2002年発売
中山国はこの世から消え去るのかー。隣国趙と成立した講和は一方的に破棄され、趙の苛烈な侵攻は再開した。中山国の邑は次々に落ち、そのさなか中山国王も没した。そして首都の霊寿もついに陥落する。東西の辺土を残すのみとなった祖国の存続をかけ、楽毅は機略を胸に秘め、戦火の消えぬ中山を離れ、燕へと向かった。抗い難い時代の奔流のなか、楽毅はなにを遺そうとしたのか。
ついに中山国は滅亡した。祖国を失った楽毅は趙の主父から仕官の誘いを受けたが、折しも王位の継承をめぐり趙では内戦が勃発。主父は無惨にも餓死に追い込まれた。諸国を転転とし雌伏のときを過ごしていた楽毅の前途に光明がさす。楽毅の将才を高く評価する燕の昭王が三顧の礼で迎え、大望を託そうとしていた…。三国志の諸葛孔明、劉邦らを魅了してやまなかった名将を描く歴史巨編。
はじめてのキスは乾いていて、なめらかで、日ざしの温もりをたたえていた-1960年の夏、ボビー、キャロル、サリー・ジョンの仲良し3人組は11歳だった。夏に終わりがこないように、永遠に友情が続くと信じていた彼らの前に、ひとりの老人が現れる。テッド・ブローティガン。不思議な能力を持つ彼の出現を境に、世界は徐々に変容し始める。貼り紙、路上のチョーク、黄色いコートの男たち。少年と少女を、母を、街を、悪意が覆っていき-。あまりにも不意に、あまりにもあっけなく過ぎ去ってしまう少年の夏を描いた、すべての予兆をはらむ美しき開幕。
新聞記者ポール・アブラーは、ふとした事件からノアという謎の老人の訪問を受け、危機をむかえたこの世界を救うための秘密を学ぶべく、「叡知の学校」に参加する。古代メソポタミア世界での冒険、ニューヨーク地下に広がるトンネルで出会った指導者ジョシュアの教え、そしてついに、神と宇宙と人間をつなぐ「究極の真理」が明かされる。
日本人が目指したライフスタイルのルーツとは 都心に勤めるサラリーマンにとって、東急沿線の住宅地、とりわけ田園調布に一戸建てを持つ、というのが一つのステイタスだが、内実は、満員電車での苦痛な通勤でしかない。そもそものルーツはかの渋沢栄一の息子・秀雄がイギリスのガーデンシティーに魅せられて構想を立てた田園都市計画。しかしこの構想は、五島慶多を始めとする野心あふれる実業家によって欲望に満ちた不動産業へと変貌する。大学の誘致、住宅地と鉄道敷設を一体にした開発、在来私鉄の買収劇など東急王国はみるみる増殖、ロマンあふれる構想はもろくも挫折した。関東大震災後、東京という街がいかにして出来上がっていたかを検証する『ミカドの肖像』の続編ともいえる近代日本論。
十年前の天保の改革の時、風紀を乱すということで、寄席や芝居小屋が厳しく取り締まられたことがあった。その改革の中、娘浄瑠璃は、真っ先に寄席から締め出された。江戸の風紀を乱す、淫らがましい演芸とみなされたのである。その後、水野忠邦が失脚するに至り、にわかに規制のゆるんだ江戸市中には、「雨後の筍」と揶揄されるほど寄席が乱立した。しかし、娘浄瑠璃だけは、いまだに興行を打つことを禁じられている。政に翻弄されながら、芸の道に一途に生きた娘浄瑠璃の哀歌。新進気鋭が書下ろす、長編時代小説。
舞台となるのはメキシコの片田舎にある小さな町セントロである。主人公は元新聞記者のスポーツ・ジャーナリスト。プロレスラーだった父親は、幼い子供と妻を捨ててメキシコに渡り、エル・ソルと名乗ってメキシコのリングで活躍していた。主人公は取材を名目にこの地を訪れるが、真意は別にあった。書き下ろしスポーツ青春小説。
