2000年10月発売
温子と喬。出会いは路上サーキット。温子のポルシェで、パトカーの包囲を逃れた。喬の仕事は窓拭き。温子、建築会社の重役の娘。そしてパキスタン人ハッサンと、タイ人娼婦パティ。パティは客のヤクザを刺殺。温子は父の会社の裏金強奪を企んでいた。交錯しない筈の人生が交差した時、事件は複雑に絡み、よじれる。発端は美術商殺害事件か?事件を追う老刑事と『死神』という殺し屋…。
「まるでお稚児さんのようだ」と言われて育った小柄で色白な青年・一。彼と両親、姉、姉の恋人、妻との関係は、微妙にずれながら日々つながっている。酒をモチーフに、現代人の透明な孤独を映し出す連作長篇。
嵯峨敏也は謎の女からの電話を受けた。嵯峨にとって、かつて催眠療法の教師でもあった精神科医・深崎透の失踪を、木村絵美子という患者に伝えろ。女の声は一方的にそう指示し、電話は切れた。癌に冒され、余命いくばくもない深崎と、絵美子のあいだに芽生えた医師と患者の垣根を越えた愛。だがそこには驚くべき真実が隠されていた-。「催眠」を遙かに凌ぐ感動、異色にして胸を打つラブストーリー。リアリズムとファンタジーの狭間に位置する松岡ワールド最高傑作。
冴え冴えとした月光の射し込む夜半の診察室。消毒薬の匂いがたちこめるベッド。視線を上げた幼い私が眼にした二つの影。母の倫ならぬ恋の目撃者は、自らもその人生の秋に狂おしい恋に堕ちていった-。縊死という悲しい手段で不倫にピリオドを打った母の最期の姿を眼に焼きつけたまま私は身悶えする。月の狂気を纏ったこの恋を、一体どうしたらいい。
刑務所を出たのは灰色の雨の朝だった。警官を死なせた罪を着せられ、棒に振った3年半。いまさらろくな職にありつけるはずもなく、妻の稼ぎにおぶさり酒に溺れる日々が始まる。だが、思いがけず偽装誘拐工作の渦中に巻きこまれたことから、すべてが、めまぐるしい急流へと呑まれてゆく。人生から脱落しかけた男の孤軍奮闘を描く手練のスリラー。
警察を追われて二十数年、今は墓職人をしている原島恭介は、墓地での作業中ホテトル嬢テンコと関わりを持つ。彼女を尾行していた探偵永松を締めあげた原島は、逆に儲け話があるともちかけられた。一方テンコも、バンコクで死んだ男が残したメモを見せ調べてほしいと依頼する。「丹沢の狢」が原島と二つの依頼を結びー。長篇ハードボイルド傑作。
恋愛に憧れ、義兄とボーイフレンドの間で揺れる多感な少女を通して、人を愛することの意味を問う表題作。父が五十二歳の時に生まれたことを恥じている主人公が、自分の誕生に至るまで、父がいかに苛酷な半生を送ったかを知る「この重きバトンを」他一編を収録。『氷点』でデビュー以後、作家活動の初期に発表されながら、二十年もの間、散逸していた三作を収めた幻の作品集。
金融不祥事が明るみに出た大手都銀。強制捜査、逮捕への不安、上層部の葛藤が渦巻く。自らの誇りを賭け、銀行の健全化と再生のために、ミドルたちは組織の呪縛にどう立ち向かうのか。衝撃の経済小説。
金融不祥事が明るみに出た大手都銀。強制捜査、逮捕への不安、上層部の葛藤が渦巻く。自らの誇りを賭け、銀行の健全化と再生のために、ミドルたちは組織の呪縛にどう立ち向かうのか。衝撃の経済小説。
哀しく、それでいて熱い旋律。沢村がつま弾く音に、麗子が目を付けた。麗子は沢村が世話になっているヤクザ者・山城の溺愛する妹だった。麗子は美女の自殺志願者だった。そして、麗子は悪魔だったー。沢村はたった一度の麗子との快楽の代償として、ギタリストの命である指を失った。そればかりか巨大な野獣にいたぶられ、人間としての尊厳をも失った。すべては麗子の罠だった。沢村を指の動かない天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトにするための…。男女の、兄妹の、粘り付くような濃い愛憎を、物語を通して描き切った花村文学の真骨頂。
ダーウィンと同じく“進化論”を唱えたイギリスの博物学者・ウォーレスは、『香港人魚録』という奇書を残して1913年この世を去る。2012年、セントマリア島を訪ねた雑誌記者のビリーは、海難事故で人魚に遭遇する。マリア一号と名付けられたその人魚は、ジェシーという娘に発情してしまう。2015年、沖縄の海で遭難した大学生が、海底にいたにも拘わらず、三ヵ月後無事生還する。人はかつて海に住んでいたとする壮大な説を追って、様々な人間達の欲求が渦巻く。進化論を駆使し、今まで読んだことのない人魚伝説を圧倒的なストーリーテリングで描く渾身作。
新宿の街を震撼させたチャイナマフィア同士の抗争から2年、北京の大物が狙撃され、再び新宿中国系裏社会は不穏な空気に包まれた! 『不夜城』の2年後を描いた、傑作ロマン・ノワール!
作家・吉本ばななさんが涙した、喪われし少女たちの恋の物語。 あまりに切なくて、気持ちが引き裂かれそうになる、そんな恋愛小説ができました。誰もが一度は、こんな恋をしたいと思ったはずなのです。でも誰もが、きっとこんなに純粋ではいられなかったのです。この本は、喪われた少女性を愛してやまない一人の作家が、一行一行を懸命につむいだ最高の恋物語を収めています。本書を読んだ吉本ばななさんは、こんなコメントを下さいました。「この小説は私を泣かせた。文がずばぬけてうまいから? あの時代のたまらなかった気持ちを思い起こさせたから? いや、それだけではない。ここに出てくる主人公たちの高潔な人格が、この汚れた時代を生きていく、ただそれだけで涙を誘うのだ。野ばらちゃん、最高!」どうかご一読下さい。
代議士を曾祖父に持ち、「三沢の矢野様」と呼ばれる豪農の家に生まれた重也は、両親の配慮ですぐに里子に出されてしまう。本家と里子先の貧富の差に思い悩んだ幼年期、養母や親友との死別、関東大震災など、幾多の挫折を経て旧制一高、帝大へと進学。文学者を志望した重也は、フランス文学などの翻訳に精力的に取り組む一方、マルクス主義に惹かれて、共産党に入党。革命運動に身を投じるようになり、党の密命を受けて中国へ渡ることになる-。一代にして大コンツェルンを築き上げた男・矢野重也その数奇な運命を描く大河小説。
自分の理想と共産党の現実に悩み、離党した重也は、党からの激しい批判を受けながらも、地下に潜って文学活動を続けていた。地下活動の最中、ひょんなことから友人と共に再生紙工業を起こし、実業の世界へ進出。再生紙工業が成功し、企業が大きくなるにつれ、重也は自分の中の文学者としての顔と、ビジネスマンとしての顔の間にジレンマを感じ始める。そんな悩みをよそに、重也はラジオ局、テレビ局、新聞社の社長を歴任、史上空前の規模の巨大なマスメディア帝国を築いていくのだった-。マスメディア帝国はいかに構築されたか?波乱の生涯を描く大河小説。