2001年発売
「世界にただこのことを忘れさせないために、生き残りたいと願った…」強制収容所の最高司令官の“館”の道化師として生きのびた4人の男達の運命。淡々と、シンプルに、しかしながら深く、衝撃的な恐ろしい歴史的事実が暴かれてゆく。「人間は皆この地上での神の宮廷道化師にすぎないのか?」復讐のための長い彷徨は、この問に「否!」と確信する宇宙的な美しい答に辿り着く。人間性への信頼を回復する哲学的歴史ドラマ。
二年三カ月ばかり食らい込んで出所したおれは、保護司の娘に一目惚れ。真人間になります、と厳粛に誓約して幸運にも高嶺の花を手折ることが叶ったのだ。しかし、白波稼業へ返り咲く夢断ち難く悶々と過ごす毎日。そんなおれの肚を読んだわが慧眼の恋女房殿は、なんとなんと「夫婦じゃないの。死ぬも生きるも一緒よ。二人で新しい怪盗を作りましょうよ」と宣うた。さても夫婦善哉。
ヨーロッパの田舎町・フローガスの郊外に建つ、全寮制の男子校ローゼンランツェ学園。その庭園に、真っ赤な絨毯のごとく咲き誇る薔薇、ロサ・アルティーザ。それは、天使のような美貌を持つ少年、ミューゼルの薔薇だった。彼と仲間たちは、とある家に飾られた肖像画に同じ薔薇が描かれているのを見つけるー。絵が物語る伝説とミューゼルの薔薇の関係とは…。
闇に谺する異能者たちの宴。すべては、月が知っている!夜ごとに謎めく怪事件、めくるめくサイファイ・ホラーの万華鏡。あの『二重螺旋の悪魔』から8年、鬼才が仕掛ける初の中短編集。
メンフィスの黒人探偵スモーキーを訪ねてきた若い白人女性ローラはいきなり尋ねた-亡くなった母は、なぜあなたにお金を遺したの?彼にとっても、寝耳に水の問いかけだった。だが、ローラの両親の過去を調べるうち、そこに大きな秘密があることに気づく。その秘密は、彼自身の過去にも何らかの関わりが…そんなおり、人種差別撤廃運動が熱を帯びる街へ、スモーキーの幼な友達であるキング牧師がやってくることになった。爆発寸前のメンフィスを、スモーキーは奔走する!アメリカ探偵作家クラブ賞最終候補作となったハードボイルド巨篇。
全米が注目する大型新人が軽妙な筆致で映し出す、小粋なニューヨーク・ストーリー。ロマンチックなはずのハネムーンに、なんとも不粋なスカンクの闖入者が現われた。ところがジェイコブとレイチェルの場合は、この邪魔者こそが二人の仲を伝説の愛にまで高めたのだった。スカンクがとりもつ不思議な夫婦愛を綴る「ジェイコブの風呂」。美しい女性を誘っては、高価なドレスを買い与えて高級レストランに連れていき、その気にさせておきながら、触れもしない男の奇妙な愛の儀式を描く「マンハッタンでキス」などなど、個性豊かな男女が織りなす都会の人間模様をウィットにくるんで贈る、洒落た連作短篇集。
東京に戻った三年後、“おれ(坊っちゃん)”は、山嵐から赤シャツの死を知らされる。真相を求め、再び四国へ向かう二人だが…。漱石作品に浮かび上がるもう一つの物語。第12回朝日新人文学賞受賞作。
紅茶の季節に、孫娘の赤いくちびるの色に魅せられる祖母の偏愛「赤い唇」。外国にいる恋人に、冷たい感覚の右半身をゆだねる女の幻想「片冷え」。誰かに言いたくてたまらないある言葉への欲望「大統領の死」他人には言えない若い妻の妖しい願望「朱験」。老親の生への偏執「来迎の日」…。現実生活につなぎとめられた異常な感覚を軸に、大人の女のエロチシズムを描く短編集7編。
戦後の混乱期、全米水泳選手権に出場した古橋広之進らは世界新記録を連発し、“フジヤマのトビウオ”と賞賛された。敗戦にうちひしがれていた日本人に勇気と希望を与えた彼らを支えたのは、ひとりの在米日系人ーフレッド・和田勇。そのとき彼は、日本の悲願“東京五輪”誘致を心に決めた…。日本の発展のためにすべてをなげうった「無私の人」の苛烈な生涯を描いたドキュメント・ノベル。
飼育係になりたいがために嘘をついてしまったマサオは、大好きだった羽田先生から嫌われてしまう。先生は、他の誰かが宿題を忘れてきたり授業中騒いでいても、全部マサオのせいにするようになった。クラスメイトまでもがマサオいじめに興じるある日、彼の前に「死にぞこない」の男の子が現われた。書き下ろし長編小説。
都市銀行準大手の白百合銀行。各行が鎬を削る東京・多摩地方で敏腕を揮い、業績を順調に伸ばしていた支店長の鈴木昇は、盛夏のなか大口融資の決済を仰ぎに出向いた本社で、派遣社員の常務秘書と知り合った。さっそく彼女を口説き、食事から酒とお決まりのコースでホテルへ…。だが、美貌の彼女は思いもよらぬモノを持って鈴木の前に…。書き下ろし長篇官能ロマン。