「やめないと、おまえは死ぬ」アメリカのみならず、世界中の女性を魅了し続けるベストセラー作家シャンデリア・ウェルズのもとに届いた脅迫状。断わりきれぬ事情から、タナーはやむなくシャンデリアの身辺警護と事件の調査を引き受ける。次々に噴き出す疑惑の数々-別れた夫、トップの座を奪われた元女王、ふられた大富豪、盗作を叫ぶ作家の卵…だが、犯人の特定はもとより、何をやめろと言うのかすら判然としない。五里霧中のまま、ついに悲劇はタナーの目前で起きてしまった。慙愧の念を胸に、誇りと面子を賭けた、探偵の挑戦が始まる。
1960年代、ウェールズ。港町カーディフのイタリア系移民地区に住むガウチ家は、食べる物にもことかく貧しさに喘いでいた。父フランキーは賭博に溺れ、自分勝手で家庭を顧みない。妻メアリと6人の娘たちはその理不尽な暴力に抵抗するすべを知らなかった。幼い末娘のドロレスは誰にも世話をしてもらえず、生後まもなく家族の不注意による火事で左手指を失っていた。姉たちの心がすさみゆく中、懸命に生きるドロレスがただ一人打ち解けられたのは四女フランだけだった。しかし、炎に異常な執着を持つフランは、廃屋に火を放ち矯正施設に送られてしまう。そんな崩壊寸前の家族にとって、長女チェレスタと裕福な商人との結婚話は、経済的にも幸福の兆しとなるはずだった。しかし結婚式の夜、ついに事件は起こった…ドロレスの無垢な目を通して、絶望の底にいる人間の弱さと哀しさを静かに、鮮烈に映しだす衝撃のデビュー作。
父の迎えを待ちながらピンボール・マシンで遊んだデパート屋上の夕暮れ、火星に雨を降らせようとした田宮さんに恋していたころ、そして、どことも知れぬ異星で電気熊に乗りこんで戦った日々…そんな〈おれ〉の想い出には何かが足りなくて、何かが多すぎる。いったい〈おれ〉はどこから来て、そもそも今どこにいるのだろう?-日本SF大賞受賞の著者が描く、どこかなつかしくて、せつなく、そしてむなしい物語たちの曖昧な記憶。
西暦2006年、突如として水星の地表から噴き上げられた鉱物資源は、やがて、太陽をとりまく直径8000万キロのリングを形成しはじめた。日照量の激減により破滅の危機に瀕する人類。いったい何者が、何の目的でリングを創造したのか?-異星文明への憧れと人類救済という使命の狭間で葛藤する科学者・白石亜紀は、宇宙艦ファランクスによる破壊ミッションへと旅立つが…。星雲賞・SFマガジン読者賞受賞の傑作短篇、待望の長篇化。
20年前の破滅的な隕石落下により、大阪は異形の街と化した。落下地点から半径6キロは危険指定地域とされ、人々の立ち入りは厳重に禁止されていた。五感で世界と融合する奇怪なドラッグ「ネイキッド・スキン」や、全身の皮膚がゼリー化する謎の奇病「麗腐病」をめぐって、危険指定地域を中心に、不気味な人々が入り乱れ、人類社会崩壊の予兆の中、変容してゆく人の意識と世界が醜悪かつ美麗に描かれる。ホラーの鬼才が満を持して世に問う、空前のテクノゴシックSF巨篇。
大物画家の私設美術館の開館日。展示室のドアを開けると、そこは…死体の山だった。オープンを祝う(呪う)かのごとく、聖者殉教の絵そのままに、老人や少女が、腸を引き出され、乳房を抉られ、歯を抜かれ、針鼠になり…。「聖エラスムスは腸を引き出されて殺されるであろう。聖セバスティアヌスは矢を突き刺されて…」招待客の新聞記者・持田の許に届いた不気味な手紙は、殺人予告だったのだ。血まみれの悪夢、狂気の大事件の幕が開く。
売れっ子マンガ家、陣内龍二の婚約者・里美が交通事故で死んだ。ショックのあまり、陣内は、自作のヒロインを作中で殺してしまう。たちまちファンからの抗議が殺到。その中に里美の死を予知した手紙があった。日付は事故の数日前。陣内が手紙の差出し人を訪ねると、神崎美佐という48歳の落着いた女性だった。部屋には作中のキャラクターが飾られ、熱心なファンであることを示している。何故、神崎は里美の死を予知できたのか?そして、予知された死は防げないのか?23歳の俊英が挑む迷宮的ミステリー。