1999年発売
いまはなにもしていず、夜の散歩が習慣の19歳の私こと子、おっとりとして頑固な長姉そよちゃん、妙ちきりんで優しい次姉しま子ちゃん、笑顔が健やかで一番平らかな‘小さな弟’律の四人姉弟と、詩人で生活に様々なこだわりを持つ母、規律を重んじる家族想いの父、の六人家族。ちょっと変だけれど幸福な宮坂家の、晩秋から春までの出来事を静かに描いた、不思議で心地よくいとおしい物語。
還暦間近の夫婦に、92歳の父と87歳の母を介護する日がやってきた。母の介護は息子夫婦の苛立ちを募らせ、夫は妻に離婚を申し出るが、それは夫婦間の溝を深めるだけだった。やがて母は痴呆を発症し、父に対して殺意に近い攻撃性を見せつつも、絶食により自ら命を絶つ。そして、夫婦には父の介護が残された…。老親介護の実態を抉り出した、壮絶ながらも静謐な佐江文学の結実点。
101日間の太平洋漂流の末たどりついた南の島から、孫太郎の数奇な半生は始まる。一奴隷としての苛酷な生活のなか、仲間は次々と倒れてゆく。奴隷女アニタとの恋、首狩り族との対決、さまざまな事件があり-やがて孫太郎の目の前に日本へと向うオランダ船が現れるのだが…今から200年程前、江戸時代半ばのことであった。
真犯人を捜し求めて二十年の歳月が流れた。犯人を突き止めた私は、再び深い苦悩にとらわれることになった。妻を殺したのは、結局私だったのかもしれない…。新天地ロサンゼルスでの、あの生涯最悪の一夜。リビングルームに眠る妻、首に絞殺の跡。警察の杜撰な捜査、日系社会の誹謗中傷。長く果てしない闇夜に私は二十年間さまよった。自らの体験にもとづいて、ためらい躓きながらも、何者かに導かれるように完成をみた感動の大作。
いつまでたってもモンスーンがやってこない暑い夏に、最初の雷雨とともに生まれた赤ん坊。長じて郵便局員になった彼は、仕事もいやだし生活もうんざり…。舞台はインド。人の手紙を開封しては、見知らぬ土地に夢を馳せる毎日。なぜだか郵便局長の娘の結婚式で尻丸出しで踊ってクビ。あげく突然グアヴァの樹に登る。なんの因果か聖者様と崇められて、とりまく信者に珍妙なる警句、これまたなぜだか起こる家族スパイ警察軍隊猿まで巻き込む大騒ぎの顛末は…?饒舌な語り。繊細な観察力。奔放な想像力。マサラな香りを漂わせる異色の文学の収穫。98年度ベティー・トラスク賞受賞。
眠らない大都会ニューヨーク。救急救命士の俺は、今夜も静かな夜は過ごせない。心拍停止、呼吸困難、薬物中毒、銃撃事件、交通事故…大都会の夜は、生と死のせめぎあいに満ち溢れている。かつては俺も、そこで人々を救い、それを楽しみ、そこに参加することに生きがいを感じていた。だが、黄色いレインコートを着た少女、ローズを救うことが出来なかった、あの夜からすべては変わった。死んだはずのローズが俺の行く先々に姿を見せ、俺にあの夜を忘れさせてくれないのだ。妻は俺を捨て、仕事のミスも多くなった。救急救命士の仕事は、もはや俺の生きがいではなくなってしまったらしい。そんなある夜、心臓発作を起こした老人の家に呼ばれた俺は、そこで不可解な体験をする…自らも救急救命士であった著者が、その実体験をもとに描き出す、生死と愛憎のドラマ。ニコラス・ケイジ主演、マーティン・スコセッシ監督で映画化の話題作。
日照りに見舞われた夏。干上がったダム底の廃校で肝試しの怪談「百物語」を行った悪童たちは、とんでもない怪物を呼び寄せてしまう!それから二十年、再び廃校に集った関係者たちを“復讐者”が一人また一人と屠っていく。犯人は誰か、その動機は?日本推理作家協会賞受賞作『沈黙の教室』から五年、叙述トリックの粋を凝らして恐怖と謎を紡ぎあげる入魂のダーク・サスペンス“教室シリーズ”第二部。
