1996年12月発売
ある昼さがり、明子が受けた一本の電話。高校時代の級友、夕子からだ。ところが春のクラス会の予定を告げた後、彼女の「あーっ」という悲鳴をのこし、電話は一方的に切れてしまう。ほどなく自宅の電話機の前で、絞殺死体となった発見された夕子。事件の渦に、否も応もなく巻き込まれた形の明子だったが…。待ちかまえる四つの怪事件に、「葬儀屋探偵」明子の推理が光る、爽快活躍篇。
七歳のぼくは、病気のパパのお見舞いにNYに来た。でもママが、おばあちゃんにもらったメダルをお財布ごと落しちゃったんだ。ぼくはそれを拾った女の人を必死に追いかけた。パパを救ってくれる大事なお守りだもの。ところがその人の家には、脱獄犯の弟がお金をせびろうと待ち構えていた。そしてぼくを人質にして逃亡しようとした…。感動とサスペンス溢れるクリスマスの追跡劇。
『太陽がいっぱい』で人気を博したハイスミスの「トム・リプリー・シリーズ」の一作。暗黒世界を飄々と渡り歩く自由人、トムに執着するフランク少年。ふたりの奇妙な出会いは、「父親殺し」を軸に急展開する。少年を破滅から救おうとトムは奔走するが…。犯罪が結んだ、男と少年の危険な関係を描くハイスミス晩年の力作。
異なるふたつの世界が、突然の次元衝突によって接触…それぞれの世界のそれぞれの国のバランスが崩れてしまった。精霊の加護を受け繁栄してきた国、トレニティーアも例外ではなかった。精霊との約束が封じられている四つの香炉のうち“風の香炉”が、隣国ダライアンデの傭兵部隊に盗まれ、異世界に持ち出されてしまう。ダライアンデに脅威を抱くトレニティーアは、炎の精霊騎士・レイガハルを香炉奪還の使者として異世界-日本へ送る。が、彼を待ち受けていたのは、ダライアンデが放った凶悪な刺客・三色竜騎兵だった…愛とロマン溢れる感動のアクション・ファンタジー巨編がいま始まる。
内閣調査室の結城浩司とともに、死闘の末ダライアンデの刺客、三色竜騎兵をなんとか退けたレイガハルだったが、盗まれた“風の香炉”の行方は依然として掴めなかった。レイガハルの精霊の力も何故か通じず、香炉探索は難航。悩んだあげく、手がかりを求めるためにいったんトレニティーアへ戻ることにした。レイガハルは結城をともない、再び次元を越える…しかし、彼らを出迎えたのはダライアンデの騎士達だった。日本との次元を繋ぐ“精霊門”のあるマグス王国は、すでにダライアンデに占拠されていたのである。
現代ドイツ文学界の傑出した頭脳が生んだ滅亡と再生の神話世界。黒海沿岸の流刑地で果てた古代ローマの大詩人オウィディウス。その遺稿『メタモルフォーセース』を求めてローマを出立した男が世界の果てに見たものは…。
僕たちは知ってしまっている。愛が終わるということ、子供が奪われるということ、両親が自分の人生は無意味だったと感じながら死を迎えるということ…ッツァー賞作家が描く、滑稽で哀しい6つの物語。
昭和はじめの浅草を舞台にした川端康成の都市小説。不良集団「浅草紅団」の女首領・弓子に案内されつつ、“私”は浅草の路地に生きる人々の歓び哀感を探訪する。カジノ・フォウリイの出し物と踊子達。浮浪者と娼婦。関東大震災以降の変貌する都会風俗と、昭和恐慌の影さす終末的な不安と喧騒の世情をルポタージュ風に描出した昭和モダニズム文学の名篇。続篇「浅草祭」併録。
「マンクンク、おまえは破壊者だ!」「「力」と、「力」に敬意を捧げるタムタムをひっくり返す者」と運命づけられ、大河に、氏族の王に、植民地支配の異人に、そして、自分の社会そのものに挑んでいった永遠の革命児マンダラ・マンクンク。コンゴのとあるバナナ畑で孤独な生を受け、長じては偉大な“ンガンガ”(呪術師)となった男が、半世紀に及ぶ試練の旅を乗り越えて、最後に見たものは…。「知」と「力」を巡る現代アフリカの創世神話。人間の根源に迫るアフリカ大河小説。1988年のブラックアフリカ文学大賞を受賞。
「あなたはもうりっぱに一人前の男。だからあちこち女に手を出しちゃいけんと。キクちゃんだけを可愛がって」と円太郎を諭す隣家の人妻アレ。しかし主人公・里見円太郎も14歳。旺盛な性への探求心はあふれんばかりである。幼馴染みのキクとの“相互愛撫”から村で一、二を争う器量よしの間垣ナミに抱かれる快美感と、とどまるところを知らず。村の男たちの交情話にもますます性への想いをつのらせる円太郎であった。傑作大河性愛小説。
歯科医院で働く二十歳の姉と、自動車修理工場で働く十七歳の弟。父の死、母の出奔により別々に育った姉弟が十年ぶりに再会したその年、北国は百日紅の咲かない寒い夏を迎えていた。怪しげな商事会社の暗躍、それぞれのどうにもならない愛情問題、お互いの心の奥底の欲求…育まれた悲劇の芽は次第に大きく育ち、巨木となって二人に襲いかかった。北国の姉弟の悲しい運命を静かに描き上げる三浦文学の新しい結晶。
静謐な狂気としての私小説。一九九三年第六回三島由紀夫賞を受賞した『塩壺の匙』以後に発表され、日本文学の伝統である“世捨人の文学”と評された表題作『漂流物』と、『虫の息』『木枯し』『抜髪』『物騒』『めっきり』の六編のほか、掌編小説『愚か者』(12作)を収録。
風雲の幕末、軍事顧問団員として来日した仏人士官ブリュネは滅びゆく幕府軍に身を投じ、遙か箱館五稜郭まで戦い抜く…。義に生きた男の「侠血」を軸に真っ向から維新史に挑む、十年の歳月をかけた遺作。維新史を描く歴史文学の新たなる古典。