女性らとの交渉がはじまる…。文学の21世紀を先取りする小説。
私が幼い頃、母(輝子)はなぜか家を出ていた。強烈な個性を発散する父(斎藤茂吉)との生活のなかで、母と過ごした海辺の夏は黄金の刻だった。やがて、戦争、疎開、戦後の混乱と茂吉の死…。生涯、自分流の生き方を貫き、後年は世界を飛び歩いて“痛快ばあちゃま”と呼ばれた母と家族を、回想と追憶のなかに抒情的かつユーモラスに描く自伝的小説。
中二階のオフィスにエスカレーターで戻る途中のサラリーマンがめぐらした超ミクロ的考察。靴紐が左右ほぼ同時期に切れるのはなぜか、牛乳の容器が瓶からカートンに変わったときの素敵な衝撃、ミシン目を発明した人間への熱狂的賛辞等々、『もしもし』の著者が贈る、あっと驚く面白小説。
ズラータはサラエボ生まれの11歳の少女。少女は日記をつけており、日記のなかで自分の日常生活を自分のことばでつづっている。ところが旧ユーゴスラビアで内戦が勃発し、少女の日記にも戦争のことが記されるようになる。恐怖、怒り、嘆き…ズラータの平和な世界は崩壊する。爆撃や狙撃によって多くの死傷者が出、水も電気も食糧もなくなる。ズラータは無理やりうばわれてしまった自分の少女時代に涙を流すが、それでも日記を書きつづけ、戦禍の目撃者でありつづける。彼女がたびたび思いをはせるあのアンネ・フランクのように。