1996年発売
紘道館の俊英姿三四郎に、苛烈な試練が次々と襲いかかる。柔術諸派との興廃を賭けた対決につづくアメリカ人ボクサーとの変則的な興行。その陰には、怨みを越えて彼を慕う乙美を身売りから救おうとする強い決意が秘められていた。だが、金銭を得る興行は、紘道館からの破門を意味していた…。快男児の激情と懊悩を、柔道の苦難の青春期に重ね合わせて描く渾身のロマン、いよいよ波乱万丈。
淀君こそ史上最高の美女。雑誌編集者の誠之助が大坂城趾で艶麗な姿態を夢想したとたん、石垣は崩れ、彼は慶長十九年の城内にタイムスリップした。洋服姿から切支丹と疑われるが、歴史知識を活用、神の予言者として信頼と人気を集める。そして、ついに憧れの淀君の寝所へ招かれた。だが、彼も歴史を変えることはできなかった…。SF的発想と確かな史眼で、落城の悲劇を軽妙に描く異色の快作。
河童を思わせる愛嬌者、曽呂利新左衛門は、堺でも知られた鞘細工の名人だった。信長の知遇を得るはずの日に起きた本能寺の変が、彼の運命を一変させた。雑賀衆の軍師として秀吉軍と戦い惨敗、堺に舞い戻った彼を、突然秀吉が訪ねてきた。猿面と河童面の奇妙な交流が始まる。その陰で、淡い恋が生まれ、消えた…。戦国乱世を、才覚と度胸で飄々と生きた奇人の姿を、骨太に描き出した歴史小説。
「壮烈な撃墜死」は軍部の捏造だった。戦史をリアルに覆す実録小説。海軍の高官と思しきその男は、乗機が墜落したあとも、しばらく生きていたものと推測された。致命傷は、敵機の機銃でなく、自らの手によるものらしかった。しかし軍医は、事実をありのままに記し止めることを禁じられ、目撃者たちは最前線に赴かされて次々と戦死していった…。真珠湾の英雄を、あくまで英雄として葬るために、自決は伏せられ、また伏せられるために多くの血が流れた…。綿密な史料を駆使してブーゲンビル島秘話を再現する、大作ノンフィクションノベル。
日米開戦は、ルーズベルト米大統領の陰謀だった。昭和16年の夏、日本を第二次世界大戦に巻き込もうとしていたのは、それぞれの思惑のもと、アメリカだけでなく、イギリス、ドイツの列強国だった。イギリスは、日本参戦によるアメリカの対ドイツ参戦を望み、ドイツは、ドイツ軍正面のソ連軍の満州派遣を望んでいたのである。遂に日本は、右に行こうと、左に行こうと、戦争へのみちしかなくなった。閉ざされた戦争の嵐の中、ひたすら戦争突入を回避しようとしていた山本五十六連合艦隊司令長官も、米海軍の挑発で連合艦隊を出撃させた。しかし、海軍工廠で建造中の超戦艦はまだ完成していない。日米対決の行方を左右する、戦艦大和をはるかにしのぐ50センチ砲搭載の超戦艦の建造が急ピッチで進められていた。書下ろし長編戦記シミュレーション。
冷たい家族への反発は、秀の外見や行動を不良のようにさせる。それでも秀の純な心は出口を求めて彷徨っている。秀の気持ちを理解するのは、耳の不自由な未希生ただひとり。でも秀は未希生に対して、誰にも言えない負目があった。美貌の文彦との再会によって、秀の秘密は未希生に知られることに…。秀の心は、もう誰にも届かないのだろうか…。
2人めの女が寝室にやって来た。ブラジャーとショートパンツという恰好である。「今度はこの女を陶酔させる」と思った直後、矢車は心臓が凍りつくようなショックを受けた。女の手に拳銃が握られていた…。フリーライター矢車敬介のもう1つの顔は、特別秘密捜査官、つまり“隠れ刑事”である。多発する愛欲がらみの犯罪を、危険を顧みず敢然と捜査する…。
