1995年発売
人が他人のために祈る時、どうすれば通じるのだろうか…。鉄拳制裁も辞さない老監督は、引退試合を終えた日の明け方、糸のようなその月に向かって両手を合わせていた。表題作ほか、選考委員の激賞を受けた「切子皿」など、野球に関わる人びとを通じて人生の機微を描いた連作短篇集。感動の直木賞受賞作。
ロンの妻が最後に彼を見たのは、四月のある晩のことだった。前妻の件で諍いをした彼は、友達の待つ別荘へと向かい──それきり、いっさいの消息を絶った。あとに残された友人たちは、浮かれ騒ぎと悲哀をこもごも味わいながら、ロンの行方を探そうとするが……。自然な物語の奥に巧妙きわまりない手際で埋めこまれた心の謎とは何か? 他に類を見ない高みに達した鬼才の最高傑作。
東京タワーの展望台から一人の男が忽然と姿を消した、トレードマークでもある口髭とベレー帽を残して──。折しもプロ野球日本シリーズ開幕直前、消えたのは弱小球団を大一番まで導いた監督その人だった。一転窮地に追い込まれた球団は代理監督を立ててシリーズに臨むが、白熱する試合の裏では更なる不可解な事件が。野球小説とミステリの興趣が間然するところなく結びついた快作。
鹿島翔香。高校2年生の平凡な少女。ある日、彼女は昨日の記憶を喪失している事に気づく。そして、彼女の日記には、自分の筆跡で書かれた見覚えの無い文章があった。“あなたは今、混乱している。若松くんに相談なさい…”若松和彦。校内でもトップクラスの秀才。半信半疑ながらも、彼は翔香に何が起こっているのか調べ始める。だが、導き出された事実は、翔香を震撼させた。“そ、んな…嘘よ…”第1回電撃ゲーム小説大賞で金賞を受賞した高畑京一郎が組み上げる時間パズル。最後のピースが嵌る時、運命の秒針が動き出すー。
「あなたはあなたでいいんだから。あなたは長い時間をかけて、よりあなた自身になっていけばいいんだから」中学3年の途中から不登校になった少女の一年。普通に登校している生徒たちの文集。少年院からの声。農村で共同生活する子供たちの手記ー揺れ動く現代社会の中で、様々な危機を抱える子供たちの発する光と影のメッセージと、それを受けとめる大人たちの姿をモザイク的手法で写しとった長篇小説。
日本の歴史上もっとも激動の明治の末から大正、昭和の敗戦まで、阿波吉野川(四国三郎)で生まれ育った若鮎(ヒロイン)が、一枚の見合い写真をたよりに朝鮮半島へ渡り、そして中国大陸へと運命の時流に翻弄されつつ、いかなる淀みにたどり着いたのか…。本書は、その軌跡を赤裸々に綴ったものである。
汚れきった「レインコート」を手放せない男は、なぜか、母の死んだ「島」を執拗に目指して旅をする。山狭を走る夜汽車。彼は隣り客に問う、「狼」はいませんかと。-レインコートとは、島とは、狼とは、何か。
父親のマーチ氏がわが家に戻って三年後、メグはジョン・ブルックと結婚して育児に追われ、ジョーは病身のベスに心を痛めながら作家修業に励み、エイミーは外国で絵の才能をみがく…。それぞれが自分にふさわしい愛と人生を、苦悩し、真摯な思いで見つけていく日々をみずみずしく描く。四人姉妹の輝く青春編。
ある晩、女性の悲鳴を聞いた僕は、駆けつけた部屋で美女の死体を発見。折悪しく住人に見つかり犯人と間違われてしまう。満月の夜に歪んだ欲望をたぎらせて、白いマンションに住む独身女性を次々と襲う恐怖の暴行魔と僕の熾烈な闘いが始まる。最後の一行まで真犯人がわからない超弩級のホラー・ミステリー。
法月綸太郎のもとに深夜かかってきた電話。救いを求めてきたのはあのアイドル歌手畠中有里奈だった。ラジオ局の一室で刺されたはずの自分は無傷で、刺した男が死体で発見される。恐怖と混乱に溢れた悪夢の一夜に耐えきれず、法月父子に助けを願い出た。百鬼夜行のアイドル業界で“少女に何が起こったか”。
