2002年4月発売
昭和末日本を騒然とさせた、あの名著がいま甦る。天皇と日本人、伝統とモダン、近代天皇制に織り込まれた物語を読み解く。第18回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品。
花菱清太郎が家族全員を巻き込んで始めたのは、レンタル家族派遣業。元大衆演劇役者という経歴と経験を武器に意気揚々と張り切ったものの、浮草稼業に楽はなし。失敗につぐ失敗に、借金がかさみ火の車。やがて住む家すらも失い、かつての義理で旅まわりの大衆演劇の一座に加わることとなったがー。はてさて、一家六人の運命やいかに。
死体に書き込まれた意味のない数字…この世を呪う双子の少女…運命を統べる数値を弄び賭博する男…そして、恋人の復讐で連続殺人犯を射殺した刑事・小林洋介の内部に新たに生まれた幾多の人格…。透明な語り部によって刑事・小林洋介の「最後の事件」かつ多重人格探偵・雨宮一彦の「最初の事件」が語られるとき、殺人者へと人を誘うルーシー・モノストーンの歌声がこの世の「真実」を引き裂く。『多重人格探偵サイコ』ワールドのすべてはここからはじまる。
かたくななまでに他人を受け入れようなとしないレンジと、背負った過去の重さゆえに、他人との距離を縮められない吉田。ふたりは、まだ浅い、春の夜に出会った。お互いの存在をそれぞれの心に見いだしつつも、素直になれなくて…。切なさに満ちた恋愛小説。表題作ほか7編を収録。叙情系ファンタスティック作品集。
清朝で五人の皇后を出すという、栄光に包まれた巨大な一族。その末裔で、大伯母に西太后をいただく著者が、清朝崩壊、中華民国成立、国共分裂、中華人民共和国成立さらに文化大革命を経て現代まで、激動の歴史に翻弄される清朝貴族の流転を描く。うつろう時の背後で奏でられるのは「采桑子」の哀切な調べ…西太后の末裔が描く自伝的小説。魯迅文学賞受賞。
許されぬ恋は雨にうち震え、閉じこめられた遙かな思いにライラックは香る。旧き邸によぎる遠い人の面影。革命と動乱はやむことなく、骨肉のあらそいと生死のあわいに京劇の調べはたゆたう。時をこえてひそやかに息づくおさなき日の想い。十四の愛と十四の宿命は、酔うもやるせなく、醒めるもまたやるせない…清朝貴族の斜陽を描く自伝的小説。魯迅文学賞受賞。
閑静な地方都市、Q市。だが大それた犯罪が、市民を街を司法当局を未曾有の大混乱に陥れていた。そこに燦然と現れた乙名探偵、人呼んで“名探偵Z”が人の迷惑省みず、卓越した推理で快刀乱麻と事件を解決する!そんな大活躍をあざ笑うかのように、敢然と闇夜を闊歩し挑戦状を叩きつける名探偵Z最大の強敵“少女怪盗Ψ”!両者の対決は果たして如何ばかりなものであろうか!!不幸にも彼等の巻き起こす大事件担当にされてしまったQ市きっての名捜査官、仙波警部らの心労や如何に。
征台の気運が高まる明治七年、大久保利通は政府内の反対を押し切り清国へ渡る。実権を握る李鴻章を故意に無視して北京へ入った大久保は、五十日に及ぶ滞在の末、ついに平和的解決の糸口をつかむ。一方西郷従道率いる三千人の征台部隊は清との戦闘開始を待ち望んでいた。大久保の処置は兵士達の失望と不満を生む。
台湾撤兵以後、全国的に慢性化している士族の反乱気分を、政府は抑えかねていた。鹿児島の私学校の潰滅を狙う政府は、その戦略として前原一誠を頭目とする長州人集団を潰そうとする。川路利良が放つ密偵は萩において前原を牽制した。しかし、士族の蜂起は熊本の方が早かった。明治九年、神風連ノ乱である。
敗戦後、信介は恐るべき陰謀を知る。占領軍が「忌むべき過去」を断ち切るべく、日本語のローマ字化を図っているのだ。戦時下の日本人を支えたのは国家ではなく、「国のことば」ではなかったか。未曾有の危機に七人の名花・東京セブンローズが立ち向かう。国敗れて国語あり。末長く読みつがれる名編、堂々の完結。
東吾が花世や源太郎を伴って出かけた宝船祭で、村の幼児がさらわれた。時を同じくして、旅篭「かわせみ」に逗留していた名主の嫁が失踪。二つの事件を結びつける手がかりは、奇しくも二十年前の同じ宝船祭で起こった子さらいなのか…。表題作ほか、「冬鳥の恋」「神明ノ原の血闘」「大力お石」「大山まいり」など全八篇を収録。
不能老人の持つ乾いた匂い、義理の息子への激しい肉欲、美に執着する醜い男、異端の老作家の癒しがたい孤独、年下の青年の「手」の感触に惹かれる中年女性…。性愛だけではない、男女のひそやかなエロティシズムの世界を描いた六篇を収める。官能の世界を描き続けてきた著者のエッセンスを凝縮した短篇集。