慶長5年(1600年)9月、伊達政宗は関ヶ原に向かう徳川家康に呼応し、白石にあって上杉景勝と対峙していた。上杉勢の背後からの追撃を政宗が阻止することは、関ヶ原の決戦勝利の絶対条件。天下の行方を定める鍵を政宗が握ったそのとき、政宗は景勝と密かに和睦、矛先を江戸城攻撃へと翻した。政宗離反を知った家康は、急遽、軍を江戸守備の要・川越城にとって返すが…。江戸攪乱に動く伊達藩の陰の軍団・黒脛巾組の暗躍。家康必死の巻き返し策とは…。歴史の大転換点を大胆な発想で捉えなおす、著者会心の書下ろし歴史傑作シリーズ第一弾。
朝館吾郎、通称オッタチは大スター神宮寺園子のマネージャー。カッコいいのに超あがり症の彼、今日はワイドショーで東都テレビへ。が、本番直前、スタジオでADが殺された。彼の突撃スクープへの恨みかと思われたが、翌日、他局のディレクターも殺され、テレビ局は大混乱し…。
愛妻への不可解な殺意に憑かれ、深夜の町を彷徨する男が絡みとられていく倒錯的なエロスの誘惑。三島由紀夫に捧げられた『一九三三年』ほか全六篇の短篇には、透明な鏡に不意に黒々とした欲望の暗渠が映じるかのような、マンディアルグ特有の異様な、しかし詩的で豊穣なイメージ群が横溢する。
凄腕諜報部員シャルル、その使いっぱしりの俺、ハルキ。初めて会ったその瞬間から奴に惣れちまって、骨抜きにされたあげくこんなアブない稼業に足をつっこんでしまったわけだが…、俺たちの今回の任務-天才少女ピアニストの亡命の一件ではどうもシャルルのようすがおかしい。少女のガードを請け負っている民間警備機構ガーディアンズのひとり、マリィ・アサクラのあでやかな美少女ぶり…それに対しいつもの沈着冷静さを欠いたシャルル…、俺の心は激しくかき乱された…。
ムーミン童話(トーベ・ヤンソン著、全8巻)の主要登場人物、語句、フィンランドの自然および文化的事項等について解説したもの。排列は見出し語の五十音順。解説文中の引用箇所および作品と関連する箇所には、その作品名の略名と章数を示す。底本は青い鳥文庫(講談社)。巻末に事項索引がある。-おとなから子どもまで、すべてのムーミンファン待望の事典。
旅の途中で出会いを重ねた人に言わせれば、僕は変わったらしい旅の途中で彼女を思い出した人に言わせれば、彼女は悪女らしいけれど僕には、「自然」が見てきた。彼と私、二つの遍歴を重ねる野心的長編。
愛は成就されず、成就されるのは愛でないものばかり。十二月の最初の日曜日、十二歳になる侯爵のひとり娘シエルバ・マリアは、市場で、額に白い斑点のある灰色の犬に咬まれた。背丈よりも長い髪の野性の少女は、やがて狂乱する。狂犬病なのか、悪魔にとり憑かれたのか。抑圧された世界に蠢く人々の鬱屈した葛藤を、独特の豊饒なエピソードで描いた、十八世紀半ば、ラテンアメリカ植民地時代のカルタヘーナの物語。
英国ブッカー賞受賞。瀕死のイギリス人患者と若く美しい看護婦ハナ-砂漠の情景から不倫の愛の行方まで、詩的言語に包まれた物語が静かに溢れ出す…カナダ人作家の最高傑作。時は第二次世界大戦の末期である。場所はフィレンツェの北、トスカーナの山腹に立つサン・ジロラーモ屋敷。ここで、四人の男女が出会う。若いカナダ人の看護婦は、ハナ。…ハナの父親の友人で、泥棒のカラバッジョ。…インド人でシーク教徒のキップは、爆弾処理を専門にする工兵。…そして、ベッドに寝たきりながら、その発揮する強大な求心力に三人をつつんでいるイギリス人患者。…心の内にそれぞれの物語を抱え込んだ四人が、互いに相手の物語を読もうとし、そこにすばらしい小説世界が出現する。