若き二人の特攻隊員は、ベートーヴェンの名曲「月光」を、小学生たちの前で弾き、南溟の空に出撃していった。ある夏の日のピアノの響きは、痛切な思い出として刻みこまれた。そして今、過酷な運命に翻弄された青春の行方をさぐる一人の女性がいた。愛と哀しみの感動にあふれるドキュメンタリー・ノベル。
人類最古のDNAを求める探索行で深傷を負ったマロリーは、海洋生物の形態をしたアガサン人のもとで、半人間半機械として再生した。だが「氷瀑」へ戻った彼は伝説的パイロットであるソリの暗殺計画で無実の罪を着せられ、投獄されてしまう。はたして悲惨な獄中生活を生きのびられるのか、そして銀河の究極の謎は。全人類の存亡を左右する謎解明に命を賭けるマロリーの、波瀾に満ちた半生を描く傑作長篇。感動の完結。
18世紀、女王アンの命もあとわずかとなり、イングランドやスコットランドでは王位継承者について取りざたされていた。スコットランド高地地方に住む誇り高き男ロバート・ロイ・マグレガー、通称ロブ・ロイは、飢えに苦しむ一族を救おうとモントロース侯爵から千ポンドの金を借りた。だが、そこに思いもよらぬ罠がしかけられていた…おのれの名誉を守り一族を助けるため、雄々しく戦うロブ・ロイの愛と冒険を描く話題作。
連邦が戦乱に揺れるなか、惑星ハイペリオンでは「時間の墓標」が開き全ての謎が解明される時が近づいていた-人気作家シモンズが雄渾の筆致で描く傑作SF叙事詩ハイペリオン二部作の完結篇。1991年度ローカス賞受賞作。
東西製薬広告部長・宝田十一郎は出張帰りの電車の中で、広告代理店の東京エージェント専務・桂巴絵に声をかけられた。過去に一度だけしか逢ったことのない巴絵の色香に惑わされた宝田は、誘われるままに途中下車し、一夜を共にしてしまう。ほんの遊びのつもりだった宝田は、「もう二人は他人ではなくなったのだから、今度売り出す新製品の宣伝を担当させて頂けません」と迫る巴絵に、愕然となるー。
民族学校からの親友、李哲博と朴政道は、ともに歌舞伎町のホテトル経営者。一攫千金を狙ったポーカーゲーム屋が大当たりし、やがて韓国クラブ、焼き肉屋、ノミ屋、ビル乗っ取りと法の網をかすめて事業を拡大していったが、好事魔多し、裏切りと暴力団の介入で、全財産を失ってしまった。傷つき倒れながらも、若者は今夜も、欲望の街・新宿の夜の河を渡っていく…。傑作長篇。
200X年。米海軍のF14スーパートムキャット撃墜事件を追って謎の多国籍企業オクテッドカンパニーに侵入したジョージ槇原。その目の前に、ついに彼を撃墜した国籍不明機(アンノウン)が姿を現わす。それはCCV機能をフルに発揮したアルト支援戦闘機だった。オクテッドとの戦闘によって負傷した自衛隊レインジャー部隊の碑宮は米海兵隊との接触に成功し、共同作戦をとる。その作戦は試験飛行の際、アルトを奪取することだった。指揮をとるのはCIA職員マックウォルド。一度は成功したかに思えたが、槇原の一瞬のためらいによって計画は失敗。果たして、捕らえられた槇原たちを待ち受ける運命は…。好評ハイテク航空スペクタクル・シリーズ、ここに完結。
「好きな時に魚雷を撃って好きな時に逃げられる」「あんな潜水艦だったら、いつかは乗ってみたい」開戦当初に解体された幻の艦がよみがえろうとしていた-。極秘の海底艦隊司令として迎えられたのは、誰であろう、あの源田実…。根っからの航空屋で飛行機乗りにとっては神様の予期せぬ就任。謎の司令のもと、第一次大戦時ドイツ海軍が造った南海の基地を秘匿の海軍工廠として改造、米太平洋艦隊との決戦準備が進められる。米駆逐艦を得意の高速戦法で撃破、初陣を飾った伊900型潜水艦隊。敵艦に追随を許さぬスピードで圧倒、混乱させ、仕留める-。これこそ源田実大佐究極の秘策、海底の絶体国防圏構想を完成させる日本海軍“最後で最強”の秘密兵器だったのである。