1995年9月発売
火星ではひとりが一個、銀色のボール状のパーソナル人工脳PABを持っている。PABは、子供が誕生したその日から経験データを蓄積し、巨大企業・秋沙能研所有の都市部を覆うアイサネットを通じて制御され、人工副脳となるのだ。そして、事実上火星を支配する秋沙能研の当主である秋沙享臣は「帝王」と呼ばれていた…。人間を凌駕する機械知性の存在を問う『あなたの魂に安らぎあれ』にはじまる火星三部作の第二作。
自殺をはかりニューヨークの病院に収容された美貌の青年は、ドンファンと名乗った。愛にかけては世界一の男。わずか2歳で女性の美しさに目覚め、16歳で人妻と燃えるような恋をして、21歳までに1500人もの女性と愛し合った男。この青年を担当する精神科医ジャックがドンファンから聞かされる荒唐無稽な恋と冒険の物語は、妄想なのか、それとも事実なのか。現代に生きる伝説の男、ドンファンを描きだす、話題の映画化作品。
エンジェルに親友オオカミ男からSOSの電話が入った。知らぬ間に麻薬の運び屋に仕立てられ、しかも自動車事故でブツを失ってしまい、ブルターニュ国民戦線なる連中に軟禁されているという。麻薬は彼らの資金源だったのだ。ブツを持って行かなければオオカミ男の命はない。ロンドン一のお気楽男エンジェルが友の窮地を救おうと、ヤンキー娘と怪僧を助っ人に大奮闘。英国推理作家協会賞ユーモア賞に輝くシリーズ第三弾。
岡っ引きの勘兵、人呼んで悪勘兵は色事にかけては浪花一の事情通。ある日、同心鮫島様のお呼びで奉行所の門をくぐった。新奉行の御目見得だ。何と色白で頬はぽっちゃり、膝を崩して横座り。隣のお小姓と何やら怪しい。この奉行、名が菅丹波守、略して『すかたん奉行』。勘兵、すかたん様から大事件を探し出せとの仰せを受ける。早速飲み仲間の読本作家・西鶴爺さんのお知恵を拝借する。ユーモア時代小説。
おれの名は松平利春。不幸な死体を解剖、検死する監察医だ。死体の声なき声を聞き、事件解決へ導くてぇんで、刑事(デカ)チョウ達に頼りにされている。熱海へ到着すると、寝台特急あさかぜ2号で男女ふたりが死体で発見されたという。男は久野産業総帥、女は熱海の高級クラブのママ。女を殺して後追い自殺かと考えていた矢先、駅前広場で女の死体が発見された。手掛かりは死体のみ、おれのメスの出番だ。長篇推理。
第二次大戦後の世界に迫る新たな危機、それは1952年7月、天安門広場をつらぬき、南北中国を分断する“北京の壁”で勃発した。ソ連軍は北京をたちまち陥落し、南中国軍は敗走を続ける。一方、科学力に優るはずの日本連合艦隊はソロモン海海戦で、攻撃型潜水艦を駆使したドイツ軍に敗れ、戦艦武蔵をはじめ多くの艦を失い、南太平洋の勢力分布は一気にドイツ帝国に有利となる。53年に入ると、南京を陥落したソ連軍は、なぜか上海の手前で動きを止めてしまった。そこに、蒋介石よりスターリン死亡のニュースがもたらされる。ゲーリングはゲッベルスの勧めに従い、ソ連にヒムラーを送り込む…。統一国連緊急総会でのドイツ制裁決議をうけ、緊張高まる南太平洋に合衆国連合艦隊モンタナ級戦艦が、ついに姿を現わした。
美女伏姫の腹から光を発して飛び散った、仁義礼智忠信考悌の八つの霊玉をそれぞれに持ち、八方に生い立った八犬士。次々と襲いかかる希代の悪人・毒婦達に敢然と立ち向かいながら、遂に八人が対面するまでの波瀾万丈の物語。滝沢馬琴の伝奇小説が、臨場感あふれる挿画とともに、平明な現代語で生き生きとよみがえる。
僕たちは、生きてなくちゃいけないんですか。自殺はなぜいけないんですか。恋人と一緒に死にそこねた少年のテレビで発した言葉が社会を動かす。死んだ彼女に会いたいと、後追い自殺を企てようとする少年。そして街に溢れ、徘徊する自殺志願者の群れ-。自殺した生徒を「舞姫」と崇める女子校で、自らも兄を自殺で失った新任教師もまた、過去と決別するための熱病のような一夏を過ごした。山本賞候補作家が放つ魂を揺さぶる書き下ろし長編小説。
刑事だった妹が自動車に爆発物を仕掛けられて殺された。誰が、何のために。上院の調査監視分科委員会で顧問を務める兄のベンジャミンは、真相を探るため帰郷した。分科委員会から受けた重要な使命を遂行しつつ、彼は事件の調査を始める。やがて謎に満ちた妹の私生活が明かされるが…鮮烈なサスペンスが貫くアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。
“執筆22年間の長編小説”翻訳成る。華厳経「入法界品」の南巡童子善財が真理を求め歩く長い求道の遍歴の一代記。菩薩の行を具足するために南インド旅行に出かけ53人の師匠を訪ね歩き、ついに大団円を成し究極の境地に至る。
フーコー、ドゥルーズ、デリダらにはかりしれない影響を与えた巨星アルトー、その壮絶をきわめた生涯の最後を小説として描きつつ、彼の思考の核心をしめす異才による新しいスタイルの文学。
三ページ目から、わたしは憎しみに満たされた…憎悪の奔流に溺れながらも、わたしは、この新作がニコラ・ファブリをフランスで第一級の作家に押し上げることをはっきりと予感した。彼の以前の作品と比べて、テーマは新鮮で感動的だし、文体は力強く活力がみなぎっている…復讐の成就のために、この小説の成功を利用できる、とわたしは一瞬のうちに悟った。本が凶器となる犯罪。ページに毒が塗られることもなく、ましてや鈍器として使われるわけではもちろんなく、その存在こそが凶器となる…。「エル」読者賞、ジョワンヴィル市シネレクト賞、フランス推理小説大賞受賞。