両親から遠くはなれて、海辺の町に住んでみたいというおもいから、佐伯雄二は豊橋の近くにある大学へ進学。合格祝いにと父からカメラを贈られたのをきっかけに、雄二の生活は写真を中心に廻りはじめるー。中国歴史小説の旗手が爽やかに描く、青春時代の友情と恋の物語。
ジャンヌ・ダルクと共に戦った英雄にして幼児虐殺の半獣神『青ひげ』ジル・ド・レの真実。悪の深淵に魅せられ、極限の祈りを追求する魂の彷徨!十五世紀のフランス。富裕な大貴族であり稀代の快楽殺人者だったジル・ド・レ。究極の悪を犯すため彼に近づいていった若き錬金術師。神と、己の心が欲するものとをひたすら求めた罪深き人間たちが最後に見たものは。構想二十年-今も変わらぬ無限の苦悩と救済を描き尽くした著者渾身の一作。
「白髪というものは、時によって白く見えたり黒く見えたりするものですね」-知りもしない唄をゆるゆると、うろ声を長く引いて唄うような気分。索漠と紙一重の恍惚感…。老鏡へ向かう男の奇妙に明るい日常に、なだれこむ過去、死者の声。生と死が、正気と狂気が、夢とうつつが、そして滑稽と凄惨とが背中合せのまま、日々に楽天。したたかな、その生態の記録。毎日芸術賞受賞。
演出家のルークは、祖母コンスタンスの遺品にあった手紙に心を奪われていた。それは、舞台女優の祖母が愛弟子として慈しみ育てた、ジェシカの24年間にわたる親交の手紙だった。スターの道を歩む34歳のジェシカを襲った6年前の列車事故。彼女の人生は暗転した。ルークは、ジェシカが住むロペス島に飛んだが、かいま見た彼女の容貌にショックを受け、心痛の思いでその場を立ち去る…。
夫が肺癌で死んだのは、長年の喫煙が原因だー未亡人はタバコ会社を相手どって訴訟を起こした。結果いかんでは同様の訴訟が頻発する恐れもある。かくして、原告・被告双方の陪審コンサルタントによる各陪審員へのアプローチが開始された。そんななか、選任手続きを巧みにすり抜け、陪審団に入り込んだ一人の青年がいた…知られざる陪審制度の実態を暴く法廷サスペンスの白眉。
熾烈な陪審員買収工作が水面下で進行するなか、被告側陪審コンサルタントの親玉フィッチに近づいた謎の美女マーリー。彼女は、友人である陪審員ニコラスが評決の鍵を握っているという。はたしてマーリーの目的は何なのか?そして、勝利の女神は原告・被告どちらに微笑むのか…全米の一大産業に挑んだ一組の男女の孤独な闘い。その裏に隠された真の思惑が、いま明らかになる。
植民地の喪失、内戦、フランコ独裁、近代化……19〜20世紀の波瀾万丈のスペイン近現代史をカタルーニャの片隅でひっそりと生きた村人たちの物語。 主な登場人物 関連地図 第一章 エデ ンの 日々 第二章 十三 聖人島 第三章 灰の カレン ダー 第四章 黒い 南西風 エピローグ 終わり なき亡命 「引き船道」 の時代 背景 訳者あとがき
山梨で女性の変死体が発見される。同じ頃、湯布院、河口湖でも男たちの変死体が発見された。無関係の事件として捜査が始まるが、岡山で轢き逃げされた女が消えた事から一連の事件が連続殺人事件である事が判明する。東京では会社員伊村がホステス圭子に誘われ自宅に行く。だが彼女は何者かに殺害されていた。伊村はアリバイを偽証するが敢えなく逮捕された。無実の罪に喘ぐ伊村の夢に現れる紫の蛇。新なる殺人が発生し完璧なアリバイのある人物が全ての殺人を自供した事で事件は暗礁に乗り上げた…。