1994年7月発売
著者は知人の家で池の中にかきつばたの狂い咲きを見た。が、見たものはそれだけではなかった。水面には女の死体が浮いていたのだー終戦時の混乱を描いて鬼気迫る「かきつばた」。早稲田の貧乏学生の著者は田舎の兄に送るつもりだった無心状を、あろうことかレポートと取り違えて敬愛する師・吉田絃二郎に提出してしまったーほのぼのと心なごむ青春回想記「無心状」。名品全15編。
海の下の、奥の奥で眠っている神の夢。大地をうごめき、すべてを食い尽くす不快なブガン。アステカの怪しげな薬草に酔って義経がみる昔日の幻。満月の夜にとらえた人魚を食べてしまった男たちのゆくえー。天地の創造、人類の誕生など語りつがれてきた物語が、いま奇抜な着想で生れかわる。あなたを空想の小宇宙へ誘う、幻想的で奇妙な味わいの52編のワンダーランド。
幕府直轄、長崎貿易会所の多額の赤字は薩摩の手による抜け荷が原因なのか。香取神刀流の達人、神楽八郎太、兵馬は公儀隠密として長崎に潜入した。薩摩の不審な帆船を追って山陰、北陸、松前と探査は進む。執拗に襲いかかる謎の暗殺剣。やがて、薩摩の陰に潜む強大な策謀を掴むのだが。幕末の日本海を舞台に伝奇、冒険、推理と小説の醍醐味をふんだんに盛り込んだ時代小説の決定版。
「教祖来る。神と出会う集会開催」手渡された一枚のチラシ。そして、目前で実演される感動的な奇跡。うぶな和夫は、インチキを信じ教団職員となるが、そこに宗教はなかった。初代教祖が亡くなると、実権を握る総務主管・司馬は、二代目教祖に和夫を抜擢した。彼は教祖の聖性を否定し、自らの力で完璧な唯一神を創造しようとしていた。「現代の教祖」が、神への試練に挑んだ長編小説。
日露戦争のさなか、欧州にあって背後から帝政ロシアを崩壊させるべく暗躍した日本人がいた。陸軍大佐明石元二郎は、フィンランドの独立を夢見る革命家コンニ・シリアクスと共に策動してロシア革命の火付け役となった。諜報活動に於いて常に後れをとってきた日本では希有の、大物スパイの実像に迫る。歴史を動かした男たちが、全欧州を舞台に繰り広げるスリルに満ちた情報工作記。
英国情報機関内にどうやら「もぐら=二重スパイ」がいるらしい。情報工作本部長サミュエル・ベルは、自らの部下の内偵という屈辱的作業を強いられ、組織内での孤独感を深めてゆく。窮余の一策としてベルは部下の信頼度を試す「秘密指令」を作成。指令の遂行過程に組み込んだ巧妙なプログラムは、見事スパイを突き止めたかに思えたが…。連作短編に挑んだフリーマントルの異色作。
失明によって鋭敏になった独特の聴覚を頼りに、誘拐された姪を救出した元音響技師ハーレック。事件から一年が経ち、平穏な生活を取戻しつつあった彼の元に、衝撃的なニュースが入った。服役中の誘拐犯スタークが脱獄したのだ。復讐に燃える男は殺人機械と化して、刻一刻と迫ってくる。悲劇は再び繰り返されるのか。斬新なアイディアで好評を博した『音の手がかり』の続編。
シェイクスピアが、原始人が、ローマ兵士が。天国も地獄も定員過剰になり、死人がおれたちの世界にあふれてきた。いま、やつらに実体はないが、そのうちに…。天地開闢以来の死人という死人が戻ってくる恐怖を描くマキャモンの「幽霊世界」。他にキャンベル、グラント等17人の精鋭が悪夢の世界を描きだすモダンホラー・アンソロジー。
セントラル・パーク動物園で、レッサーパンダが殺された。現場に残された一枚の大きな羽根。やったのは猛禽類。刑事トリノの疑念は、女性鳥類学者アントニアの協力を得るうちに確信へと変わってゆく。そして、ついに人間の犠牲者が…。そのころ、一人の鷹匠が大都会をめざしていた。ブルンヒルト。妻と幼い息子の命を奪って逃げた狗鷲。刻一刻、宿命の対決が近づいていた。
姑と突然、同居することになった長男の嫁美里。ちょっと古いけどステキな家に、おじいちゃんと夫の弟夫婦もまじえて6人の大家族。仕事しながら家事やって、強力な姑と対決してスーパーウーマン美里がんばる。ホームコメディドラマの小説版。
ブルトンの手法を完璧に凝縮した最高傑作。『ナジャ』『通底器』に比肩される『狂気の愛』は、その難解さのゆえに、本邦初訳を本書の出現まで待たねばならなかった。フーコーの「狂気の理性」に通底する問題作。新装登場。
米、第7艦隊護衛空母群への戦艦大和以下、長門、金剛,榛名の主砲の一斉射が開始された。肉追する大和の艦橋で、第二艦隊司令長官・栗田中将は、残存する艦艇を、このままレイテ湾に突入させるつもりだった。だが、第一戦隊の司令官宇垣中将はそれを止めた。いぶかる栗田に宇垣は故山本五十六元連合艦隊司令長官の遺書を見せる。そこには海軍なりの戦争終結へむけたメッセージが記されていた。栗田中将の全艦突入を思いとどまらせたオペレーション・ゼロとは。