2000年8月発売
餓死するか、盗人となるか。極限に追いこまれた青年の心理と行動から、善と悪の相対性を描いた「羅生門」、自らの芸術のために実の娘を焼き殺してしまう天才絵仏師の狂気を描いた「地獄変」の、表題作二作品のほか、「今昔物語」に着想を得た“王朝もの”を中心とした芥川の代表的中・短篇八作品を収載。「新撰クラシックス」シリーズ、第八作。
その女が、「私」の祖父・村松梢風と暮す鎌倉の家には、独特の空気があった。放蕩三昧の梢風を「文士」に仕立てあげながら、その女は年齢や経歴を様々に偽り、虚構の人生を縦横に紡ぎだしていたのだから。その姿はいつしか、実母は死んだと言い聞かされ、梢風の正妻である祖母と二人きりで育った「私」自身の複雑な生い立ちと、どこかで微妙に交錯し始めた…。泉鏡花文学賞受賞。
なぜ私の世界には光が差し込まないのー。様々な言葉や音楽、そして匂いがアンジュの世界を創造する表題作。伊東君ち、クルド人ゲリラのテント、そしてマサイ族と、世界中を飛び回る「茶の間を旅して」。営業成績抜群の豊臣秀吉に蔑まれ、得意先の徳川家康社長のもとに日参する、サラリーマン明智光秀の物語「カタストロフの理論」。ある日起きると鼻でモノを見ていた「奇蹟の鼻」など、九編を収録。
予備校講師をしている結城可那子のもとに突然、弟のバイク事故死の知らせが届いた。バイクは盗難車、死亡時に大金を持っていたなどの点に不審を抱いた可那子は、事故直前の弟の足取りを追う。浮かび上がる謎の美女の影。その背後にはいったい何が?現代日本を生きる男女の不安と心の渇き、そこに付け入る社会の悪意をみごとに活写したデビュー作。新潮ミステリー倶楽部賞受賞。
すべてを無くしてしまって、人はやっと気付くのだろうか。人もお金も地位もすべて無くしてしまって…。求めていたものがそこには無いことを、丸裸になって初めて気付くのだろうか。失望のどん底に落とされてもなお、人の魂は何かを追い求める。チルチルミチルのようにどこまでも青い鳥を追い求めるものなのか。信仰とは何か、宗教とは何か、人生とは何か…。この小説が問いかけるものは大きい。
同心・木村忠吾が男色の侍に誘拐されて…「男色一本饂飩」。平蔵が乞食浪人に化けて大立廻り…「土蜘蛛の金五郎」。盗んだ三百両を人知れず返しにゆく老盗人の名人芸…「穴」。地震にさえ腰を抜かす弱虫の同心が、妻女を殺されて命をかけての敵討ち…「泣き味噌屋」。他に三篇を収録。
筑後川下流の島に生まれた稔は発明好きで戦前は刀鍛冶、戦中は鉄砲修理、戦後は海苔の加工機製造などをしてきたが、戦死した兵隊や亡き初恋の人、友達、家族の魂の癒しのため島中の墓の骨を集めて白仏を造ろうと思い立つ。明治大正昭和を生きた祖父を描く芥川賞受賞第一作。1999年仏・フェミナ賞外国文学賞を日本人初受賞。
三十年近くコンビナートの荷役をし、酒を飲むだけが楽しみ。そんな男のもとに、十五夜の晩、偶然、転がり込んだ美しい女ー出会うはずのない二人が出会ったとき、今にも壊れそうに軋みながらも、癒しのドラマが始まる。表題作ほか、子供のころ、男と逃げた母親との再会を描く「ピエタ」など全七篇の短篇集。
無邪気に挑発する美少女に、老人はなおも邪な妄想を抱き続けた。野坂昭如、健在を示す短編集。街を恐怖に陥れた性器噛みきり少女の虚ろな心象風景-「少女M」、売春女子高生との全共闘談義-「少女妊娠」、初恋の女性の訃報で帰郷した作家の喪失感-「恋自縛」など、十一の物語を収録。
エホバの命を受け万民を救う夢に燃えた光芒。アヘン戦争から9年後、エホバより世直しの命を受けたという洪秀全は「太平天国」を樹立。理想郷を目指し清朝と対立。太平軍はついに南京を陥し、国都天京と改めた。14年間、世界の注目を集めた新生国家の真実をえぐる超大作。アジア千年王国(ミレニアム)の戦い。
肌に謎の文様。口からこぼれ出るハイビスカス。それは抜き取られた内臓の代わりに詰め込まれたものだった…。沖縄のビーチで次々に発見される若い女性の遺体。一連の猟奇殺人に託された恐るべきメッセージとは!?警視庁から派遣されたエリート刑事・久義英一と心理捜査官・夏目淳子は、捜査線上に浮かび上がる“火傷の男”に辿り着く-。蒼い海、血い花。輝く太陽、過去の闇。新鋭が放つ渾身の書き下ろし長編小説。
南イングランドの丘陵地の片田舎フェアエーカー村。女校長ミス・リードの教える全校児童数40人の小学校に3人の新入生が入学した。新入生と村の人々の暮らしの一年を、女教師の眼を通して、暖かくときに辛辣にユーモアとペーソス溢れる筆致で描く。第二次大戦直後の英国の田園生活が、季節の移ろいの中で鮮やかに描き出される。小さな村の小さな学校の小宇宙。なつかしい記憶。そこには豊かな時間が流れ、私たちは永遠なるものに触れる。著者の筆は、的確な写実により、典型を描いて普遍に至る。
友だちになった人間を救おうとして、瀕死の傷を負ったフラレカナ。不思議な力によって回復した彼を迎え、群れは餌場を求めて“世界の果ての氷”へ向けて旅立つが、そこにかつての豊かな海はなかった。彼らは残された餌場を求めて極洋を渡る。だがそこでも、人間たちの魔手と、彼らのつくった“見えない火”の脅威が待ち受ける。『歌うクジラ』三部作完結編。
樹から下りるのが苦手なファービー家のアレキサンダーは空飛び猫兄妹の末娘ジェーンに助けられ、新メンバーになりました。街でのとっても恐ろしい体験から口がきけなくなっていたジェーンは、アレキサンダーの包容力ですっかりおしゃべりができるようになりました。ね、アレキサンダーってすごいでしょ。
その夏、世紀のポップスター・ジョンは軽井沢で過ごした。家族との素敵な避暑が、ひどい便秘でぶち壊し。あまりの苦しさに病院通いをはじめたジョンの元へ、過去からの亡霊が次々と訪れ始めた…。大ベストセラー小説『最悪』の著者が贈る、ウイットとユーモア、そして温かい思いに溢れた喪失と再生の物語。
絶望から狂気へと向かっていた反町は深夜のコンビニで天才的な演技力をもつ巨大トラックのドライバー・ジュンコに出会う。ゆるぎない眼差しをもつ彼女は血管の中にサナダ虫のような等身大の異生体を宿しているという。そして、二人の奇妙な生活が始まったー。現代社会の病理を予見する村上龍の傑作長編。
千五百年に一度の周期で、仙人は「殺戒」を破る。つまり、気に食わぬヤツを私してしまう、そうである。いまから三千年前の古代中国が、まさにこの周期にあたった。仙人は人間たちの戦争に相乗りする形で、半端な仙人とできすぎた人間を殺し、仙人界でも人間界でもない「神界」に移住させようと計画、実行する。この様子を描いたのが、中国三大神魔小説のひとつ『封神演義』。実在した英雄や暴君も登場し、ノンフィクションとフィクションが折り重なるよう展開するこの歴史スペクタクルの、登場キャラクターにスポットを当てた本書は、仙人や妖怪、人造人間や暴君、英雄までもが煩悩のままに戦う可笑しさを浮き彫りにする。人気漫画家、蔡志忠の独特の解釈でユーモアと機知満載の現代の「説話」。